第8話 転生令嬢と自己紹介《ユ》
「ええと…あらためまして、おはようございます」
「「「「「ユリアが、喋ってる!!!」」」」」
「「「「「お嬢様が、挨拶を!!!」」」」」
私は今、少し困っている。
理由は簡単、ユリアちゃんの家族と使用人のこの反応だ。
…率直に言うよ?うるさい。うん、文句無しにうるさい。皆が最大音量で声を合わせて言うもんだから、スピーカー最大並みの音が鳴り響くんだよ。それで、その音がこの身体にはキツいんだよ。
「みなさん、シーッ」
「「「「「「「「「「可愛っ」」」」」」」」」」
んーっ、逆効果!
「…ほんとに、うるさい」
「はっ!そうね。皆、静かにしなさい!」
「君だって叫んでいただろう!?」
「それはそれ、これはこれよ」
「いや、どれだい!?」
「…少なくとも、今1番うるさいのはあなたよ」
「あっ!本当だ!」
絶叫が収まったのは良いんだけど、夫婦漫才が始まってしまった。夫婦漫才って、見てて楽しいね。
「あ、あの…」
「ああ、ユリア。本当にごめんなさいね。でも、我が家って大体こんな感じだから」
「そうですか…」
「それと、敬語は禁止よ。家族なんだから。全く…そんな言葉、どこで覚えたんだか」
「えへへ、おかあさまが、いつもよんでくれたえほんのおんなのこのはなしかたなんです」
「あぁ、あの絵本ね。ユリアは、あの絵本が大好きだったものね。…って、敬語!」
「あ、すみません…じゃなくて、ごめんなさい」
「ふふ、よくできました」
なんか…とっても温かい。前世でも感じたことがある、人の優しさと慈しみ。家族って、いいな。
「あ、あのさ、アリア。静かになら、僕もユリアと話していいかな?」
「私も話したいです!」
「僕もです」
「僕も!」
「そうよね。ユリア、良いかしら?」
「もちろん」
すごく、ユリアちゃんへの思いが伝わってくる。…本人には許可を貰ったけど、やっぱり罪悪感がすごいな。いつか、話せるかな?
「ユリア、もう1回僕のことお父様と、呼んでくれないか?」
「…あなた、ちょっとこっちに来なさい」
「え?アリア、何?え、引っ張らないで!ちょっ、やめて!ねぇ!」
…ユリアちゃんのお父様。第一声がそれは、流石に庇いきれない。
「…ユリア、お父様のことは気にしないでね。あの人、家族のことになるとちょっとあれなだけだから」
「そうなんだよ。ちょっと…ね?」
「お父さまは、変なの!」
ユリアちゃんのお母様であるアリアさんに連れていかれたユリアちゃんのお父様、ナターナエルさん。彼はやっぱり、変人らしい。愛する家族の彼に対する扱いの雑さ…なんか可哀想。
「それよりユリア、私のことが分かるかい?」
「僕のことも、分かる?」
「僕も僕も!」
多いな。兄弟だ。えーっと、確か、名前は…。
「ヨアンおにいさま、シュールおにいさま、クレイ…ですか?」
「うん!そうだよ。知っていてくれていたんだね。あと、私たちにも敬語は不要だ」
「あ、わかりまし…っと、わかったわ!」
「ああ、それで良い」
「ユリア、改めて、起き上がれて良かった。本当に、本当に…嬉しいよ」
「姉さま!」
愛されてる。愛されてるなあ。ユリアちゃんが言うに、ほとんど言葉を交わしたことがないらしい。こんなに可愛い妹、そりゃあ気になるし話したくなるよね。
「ユ、ユリア…ごめんね、僕自分のことしか考えてなかったよ…ごめん、ごめんね。僕は君の父様のナターナエルだよ。いきなり情けない姿見せてごめ…」
「もう!あなた!私、そういうことを言いなさいってことを言いたいんじゃないのよ。もちろん謝罪も必要だけど、ずっとそればっかりでも気が滅入るでしょうが!!!そう言っている今のあなたが1番情けないわよ!」
ナターナエルさん…ナターナエルさん!!!ねぇ、この家大丈夫!?この人が主人って大丈夫なの!?いやでも、見事にアリアさんに尻に敷かれてるから逆に大丈夫なのかな…?
「ええっと…よし!ユリア、回復おめでとう!分かるとは思うけど、ここはピンクコスモス伯爵家。そしてユリアはここの長女だよ。今まで病のせいでできなかったこと、これからたくさんやっていこうね!改めて、よろしく。愛しているよ…ねえ、アリア!これで良いよね!」
「ウフフ~、最後がなければ完璧だったわよ!」
賑やかで、愛に溢れた良い家族。これからこの家で、ユリアちゃんの代わりに私は人生を歩む。嬉しいし、未来への期待に胸が踊る。でも、なのに…踊る胸がどこか痛むのは、何故なんだろう。
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