メモ1

@Yoyodyne

***

結局蓋を開ければ簡単な話だ。

そもそも”それ”を必要としてなかったのだから。”それ”を産んでしまった。全くの不注意で…”それ”は人に取り憑き認識を居住地と栄養源に寄生し続ける。”それ”は産まれてしまえばある種の強制力を発揮するため拒絶することができない。

”それ”は微笑みかける。いやホントのところ微笑んではいないだろう。単にただある”それ”を良いように自分の願望を投影しているだけだ。

”それ”を知ることはかなわない。しかし、”それ”に対する無知を表明するには”それ”について常々抱いてきた誤認を吐露する必要がある。

”それ”を知覚することに━”それ”は無限に”それ”の似像を産みその両端を知ることは閉鎖的知性には全くできない━完全に行き詰まりを感じ、次第に追い詰められていった。どれだけ具体的に描写をしようとも間隙が残り続ける”それ”は”それ”が齎す恍惚感または狂気、その両方が混淆した疎外の根本原理によって人の自己保存の本能を揺るがし不安にさせますます”それ”にのめり込ませた。

表面上は皮相的な態度を取ることで”それ”を会得できない状況から逃避していた。しかし、”それ”が身体の裏側に貼りついて離れない感覚(錯覚かもしれないが…)を拭い去ることができなかった。”それ”の残滓が行く先々で現れた。”それ”らは”それ”が存在した確たる証拠にはならなかったが、”それ”がそこに存在したことを強く意識させた。”それ”の感覚は記憶の中に沈降し虚偽記憶と見分けがつかなくなる。メランコリアの大海に飲まれた”それ”は水圧によって圧縮されても比容が変わることがない。”それ”は夜ごとサキュバスのように正気と精気を奪い縁から縁へと舐め回し吸い尽くした。人は”それ”を想い感傷に浸り”それ”に服從し万物に”それ”を見出し畏怖し遠ざけようとする。中枢に凝集しながら他方では無数に分裂して無として点粒子のように辺りに漂っている。不可知の織り成す肛門と口の交差も裏表もない接続。口が入れる穴なら肛門も入れる穴に肛門が出る穴なら口も出る穴になる。本質は表象に取って代わり物事は表層のみになり、永遠に思索は”それ”の入ったブラックボックスの表面をなぞり続けるだけになる。”それ”が今いるという感覚は脈絡なく意識に立ち上り焦燥させる。絶対は個人的な認識論的切断のための道具立てに開発されたものだ。絶対は効果が持続する限りで”それ”と人を切り離し無害なガラスの向こう側の鑑賞物にする。人格を持ちながら物でもある”それ”。誰でもあって誰でもない。どこにでもあってどこにもいない。近似としての前衛は志向性を持った抽象名詞でしかない”それ”をよりリアルに厳密な定義が不可能な流転する自然=”それ”、確証を放棄することで”それ”についてあれこれと語ることを可能にする。”それ”はダブルクォーテーションで括られている。”それ”は”それ”でありながら”それ”ではない。”それ”はそうだろう。”それ”は未知のメカニズムを持って具体物たちを抽象物に変換してしまう。旧い記憶が消えるように、思い出せないものにも形体が存在するがそれを正確に言語化することは叶わない。人が老い付属した連関から切り離されやがて衰退しバイタルサインも消え失せ死を迎え細菌に分解されるか血と親等という虚しい集団妄想の肩書を持った者に焼かれあるいは地に埋められその存在の消失を早めるかそれに抗い肉を永続保存させ不死化し(なぜか?それの前駆体である彼らにとっては魂や心的存在、意識は非存在のため物的に科学的に存在していることを証し得る肉体だけが人間であるから)"それ"の皮肉となりある種の象徴として生き続ける。

癌の増殖は無限ではない。

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