第14話
事件後、木星政府の陰謀は明るみに出ることになり、木星政府は身寄りのない子供を使った生体パーツ研究は凍結され、その責任者もすべて逮捕される事となった。
首相も責任を取って退陣、木星の動乱が落ち着くまでには暫くの時間が必要だろう。
しかし、当然カスタムチャイルドの生き残りもその罪を裁かれ、一定以上の年齢のメンバーは逮捕されることとなる。
「じゃあ、何か困ったことは無いんだな」
「えぇ、刑務所の皆さんも親切にしてくれますし。薬だって用意してもらえるんですよ。
3時間以上起きていられる事に不安がる子もいるぐらいなんです。
本当に、何とお礼をして良いのか」
「お前をここにぶち込んだのは俺だぜ」
「あなたは助けてくれたんですよ、命だけじゃなくて、私達の心を。
あなたが大人として私達を助けてくれたから、下の子たちも大人を信用して校正プログラムから逃げ出さずにいるわけですし」
仁は、逮捕されたメンバーの一人であるタキの面会に訪れていた。
彼女が仁との面会を強く要求しているとの声に仁が答えた形である。
「よせよ、感謝されるような事はしてない。俺は身を守っただけだ。
……そろそろ時間か」
席を立とうとした仁に、タキは慌てて席から立った。
「あのっ!
私、刑期が終わったら国連捜査官になろうと思うんです!
……それが、私の犯した罪への償いになると思うから」
国連捜査官は非常に死傷率が高い役職であり、常に人手不足である。
彼女がメンタルモニタリングと能力試験を突破できるのであれば、彼女の犯罪歴はあまり問題にはならないであろう。
「あんまりお勧めできる仕事じゃあないが……あんたの今後を祈ってるよ。
じゃあな」
仁はタキのお礼の言葉を受けながら、面会室を後にする。
外にはミーシャが彼を待っていた。
「彼女、どうだった?」
「元気そうだったぜ。
国連捜査官になりたいんだとよ」
「えぇ~?
それはあんまりお勧めしないけどなぁ」
「待てよ、俺をこの仕事に連れ込んだお前が言うのか」
「聞こえない聞こえない」
二人は刑務所のガラス張りのフロアで足を止めた。
この刑務所は月のコロニー内にあった。ここから見える地球は密かな観光スポットとして人気を博しており、一般公開もされていたりもする。
「綺麗だね」
「あぁ」
二人は暫し青く輝く地球を眺めていた。
ミーシャの鼻歌は、彼女がタイタン行きの宇宙船の中で歌ったFly Me to the Moonである。
過去の人々は、宇宙と恋への憧れを絡めて歌にした。
しかし、人々が宇宙に出た現代においても、宇宙進出により新たな火種は生まれ、人々は未だ誠実さを持てずにいる。
そんな未来を知っても、過去の人々は月に憧れ、星々に囲まれて歌うことを願うのだろうか?
ミーシャは鼻歌に思いを預けながら、珍しくも祈った。
それでもこの世界をタキや子供たちが愛してくれることを願って。
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