第4話

 宇宙港には、マミにハッキングされた者たちで溢れかえっていた。

 電脳越しに操作された兵士や四足歩行の自動兵器は地元の警察官や兵士たちをあっさりを全滅させ、追撃してくるであろう二人の追手を待ち構えていた。

 バイクの爆音に彼らが気が付くよりも早く、バイクから放たれたマイクロミサイルの前が彼らを粉々に叩き壊す。

 ジェットエンジンを限界近くまで稼働させ、追手がその姿を捉える暇もなくバイクは宇宙船へと迫る。

 しかし、タイムリミットが先に訪れた。

「船が……!」

 宇宙船は離陸シークエンスを始めようとしている。

 仁は歯を食いしばり、バイクのアクセルを最大にまで振り絞る。

 人体改造を施した二人ですら気絶しそうなGが意識を揺さぶるが、仁はそれでも加速を辞めない。

 宇宙船が地上から浮遊し始めると同時に、バイクは乗客用の移動階段にウィリー走行で突っ込むとそのまま空を舞った。

 宇宙船の壁面に肉薄した瞬間、二人はバイクを乗り捨てる。

 ミーシャの警棒が宇宙船の壁面をなぞった。

 甲高い音と共に、宇宙船の壁面が四角形に切断される。

 二人はその穴に転がり込んだ。

「お、俺のバイクが……」

 項垂れる仁の背中をミーシャが叩く。

「世界の平和に比べれば安い!」

「こんな世界救う価値ねぇよぉ」

「自分で飛び込んだんでしょうが」

 一歩間違えば死ぬような一コマも、彼らにとっては日常茶飯事であるようだった。

 どこまでもマイペースな二人をせかす様に、宇宙船の警報が鳴り響く。

「壁面に穴開けちゃったし、宇宙に近づくまでにマミを止めないとね。

 所要時間は……後3分!?」

「なぁ、明日から縄文時代に戻ろうぜ!

 テクノロジーなんかない平和な世の中だ、最高じゃねぇか!?」

「馬鹿言ってないで走る!

 あと、縄文時代にも争いはあったからね!」

 電子妖精が楽しそうに叫んだ。

――世界が滅ぶまで後3分!世界を救うまで後3分!


 マザーコンピュータの名称で開発されていた人造人間、通称マミはひっきりなしに届く宇宙船への停止命令を全て拒否し、操縦席に背を預けた。

 愚かな人類を自分が救わなければならない、彼女はその使命感に燃えている。

 息子に対する無責任な自信を見せる母親の様に、彼女は人類を導くつもりであった。

 軍のスクランブル発進は彼女が送り込んだドローンの大群によって食い止められている。

 この段階まで来てしまえば、彼女が宇宙へ進出するのを止められる存在はいないだろう。

 命知らずの馬鹿2人以外には。

 警報が宇宙船内に鳴り響く。マミは初めて困惑の表情を浮かべた。

既に離陸していた船内にどうやって侵入したのか。

想定外に戸惑いつつも、マミは操縦席から飛び降りる。

「よお、また会ったな」

 敵は既にこの場に辿り着いていた。

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