28話 傭兵blue

 漆黒の宵闇に包まれる、森。

 風に吹かれるざわめきが、静かな喧騒をもたらす。

 そんな暗闇を走る男が1人。

 名をダン。ダン・サルタト。

 そして、とある人物たちにとっては馴染み深いであろう、もう一つの名前、カイレその人である。


「一体どこに……」

 彼は、真っ黒な空気を光も出さず走り続ける。

 何かを探すように、何かを求めるように。

 後ろから光が刺す。圧倒的な重みを持った熱波とともに。

「まずい…!」

 熱波に気づいたダンは近くの大岩に身を隠す。大岩が自らの身を粉にして守ってくれたおかげで、ダンはかすり傷程度で済んだ。

 だが、大岩も自らを犠牲にしたおかげで、その次の災厄から、転がり込んできた主人を守ることはできなかった。

 熱波の衝突先からは、うじゃうじゃと泉のように湧き出てくるマリウス魔法生物。漆黒の角と、瓦礫のように成った四肢を持つ獣たちは、こっちへと迫ってくる。


 ダンは振り向き拳銃の引き金を躊躇わず引く。火薬により加速させられた鉛の塊は、鋭い夜の空気を纏い、一直線にマリウスへ向かっていく。

 発射された弾は四つ。装填されていた弾数の80%だ。

 弾の行方など気にすることなく、ダンは走っていく。

(奴ら…。どこであれを…。)

 身を隠せる場所をみつけ、なんとか隠れる。ようやく一息つけるところで、思考をまとめ始めた

(あれを手に入れて、燃やし尽くして、何がしたい…。)

 それは陰謀か、策略か、はたまた気まぐれなのか。

 森が炎の森へと塗り替えられる中、目的が何かと考える。

(俺がシナノ仲間たちから情報を受け取り、詳しいことを聞こうとその場所に向かおうとした途端こうなった。見られていたか…?いや、偶然かもしれない)

 拳銃に追加の弾薬を装填する。

 

 携帯が鳴る。

「シナノ?」

 ダンは、急な連絡に驚きはしたが、彼が急なのはいつものことなので、すぐに納得した。

 それよりも、新たな情報と彼らに今の状態を伝えるため、電話に出ることにした

「どうした?シナノ。こちらの状況だが…」

『よお兄弟!久しぶりだな!元気にしてたか?そっちでの暮らしはどうだ?友達できた?俺は人見知りのお前が心配で心配で、夜しか眠れないよ』

 電話口から聞こえてくる、人当たりのいい陽気な声。ダンの同僚兼、ダンの親友(自称)シナノだ

「ああ。俺は元気だ。いや、すまない嘘をついた。今は元気じゃないかもしれない」

 シナノの世間話に正直に答えるダン。

『そうかそうか。今夜は枕を高くして眠れそう…ん?元気じゃない?何があった?ダン』

「そちらに向かう最中。奴ら…、“研究所“の襲撃にあった。今は裏で森が燃えている」

『何!?了解した。すぐに迎えを向かわせる』

「いや、やめたほうがいいだろう。マリウスの数が多すぎる。人を送ったところで、混乱するだけだ。ここは俺一人で切り抜ける」

『了解した。くれぐれも無理はするなよ。あとできればこの通話を切らないで欲しい。状況の確認がしたい』

「すまないそれは無理かもしれない。」

『どうして?』

「俺は今、囲まれてるからな」

 ダンはそう言い残し、電話を切った

 そして、暗闇を振り返らず駆け抜けていった

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「どういうことだ!?おい!ダン!?」

 携帯電話に対して叫ぶ男が、白い壁と、椅子、そしてホワイトボードだけがある部屋にいた。

 茶髪がかった長い黒髪を後頭部で一本に結えた髪型。女性のような整った顔立ちながらも、どこか凛々しさを感じる顔。そしてスラリと伸びたモデルのような体型。どこをとっても美少年の言えるような出立ちだ。

 彼の名をシナノ。ダンの親友(自称)であり、色々な場所に武力介入という形で陰謀を阻止する傭兵組織、「サイト」の一員である。


「切れた…」

 電話の奥からは通話が終了したことを知らせる音が鳴り響いている

(あいつはいつもそうなんだよな…。今回はここへ辿り着けるのか?まあいいや。あいつは帰ってくる、そう信じよう。)

 シナノはダンが帰ってくることを信じ、武装の準備始めた

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 暗闇の中に駆け抜ける冷たい風。そして痛快に追ってくる異形の黒狼くろおおかみたち。

「キリがないな…」

 ビュンと小石のような黒い塊が飛んでくる。

 体の一部、ほんの一部をかすめかけるが、間一髪で避ける。

 いくら引き金を引いてもかちりと空を切るだけ。彼の愛銃の弾倉はすでに空だ。

 叛逆の手立ては、ない。


 というわけで、彼は脇目も振らず、全力疾走した。

 目指すは、暗闇の奥深く。彼の所属する組織の、強襲揚陸艦へと向かって。

(まったく....。どこにあるんだうちの戦艦は....!)

 暗闇を疾走する本能。しかし、そんな暗闇も、燃え上がる森か、近づいてきた朝焼けかはわからないが、随分と視界が通るようになってきた。

 

「随分と明るくなったが....。見当たらないな....っ!?あれは....」

 ダンが呟くその視線の先には、闇から若干だが捉えられる程の人影だった。

 しかし、それは人であるとわかるほどの人影。しっかりと人だと断定できるほどの。

 そして、その先には、銀の岩のような細長い体型をした魔法生物マリウス


 もちろん、一般人が遭遇してしまえば、生きて帰れる保証はまったくない

 だが、それは、一般人だけだった場合。

 故に、ダンは自らの正義感と直感だけを信じ、その方向へと先程よりも一層速く、駆け出した。



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 少女は自分が置かれている状況を自覚した。

 眼の前に迫る、狼のようで、自らの記憶がそれを否定する、いびつな存在。

 ただ、それが自分を仕留めようと襲ってくる恐怖。それだけが存在していた。

 自分がどこに居たのか、なぜここにいるのかさえもわからない。

 

 何もわからない、何も知らない。

「もうここまで.....なの....?」

 黒い狼は、彼女を狙い、一直線に駆ける。

 近づくに連れ、水に垂らした絵の具のようにじわじわと広がる恐怖。

 それが連鎖するようにして、他の狼達も引き連れる。

 一匹、また一匹と狼は少女に近づく


 狼達が近づくに連れ、現実のものへと成っていく死。

 獣が彼女に接触する時、彼女は己の出自もわからないまま死んでいくのだ。

 

「間に合えっ!」

 だが、たとえ聞こえない悲鳴でも、そこに悲鳴があるなら、救世主ヒーローは駆けつける。

 

 バキュン。

 狼が彼女に狙いを定め、その足が加速する、その瞬間。銃声がなり、輝くものが飛来する。

 そして、狼が倒れる。

「なに...?」

 少女は理由もわからず倒れた狼へ目をやる。

 そこにあったのは、崩壊しかけた狼の体と、銀に輝くコインだった


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「まだ間に合う....!最短距離は直線だ」

 勢いよく、駆ける一人の男、ダンは、先程見つけた少女を救出するために走っていた。

(あれは...あの狼か...。すでに中の装弾数は0。追加の弾薬もなし....。どうするべきか...)

 考えながらも足は止めず、一直線に駆け抜ける。己の正義を行使するために

「そういえば...」

 ポケットを漁ってみると、やはりというべきか、街で倒れたときにもらったのときの残りである貨幣が3枚、残っていた。

「これなら.....」

 ダンは拳銃を取り出し、上部をスライドさせる。そして、出現したスロットに、3枚の貨幣を装填する。


 この拳銃には、特殊な機能が備わっている。

 それは、3回だけ、銃弾ではないものを装填し、打ち出すことができるというもの。本来は開発者の遊び心という名のロマンでつけられた機能のため、打ち出してしまえば、その拳銃は壊れ、二度と使えなくなってしまうという、とんだ欠陥機能である

 だが、それは時と場合。TPOにもよる。

 何よりの証拠として、その機能は、今ここで活用されようとしているのだ。


「間に合えっ!」

 銀のコインが射出される。拳銃により圧倒的な速度を得た銀のコインは、一切のブレも許さず狼に直撃する

 ダンは、それを見届ける暇もなく駆け出していった。


 先ほどの一撃でこっちに気付いたのか、狼たちは濁流となり押し寄せてくる。

 銀と黒の応酬。少なくとも、ダンは前へ進めている。

「球は切れても!鈍器になる!」

 その言葉の通り、拳銃のグリップで狼をぶん殴り、次々と昏倒させていく。流石にこの程度で死ぬとは思えないが、それでも効果はあるだろう。


 ガン。そんな音がなるたび、黒が一つ一つなくなっていく。

 そして、道が開けていく。

「鈍器は投げるっ!」

 その勢いのまま、もはや鈍器と成り果てた拳銃は、今度は投擲武器として活躍する。

 具体的には、狼に直撃し、少女の窮地を救うという形で。


 ダンは足により一層力を込め、渾身の跳躍を開始する。彼が人であるという点を見れば、まさにそれは跳躍という名の飛行。

「すまない。失礼する」

 かなりの距離を一飛びで、短縮した彼は、一人の少女を抱き、連れ出したのだった

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