29話 飛び出していけドラッグストアの彼方
ひょんなことからなぜか異世界へと転生していきた元社畜兼近年稀に見る経験豊富な苦労人。人呼んでハルト・シュトウは、ほぼ日も同然の状態で貸してもらっている六条一間のアパート一室で目を覚ました。
時刻は午前10時30分。まだ眠れるかと思い、自らの限界に挑戦しようという粋な試みを続けようとしたその時、異世界への扉は開く。
要するに、眠ろうとしたところにアパートの玄関の扉が開いたということ。
あんた一体誰なんだと、扉をのその先を確認すると、そこには一人の金髪美少女がいた。皆さんお馴染みアイカさんである。
「あ、集金なら間に合ってますー…」
適当な理由をつけ、扉を閉めるハルト。
しかし悲しいかな、扉を閉める寸前に矢の如く速さで差し込まれた靴が扉が閉まることを許さなかった。
その姿はさしずめ
そんなことを思う暇もなく、ぐいぐいと扉と玄関の距離は開いていく。
しかし、ハルトも精一杯の力で抵抗しているのだ。だがそれでも扉の開放は止まらない。
別にハルトは貧弱ではない。物心ついた時から、全てのお金をギャンブルに注ぎ込み、幾千数多の借金を背負ってきた両親により、常にどこかで働くことを強いられた。
小学3年生からすでに八百屋の仕入れを手伝い、中学生にもなると放課後土木現場で大人顔負けに働き、高校生では「最速の届け屋」「即刻注文、即時到着」とまで言われた男だ。
それなりに力も技術も体力もついてる。
ならばなぜ押し負けるのか。彼女はなんなのか。なんだこのゴリラは。
そして、一つの考えがハルトに浮かんだ。
そうか、これは人類のフィジカル面の到達点なのだと。ちっぽけな力仕事を泣く泣くこなしてきた自分程度に到底到達できる点ではないのだと。
そう思ったので、抵抗をやめた。
眩しい空だった。
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一方その頃、結果として一人の少女の命を救った青年、ダンは、少し前とは打って変わった眩しい紺碧の空の下、ドラッグストアを探し求め彷徨っていた。
「ドラッグストア....。」
そういえば銃弾がなくなっていたな、ドラッグストアとやらには銃弾を撃っているのだろうかと思いながら、慣れない、というか見たこともない道を永遠にさまよい続けていた。
「どこに...あるんだ....」
幼少期の事情で常識を知らないダンは何度もドラッグストアを通り過ぎていることを知らずに、彼の組織の母艦からすでに3kmほど離れたところまで歩いてきていた。
そもそも、こうなったのは約2時間ほど前に遡る
「!ダン!生きてた!」
ダンの姿を見るなり大声を上げた金髪の美少年、シナノがこちらを心配そうに見ていた。その視線もすぐ安堵と啓悦が入り混じったような視線になったが。
「生きてたのはいいけど、どうしてお前がそんな美少女を連れてるんだ?しかもお姫様抱っこで」
「すまない。色々混み合った事情がありそうなんだが、俺にはその情報をお前に享受するだけの権限がない。今は黙ってこの娘を匿ってくれ」
「匿ってくれって....。はあ、まあいい。しかしお前もかなりボロボロだな。電話の内容から何したかはだいたい予想はつくけど......」
シナノは少し思案し、こう告げた
「よし、ふたりとも、問答無用で医務室だ。これは親友命令。わかったならとっとと行く!」
そうして彼らは医務室へ行ったのだった。
「久しぶりだな。ダン」
黒いショートヘアの和風美少女といった風貌した人物が出てきた。
名はミズノ・クロノ。または黒野水乃である
「最近外に出て活動してたからめっきり見なくなってたけど.....。久しぶりの顔合わせが女の子を連れて医務室なんて、一体ナニをしに来たのやら。」
「すまないが、今は事情を....」
「ああ、わかってるさベッドはあっちだ」
そう言って右を指差すミズノ。その方向には、純白の誰も使ってないようなベッドが3つほど、きれいに並んでいた。
「すまない。恩に着る」
ダンはミズノに礼をいい、彼の腕で眠っている少女を蝶を扱うようにゆっくりと、優しくおいた。
その少女は、目覚める様子もなくすうすうと寝息を立てている。
「ああ、もちろんオレはナニも見ないよ....ってほんとに治療を求めに来たの?」
「?それ以外に医務室を使用する必要が?」
「たしかにね....。よく見ればお前もかなりボロボロだし.....」
今の今まで気づかないとはこいつの目は節穴なのだろうか。
「まあ、とりあえず彼女はあとでオレが見るとして.....。お前は....また外で遊び回ったのか?」
「ああ。狼と戯れてきた」
「狼ねえ....。あまり聞かないマリウスだ.....新種かな?お前の報告を聞くにB級かな?」
「多分それくらいだろう。倒すのに、少し苦戦した」
傷の処置をアルコールなどでしてもらいながら会話する
ちなみにB級とは、マリウスの危険度区分においての下から数えて二番目の人が倒せるギリギリとなる区分である。
要するに一般人じゃ倒せ得ない。そんな区分
さらなる余談だが、基本的に危険区分はアルファベットだ。しかし、災害級や、さらに上の天災級といった、どう勝つんだこれ…といったマリウスには例外的措置して、あえて厳つい名前が付けられている
「お前が苦戦するとなると、そうだねA級にはなるか」
A級はARじゃないと倒せないとされる、巨大戦をするか否かの目安となる区分。
人じゃ倒せない。
「とりあえず、目に映るマリウスは一通り倒したが…。代わりに森は焼け野原だ。」
「…はぁ」
代わりというにはあまりにも悲惨な状況に目を背けたくなったが、呆れることでなんとかした。
「まあいいや。お前は熱を冷ます冷却シートを買ってきてくれ。ドラッグストアが近くにあったはず」
「了解した」
そして時は現代に戻る。
上記の出来事があって以降、こうやってドラッグストアを求め彷徨い続けているわけだが、この土地をほぼ知らない上に重度までとはいかないが、軽度の方向音痴を持っているダンは、なかなかドラッグストアを見つけられずにいた。
幸いなことに季節は冬。
厚さでばてることこそないが、それでも、探しているものが見つからないのは精神的に結構辛い。
そんな状態になりながら、ドラッグストアを探し続けるのだった。
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