20話 新居と森と探偵

 ガチャリとアイカがドアを開け、ハルトたちを中へ案内する

 部屋の中は約8畳くらいの広さで、部屋の大部分はフローリングになっている

 また、隅の方には台所、入ってすぐ横には風呂とトイレがあり、至って普通の作りとなっている

 もちろん、家具は一切ない

 冷蔵庫と洗濯機があり、それだけで生活ができるようだ

(うーむ…。微妙に懐かしいな…、やっぱりこの世界は前世の平行世界みたいなもんなんだろうか)

「とりあえず、ハルトくんの部屋はここね…。そして、カイレくんの部屋はあっち」

 アイカがカイレを先導し、ハルトの部屋の隣へ案内する

「ハルトくんはそこを好きにしちゃっていいよ」

 とりあえずアイカの許可も取れたのでハルトは部屋を作ることにした

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「よし…。こんな感じかな」

 留置所から持ってきた少しの荷物を部屋に置き終えた

 今はまだ椅子はないが、持ってきた折りたたみの机が背が低いこともあり、椅子はいらないように感じる

 テレビ代わりとなるものは、この世界では一般化した小型プロジェクターだ

 ハルトは唯一ここがだけが近未来だと主張できる精一杯のところだなと思った

 ガラッと窓を開けて外を見つめる

 これがもしラブコメならば、外に高層マンションでもできて今外を見ている窓から手乗りタイガー(美少女)でもカチコミに来るはずだ

 そんな淡すぎて肉眼で視認できない程の願いを抱きつつ、外をぼーっと眺める

 外に広がるのは広大な森と「本日の主役」とかいう謎のタスキをかけた赤い棒のような生物だけだ

(…ほんとにあの生物はなんなんだろう)

 これが今後の伏線だとか言われたらブチギレる自信のあるハルトだった

 

 そんな朗らかとした時間も束の間、すぐに何かが起こった

 その何かというのは、視覚、聴覚に訴えかけてくる

 具体的には、まず、何かが倒れたような音がして、その後、目の前にあった大木たちが次々と砂煙をあげ倒れていったのだ

「……これは」

 アイカに報告だなとつぶやこうとした瞬間、窓、そして壁が崩れた

「……は?」

 ハルトは、吹き飛ばされながら頭に疑問符を浮かべた

 ドタッと壁に打ち付けられ、地面にへたり込む

 幸い、体だけはタフなようで、すぐ立ち上がることが出来た

(そうだ!隣……!)

 そう思い立ち、部屋を駆け出し、隣の部屋へ突入した

「怪我は!?」

 アイカを庇うようにして立っていた、ところどころ血まみれのカイレを見て状況確認の言葉をなげかける

 部屋の状態はハルトの部屋とほぼ同じ、中心から亀裂が入り、砕け散っている

 しかし、周りにマリウスと思わしき生物はいない

「まさか……これ全部衝撃波だけなのか!?」

「そうみたいだな」

「どんだけ規格外なんだよ……」

 しかし、その衝撃波というのはどうやら赤いマリウスが出したものでは無いらしい

 その証拠に、赤いマリウス周辺は一切のダメージを受けていない

 ということは、それだけの力を持ったマリウスが、近くにいる 

 そして、ハルトたちはとてつもなく危険なところにいるということなのだ

 それに気づいたアイカは

「ここかなり、危ないんじゃ……」

「「確かに」」

 その瞬間、空間が、揺れる

 激しく、強く、揺れる

 ハルトたちはその、大きな揺れを感じ、圧倒されながら、ただ、倒れないよう抗うしかできない

 何とかその衝撃も終わり、体制を立て直す時間ができる

 ハルトたちが立ち上がったのもつかの間、窓からは、巨大な翼が見えていた

 そう、それこそが、今の被害を起こした張本人、張本魔法生物、災害級マリウス「チロテラ」

 チロなどという一見可愛い名前がついているものの、翼を振るだけで突風を起こすほどの危険生物である

 そのため、街に大きな災害をもたらすほどのマリウスとしての区分、災害級が与えられている

 要するに、かなり危険な個体

 それが、窓の外、すぐ近くにいるのだ

 チロテラは、禍々しく黒に染められた歪な翼を更にしならせ、跳ぶ

 チロテラの特性として、横移動に強いという特徴と、空を飛べないという弱点がある

 そのため、移動だけでもかなりの被害を被るのだ

 ズサーという爆音が砂と共に周囲に撒き散らされる

「まさか……災害級とはね……」

「ここでどうこうという話ではなくなってきたな」

「そうみたいだな……」

 マリウスについて知識があるアイカ、カイレが短く会話を交わす 

 ハルトにはもちろんそんな知識ないので、その場の雰囲気に合わせて適当に相槌をうつ

「とりあえず、外に出るべきじゃないか?」

「そうしよう」 

 即決 

 3人は部屋から素早く出た

 窓から

「なんで窓!?」

 アイカの悲痛な叫びが響く

 それもそのはず、こっちはチロテラがいる方向

「ドアは歪んで開かなかった……」 

 あそこで四苦八苦するより既に空いてる窓から出る方が早いだろう? 

 とカイレが説明する

「それもそうだ!」

 そしてハルトがそれに同意する


 

 大きな大きなマリウスとの対面

 ぐしゃりという、柔らかいようで硬いものがひしゃげた音がする

 その音がした方向を見ると、そこには装甲が見る影もなくひしゃげた人類の叡智の結晶ARだった

 その純白の装甲は、土に汚れ、恐怖の後のように歪みつつも、立ち向かったという証拠を何よりも果敢に語っていた

 そして、その証拠は立ち向かっても勝てなかったという証拠に何よりも有力だった

 それは、きっと通報を受け駆けつけた機体なのだろう

 同じようなARが無数に散らばっている

 全てが、人型を感じさせない無惨な姿で

「嘘だろ……」

 蝙蝠の羽を持、馬のような四肢を持つそれは、彼らを見るとすぐ、威嚇してきた

 その大きな羽を使って

「ぐっ!」

 凄まじい風圧に潰されそうになりながらも何とか耐える3人

 しかし、その影響で古いアパートをついに崩壊した

「あれが早く来れば……」

 カイレがそうつぶやくが、その声も風に消される

 逃げ惑う暇もなく、彼らを捉え、攻撃を繰り出そうとするチロテラ

「チッ……」

「ここまでか……」

 男2人が、覚悟を決めたその刹那

 黒い巨人が現れる

 黒いマントを腰に着けたような装甲

 黒いジャケットを羽織ったような胸部

 黒い帽子を被ったような頭部

 黒い腕に銀の十字架を装備した両腕

 赤いツインアイが輝く

「すまない、またせたな」

 その黒い巨人とは"|AR<<アルミュール>>"

 人類の叡智そのものであった

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