17話 魔法と少女と果てなき欲求

「…………いい朝だな」

「夜だけど」

「……………わかってる」

 この世の中には真っ黒な朝というものがあるのか。というか朝の概念は何なのか

 そんな疑問は世界の彼方へ投げ飛ばし、アイカとハルトが言葉を交わす

 世間は真っ暗。ただ黒くくらい闇が果てなしなく続いている。その中にある無数の星々は、形容しがたく神秘的だという印象を見る人に植え付ける

 時刻は9/17日の22時。ARへの熱弁は昨日の出来事となった

 要するに、ARについて語っていた日から1日経ったということである

 そして、ハルトは今布団から出てきたのだ

「まさか、1日経ってるとはな……。新手のスタンド攻撃か?」

「君が何を言ってるかは知らないけど、ただ君の寝過ぎということだけはボクが公言しておこう」

「……さいですか」

 ハルトが後ろ姿で哀愁漂わせる中、アイカは留置所のテーブルに着き、あの後ろ姿を眺めている

「そういや、なんでここにいるんだ?呼んでもないのに」

「い、いや、呼んだでしょ?」

「呼んだっけか?呼んだか」

 納得するハルト

 実はアイカは呼ばれてはないのだが、そこは乙女の秘密ということで秘匿しておこう

「で、ボクを呼んだ理由は?まあ、あらかた察しはつくけど……」

「ああ。魔法について教えてもらおうと思って」

「なるほどね。まあいいよ」

「ありがとう……なんか焦げ臭い……」

 キッチンから何故か焦げたような匂いがしてくる

「…気のせいじゃないかな。きっと気のせいだよ。そうだよそういうことにしておこう」

「いいや限界だ!見るね!」

 そう叫んでハルトがキッチンへ行く

 そこにあったのは黒く輝く粉と正方形の物体

 本体と思わしき正方形は比喩ではなく禍々しく周囲の空間を歪めている

NANUKOREなにこれ

「いや、あの、その、えっと……すいません料理失敗しました」

 彼女は青ざめながらそういった

(…失敗?料理?これが?料理?)

 ハルトの頭はカーブと棒と丸で出来たクエスチョンマークで埋め尽くされている

 初めての天然のやばいもの。こうなるのはもはや必然的と言っても過言はなかろう

 唯一、不幸中の幸いというのは、彼女のメシマズ属性という萌の一種を知れたことだろう

「…ごめんなさい」

 ハルトの思考が宇宙をめぐり止まっている間に、アイカは謝罪をしてきた

「な、なんで料理を……?」

「いやだって、ほらさ、起きた時にご飯あった方がいいじゃん?だから、そうしようと思ったんだけど……」

「やってしまったと」

「なんの申し分もありません」

 どんな工程を踏めば、周囲の空間ごとねじ曲げるダークマターが生まれるのか。何使ったら黒く輝かせることが出来るのか、きっと一生懸命考えても答えは出ないのだろう。それなら七不思議の一つにでもしておいた方が楽だ

 ハルトはそう思い、アイカの肩に手を乗せ澄ました顔でこう言った

「これ、もう炭超えてるよ」

_________________________章切り替え________

「で、なんで魔法を?」

「いや、知らないことも多くあるもんで」

「なるほどね。ARを造りたいから学ぶと」

「なんでわかるんだよ……」

  黙々とダークマターの処理をしながら受け答えをする2人

  特にハルトの姿は防護服に身を包んでおり、ダークマターが核物質のようにも思えるが、その本質は核分裂よりはるかに危険なものになっている、と思われる

「まあ、悪いことじゃないし…。わかった教えよう。」

「ありがとう。その前にこのダークマターをどうにかしてからだけどな」

「うう…。それはごめん」

(はて、このダークマター、どう処理しよう。少なくとも再調理と言う線は無しだ。このダークマターが調理器具ごとねじ曲げる)

  ハルトは魔法より今はこのダークマターの処理方法を知りたいと思った

  そもそも、調理器具ごとねじ曲げる物体を料理と呼ぶべきなのか、それも考え所ではあるが。ちなみに、調理に使われた皿と電子レンジはすでにひしゃげ、原型があったことすらも感じられない

「袋に詰めて明日のゴミ収集に出すとか?」

「ゴミ収集車そのものを破壊する気か?おのれアイカ。ダークマターによってまた何かが破壊されてしまったって言われるぞ」

「じゃあここを犠牲にする!」

「おのれアイカ。また部屋が破壊されてしまった」

  ここは一応軍の施設である

  そこを壊した後の展開は予想できる

「これを技術として利用すれば……」

「技術部代表として答えよう。無茶言うな」

  ダークマターは今も周りを歪め、ちゃくちゃくと周囲の物質を物質だったものに変えている

  いまだに、どうやってこれを作ることができたのか、どういう材料を使ったのかはわからないい。あるのはただ結果のみである

「うーん、もう大人しく調理するしかないんじゃ……」

「そうだな。そうしよう」

 アイカの案は案外スっと受け入れられた

「さて、まずはボクからだ。作るからには志向のものを…」

「おいバカやめろ。ダークマターその2が産まれたらどうする!?」

「信用ないなぁ。ついでに言えばダークマターその2じゃなくてダークマターIIセカンドの方がいいと思う」

「お前は思春期真っ盛りの中学生か」 

 ダークマターを作った張本人が、同じように調理する

 負の連鎖はこういうことを言うのだろう

 奇しくも、ハルトは負の連鎖という鎖を断ち切ったというわけだ

 これこそファインプレー。まさに賞賛を送るにふさわしいだろう

「とりあえず、そこのわかめ取ってくれ。…違う、それはまいたけだ」

 まいたけを置き、わかめに取替えるアイカ

「これと一緒にダークマターを煮込んでみよう」

 煮込みやすいようにと、ダークマターに包丁を入れていくハルト

 バチバチと火花が散り、辺り一面が黒く燃え上がる

 しかし、何とかダークマターを両断することに成功

 ハルトとダークマターは心の底から通じ合う事ができたようだ

「次に、そこのやかんを。…中にカレールーを入れるな」

 カレールーを入れる寸前で、彼女は何とか止まった

「そしてこれを煮込む。こらそこ、雑草入れようとしない。というお前は誰だ」

 アイカではない人間が雑草を入れようとしていた

 ただの嫌がらせか、はたまた良かれと思ってやったのか、真相は謎である

 ハルトは、上記の材料とともにダークマターを煮込み、味噌を入れ、伝統的な料理、MISO SOUPにした


「では、味を確認してみましょう。アイカ、はいこれ」

 ハルトがアイカにスっと茶碗をまわす

「美味しそうだけど……」

「美味しかったぞ」

「あ、もう飲んだのね……」

 ズズッとMISO SOUPを飲む

 口いっぱいに広がる味噌の風味。そして、その後に来るささやかな出汁の香り、それらがいい具合に調合され、とても美味であった

 しかし、問題は食感とのどごしだ


 なんということをしてくれたのでしょう

 スープを口に入れたその瞬間、美味しいスープの香りとともに、口の中の水分が消え失せます

 さらに、飲み込んだ瞬間、唾液をお湯に変え、やけど寸前という超・不親切設計。まさにこれこそ匠の技

 とても食べれたものではありません

「周りの改編能力は無くなったね」

「口に入れた瞬間に何故か復活するけどな」

「これなら、ここに置いておいても……」

「いや、完食するぞ」 

 作っものは全て食べる、消費し尽くす

 それこそが、じゃぱにーずとらでぃしょなるそうる。

 それこそが、美の心というもの

 その意識の下、彼らは何とか完食した


「あ、そういえば君の住居決まったよ」 

「え」

次回へ続く


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