幕間2 禁忌との出会い
「で、今度は僕はどうすれば?」
「無条件釈放になりそうだよ。特に何もしてないしね」
「ですよねー」
ちなみに、今回はなぜ捕まったのかというと、連日の寝不足でぶっ倒れる寸前だったラウトが、ついにぶっ倒れた時、前を歩いていたアルカに倒れかかり、押し倒す形なったからである
基本的にその程度で逮捕兼事情聴取とは行かないのだが、その時、アルカが叫び声を上げたのが悪かった
そのつんざくような声を聞いた、近くで巡回していた警察官がすぐさまラウトを取り押さえ、警察署に連れてきたのだ
その時、ラウトは気絶していたため、目覚めたのは先程だった
「とりあえず飯食わせて」
「ええ……。とはいえもうそんな時間か」
「カツ丼でいいよ」
「ええい、容疑者のくせに図々しい」
「なんだかんだ言ってこのやりとり累計15回目くらいじゃないか?」
「今月だけで言えばな」
そう、この二年間の間に、取り調べを受ける→時間が遅くなる→取調室で夕飯を食べる。この連鎖が幾度となく行われてきた
そのため、警官は嫌な気分になることなく、すんなりと要求を受け入れた
「じゃんけんでどっち奢りか決めましょうよ」
「勝とうが負けようが私は奢らないよ」
「じゃあいいや」
このやりとりも、今月に限れば15回目である。二年の累計?数えられない
時は流れ数分後
「じゃあ、帰りますわ」
「オツカーレ」
ラウトは荷物を持ち、帰る準備を始める
あたりは、底知れない闇に包まれ、昼にあった喧騒もすでに鳴りを潜めている
「じゃあ、最近冷えてきたからあったっかくして寝るんだよ」
「へいへい、じゃあ、また今度」
「また来るつもりなのか……]
ちなみにもう一度来るとすれば、また痴漢冤罪した時くらいである
ラウトは、慣れた手つきで取調室のドアを開け、外に出ていった
ラウトが外に出ると、取調室から見るのよりも少しだけ明るくなっていた。
「さてと、帰りますかね」
最近は、アルカ自身も、ラウトに悪意がないことに気づき始め、疑惑を解こうとしてくれている(そもそも、いつものことなので、部署からもラウトに向けられる疑惑の目は一切ないのだが)
しかし、やはりアルカも心は乙女、叫び声をあげてしまうのだ
(叫び声さえあげないでくれればいいんだけども……)
そう思いながら、ラウトは暗闇を歩く
そんな中、彼は1人の少女の前を通りすがる
それは、赤髪で、とても端正な顔立ちをしていた。何より、その顔に見覚えがあったのだ。
しかし、ここは夜の道、誰がどこにいようが気にする奴はいないので、
素通りしていくラウト。その通りすがり様は、どこか冷徹でもあった
「待ちなさいよっ」
後ろから怒られたラウト。その声は玉の様に綺麗で、好きとっていながらも、どこが可愛げのある、美しい声。その声も、ものすごく聞き覚えがあった
さすがの彼も、ここで振り返らないという選択肢を選ばず、その声がした方向へ振り返った
そこには、赤髪の整った顔立ちをした美少女が1人、頬を赤く紅潮させ、立っていた
「…………………」
その顔と見事に目が合った彼は、数秒間見つめ合い、周りを見渡し、人差し指のDIP関節(第一関節)PIP関節(第二関節)MP関節(第三関節)の全てを一切のたるみなく伸ばし、その切先を自分の顔に向けた
そして一言
「……僕?」
「あんたしかいないでしょうがっ!」
そう叫んだ赤髪の美少女、もといアルカは、びしっとラウトを指差した
「なぜ?」
「そ、それは……」
理由を聞かれて狼狽えるアルカ
先程呼び止められた時よりも頬が朱に染まっている
「あ、謝りに来たの·····」
「と、いうと?」
声のトーンを沈めて、謝りに来たという彼女。頬は先程よりも少しだけ濃く紅潮している
「そ、その、いつも、私のせいで取り調べを受けて、こんなに帰りが遅くなって·····。ごめん」
「なんだ、そういう事か。安心して。僕は友達と話しながらカツ丼食べて帰ってるだけだから」
少なくとも取り調べという取り調べは受けてないと、ラウトが続ける
ちなみにラウトは水面下でこんなことを考えていた
(なんでこんなラブコメのテンプレートみたいなことしてるんだろ、僕)
少なくとも、このジャンルで行けばテンプレートとなる展開がひとつ足りないのだが、そんなことはどうでもいい
「だから、その、一つだけ、言うことを聞いてあげるわ」
「はあ」
(突拍子もないことを言い始めたな、しかも自分で言ってて収集つかなくなってるなあ……)
そんなことを思いつつ、じゃあと口を開こうとしたその刹那
「え、えっちなのはダメだからね!」
「………」
彼はそんな言葉を聞いて、スゥーと息を吸い込み、ペシンという音がするくらいの勢いで、手のひらを額にぶつけた
___________________________________
なんだかんだで数分後
「……じゃあ、今度何か買ってよ」
「いいけど·····、あんたが欲しいものなんて分からないわよ」
「じゃあついでに買い物付き合ってくれ」
「わかったわ·····」
一応承諾してくれた
本人からしたらほんとにそんなのでいいのかと思えるほどの要求だったが、これもひとつの優しさだと考え、素直に従っておくことにした
「それじゃ、送っていくよ」
「なんで!?」
「いや、夜に1人は危ないだろ。男だろうが女だろうが。いつフェンリルに襲われるかわからない」
「流石に氷狼はいないと思う」
「マジかよ」
逆になぜコイツはこんな街中に伝説の幻獣がいると思ったのだろうか
「とりあえず、なんか怒った後じゃ悪いから、僕が送っていくよ」
「…わかったわ。今回は甘えておくことにする」
彼女は呆れたように息を吐き、彼の提案に同意する
数分後
ラウトは極度の方向音痴…というわけでもなく、普通にアルカの家についた
「ありがとう。そ、その、次は、あんまり騒がないから……」
「りょーかい。それじゃ、俺はこれで」
その時、空から爆音がした
その音は、雷のように、雨のように、炎のように、空を割る
そして、その音の主は、侵略者のように降臨する
その主は、腕を高らかに上げ、怒槌を振り下ろした。ラウトたちへ向けて
「しゃがめ!」
ラウトは叫び、あるかの頭を無理やり抑える
幸いなことに間一髪、
しかし
「家が.....私の思い出が......」
アルカの
「帰るとこは......あそこしかないか!アルカ、とりあえず今は立って、逃げよう」
「けど、けど」
「とりあえず命だ。僕はまだしも、君の命はなくなっていい代物じゃない」
そう吐き捨て、ラウトは彼女を立たせ、そのまま走る
(軍部なら、少なくとも、僕の寝床なら凌げるはず)
ラウトは、彼女の命が助かるように、走る
_______________________________
「アルカ、とりあえずここに」
「え?うん」
ラウトは無理やりにもアルカを部屋に押し込む
「散らかってるのは気にするな」
そう言って彼は、走り去って行った
「........」
アルカは、このちらかっている部屋で安心していることに気がついた
「どういう状況?」
ラウトは同僚らしき女性に今の状況を聞く
「それが、まだ何も掴めてなくて」
「なるほど、わからないことがわかったと」
「そういうことです」
同じ敵が複数箇所に出現している状況なのだが、それ以外の何もわかっていないのが現状である
また、この施設の大半のARが失われたということで、かなり戦況が悪いことが分かる
「まじか。じゃあ僕のARも?」
「ええ、残念ながら」
そして、その失われたARの中には、ラウトのARも入っており、これにより、参戦出来ないことになる
ただひとつの事情を除けば
「あれにのるか......」
「馬鹿ですか!?あれはまだ試験運用すらされてない超危険機体ですよ!」
「いや、その試験運用するのが僕なんだって」
ATX-024。試験運用すらされていない、その機能がどこまで人に害を及ぼすのかすら分からない、禁忌
だが、その機体の戦闘力だけは、カタログスペック上だけだが、高いことがわかっていた
だが、その機体を使うには、あまりにも代償が高い
その機能とは、
効果は、そのまま、使用者の魔法能力を拡張させ、より直感的に、より大きな魔法を使えるようにすること
しかし、人類にはない部分の容量を無理やり広げるため、体への負担の大きさは想像にかたくない
そんな機体を、らうとは当たり前のように、使用しようとしているのだ
「とりあえす、あの倉庫の鍵は空けといてくれ」
「ですが.....」
「さすがに、これ以上の被害を出す訳には行かない。それなら、これくらい安いものよ」
そう言って、ラウトは歩き出した
______________________________
一番奥の格納庫
そこにあったのは、真紅と白銀のボディに、顔のほぼ全体を占めるバイザー、そして何より特徴的な、大型のボードを持った機体だった
「仕事の消化を、しなきゃだね」
その機体の名は「ATX-024」
それは、禁忌だった
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