第12話 自制と禁止と爆弾発言

「あ、そうだ。ハルトくん。あの機体には乗らないでね」

「は?」

もう帰るか。そんなタイミングで投下された超絶怒涛級の爆弾。特にハルトにとっては、思考がフリーズするレベルのことだった

「じゃ、どう戦えって……」

「機体はこっちから支給するよ」

「……」

機体は支給される。しかし、空前のロボオタとして、思うところもあった。なにより、死にそうな場面を何とか切り抜けた機体だ。

乗ってる期間が短いといえど、愛着は沸く


王宮に差し込む西日ー正確には、人工的な光だーが強くなってくる

それが、王宮に来てから時間が経っているということを知らせてくれる

「とりあえず、理由を聞かせてくれないか?俺も気になる」

カイレがそう言う

「ごめんね、詳しくは言えないんだ……。ま、こっちにも色々事情があるということで……」

事情

「……わかった。けど、1つ条件をつけさせて」

ハルトの提案。これは命令なので、提案などほぼ無意味ではある

しかし、国王はそれを容認する

「いいよ。受け入れる」

「機体の魔改造の許可を!」

ハルトが間髪入れずに答える

ここに、キギアとハルト、カイレしか居ないはずだが、王宮中が震え上がったような気がした

キギアは金色の瞳を見開き口をひきつらせ、カイレは無表情に、ことの成り行きを見守っている

「……そりゃまたなんで?」

長い沈黙の末、キギアがやっとの思いで絞り出した質問を口にする

「理由はありません。やってみたいだけです」

(だめだこいつ早くなんとかしないと)

キギアはそう思った。そもそも、彼が生きてきて、多少の面識があるとはいえ、機体改造の許可を突きつけてくる人間がいるとは

その点において、ハルトはかなりのイレギュラー、変人だと言える

「まあいいや。だけどねー、軍の備品だからね、魔改造されるとまずいんだよ……」

ARは基本的に軍が管理しており、正式には国の所有物なのだが、現在はほぼ軍が独占している状態である

そんな機体を、良くなる、悪くなる以前に手を加えるのは相当リスキーなことなのだ

最後にどちらに転んだとしても

「じゃあ、いい」

ハルトは嫌そうなキギアを読み取ったのか、あっさりと引き下がる

「あっさりだね」

キギアもそのままのことを伝える

「不都合なんだろ?一般人の俺が口出しできることじゃない」

「それもそうか」


最初に照りつけ、中に入り浸っていた日差しは、午後の最高潮を過ぎ、今はなりを潜めている

これが、夜に移り変わる合図なのだろう


まあ、そんな詩的なことを考える人間など、この中にはいないが


「よし!とりあえず、ゲームしようぜ!」

ぱん!

キギアが手を打ち、音を鳴らす

それと同時に鳴らせられたもうひとつの音は、ハルトをぽかんとさせるのに十分な威力だった

「いいだろう!」

そう、ハルトだけ

この違和感に気づかないのはハルトだけだった

(なぜに王宮でゲームするんだ?)

故に、ハルトの脳内はいつだって刺激的だった

____________________________________________

「しかし、ゲームか……どんなゲームなんだ?」

カイレが聞く

どうやら彼はそこら辺のサブカルチャー、娯楽についての知識が浅いらしく、先の格闘ゲームという表現にもキョトンとしていた

「格闘ゲーム、というよりかは、バトルロワイヤル系のゲームかな。やり方は簡単、あの敵に向かって銃を撃てばいい」

キギアが、ハルトのプレイアブルキャラクターを指さしながら説明する

ちなみにハルトのキャラクターは美少女である。もちろんケモ耳付き

「なるほど。まかせろ得意分野だ」

カチャ

カイレが出自不明のスナイパーライフルを構える

((????))

キギアとハルト、2人の思考が重なる時、ことは起こる

バシュゥーン……

静かに、しかし大胆に、スナイパーライフルの弾がゲームを始めるはずだった液晶をぶち抜く

そして、残ったのは、ボロボロになった液晶と、真剣な表情をしたカイレだけだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る