第149話 黒き薔薇の花言葉は

 手の甲に何かの植物の芽らしきものが生え始めた。全体がドス黒く、気味の悪い禍々しきオーラを放つソレは何故か嗤っている様な気がした。


 寄生主の脳へと根を伸ばす。

幻覚を見せる特徴を持つソレは視覚記憶から人々の怨み(場面や人々の表情)だけを抽出し、寄生主の深層へと刻み付ける。


 楽しかった事や喜びに満ち溢れた思い出を全て消去、人々に自らが行った非道で買った怨みだけを記憶に残される。


 同時に感情を司る脳の働きを制御する事で、怨みに対する感受性を鋭敏にしてしまう。


 際限なく繰り返される満ち溢れた怨みは寄生主の自我を崩壊させ、廃人と化す。


 加えて、成長しきった黒き薔薇のいばらには神経毒があり、その毒には苦痛を増幅させる働きがある。


 何十倍にも増幅された荊の痛みにもがき、毒の不快感に死ぬことよりも辛い苦しみを味わう事になる。


 芽が成長する過程で何千倍にも圧縮された体感時間。そして、薔薇へと成長した後の身体的な苦痛に自らが行った非道を後悔しながら死んでいく。


 人々の生き死にで甘い汁を吸い続けた彼等にはお似合いの植物だろう。


          ✳︎


 話は戻る。


 突如生えてきた何かしらの植物の芽? 出来物? に愚か者達は戸惑う。


 「なんじゃこれは……」


 自らの手の甲に出来た君の悪い物体。

それは地獄へと導く死の嗤笑ししょうの様だ。


 「お前達もか……。しかし、なんなのだこの不気味な植物の芽の様な物は」


 各々が突如として己の手に生えてきた植物を不気味に感じていると、次第に気分が悪くなっていく。


 「ぐっ…」


 皮膚の下を何かが這いずる感覚。

肉が裂ける痛み、血管が爆け、皮膚がギチギチと引き裂かれ出血する。


 ドクンドクンと心臓が激しく鼓動する。

体が激しい痛みに悲鳴を上げている様だ。


 そして、三人は椅子に座ったまま、上を見上げる。目の焦点は合っていなく、もはや現実か脳が作り出した幻覚か判断できない状態となった。


 彼等の脳内に根が絡みつく。

記憶を洗い出し、より強く、より深く、彼らが今までに犯してきた様々な罪、人々からの怨みを心へと突き刺す。


 まるで薔薇の荊が心に絡み突き刺すように。


 口からは涎が垂れ、瞳孔は開く。

深層心理に深く刻まれた人々の恨みは心を食い尽くし、後は何十倍にもなった体感時間で死ぬまで苦しみ続けるだけ。


 荊から排出される毒が更に彼らを追い込む。

何十倍にも膨れ上がった苦痛が自我を半端に破壊していく。


 「いぎぎぎぎっ!!」


 グランドマスター三人に残されたのは苦痛の感覚と少しばかりの自我のみ。


 完全に成長しきった黒き薔薇は欲している。

汚れ濁った心に巣食う欲望と果てしない苦痛を。


 「人の欲望は永劫無極。しかし、それは己の身を崩壊させるのだね。ふふっ。まぁ君達が滅ぶのは俺の都合。ただそれだけだからあまり関係ないんだけどね」


 自我のないただの肉塊となったグランドマスター三人。


 三人の両目から薔薇の花が咲き乱れ、苦しみ尽くした彼らは後悔の念と己に降りかかった怨みと共に、この世から消滅した。


--------------------------------------------------------------


オリジナル植物

『狂える黒き薔薇の姫』

・手の甲の毛穴から入り込み、すぐに芽を出す。

根が皮膚の下を這いずり伸びて行き、細胞から栄養を摂り、血管を通って脳や内臓へと到達する。効果は上記の話の通り。


--------------------------------------------------------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る