第146話 メイの母親

 スラム街。

廃材で作られたハリボテの家に苦しそうに横たわっている一人の女性が居た。


 名は『カナン』。

メイの母親であり、今病床に伏している所である。


 「おかぁさん。ただいま」


 「メイ、ゴホッ、おかえり。ごめんね、お母さんが動けないからあなた一人で仕事に行かせちゃって」


 「んーん。お母さんが元気になってくれるならメイ頑張る。今日はお花売れたんだよ。そしたらね、おかぁさんの病気を治してくれるって人が居て、連れてきたの」


 「メイ……そんな人いないよ。どこにいるの?」


 「え?」


 家に入るまで着いてきたメアの姿は消えていた。


 「おにーちゃん、どこに行ったの?」


騙されたのか、遊ばれたのか、微かにあった希望が無くなった瞬間であった。


 「その方はどんな人だったの?」


 「悪い大人をやっつけてくれたの。メイがね、偉い人に怒られてたから助けてくれたの」


 「お貴族様に? ここの領地は確かアバレン伯爵様が統治していたはず。ゴホッ」


 カナンは殺されていたかもしれない未来にメイが生き残ったことに安堵した。


 「ゴホッ、メイはどこにも怪我していない?」


 「してないよ! おかぁさんはお体大丈夫?」


 「ゴホッゴホッ。今はかなり落ち着いてるから大丈夫よ。けど移っちゃうと行けないからメイはお母さんの近くにはいちゃいけないよ」


 「んー。わかった。メイお利口さんだからアッチに行ってるね。お母さんはちゃんとお利口さんにしててね」


 「ふふっ、分かったわ。メイみたいにお母さんもお利口さんにしてるわね」


 テクテクと部屋を出て小さな部屋へと向かうメイ。カナンの部屋と物置部屋より小さなメイの部屋で分かれている様だ。


 「ゴホッ。もう……長くはないかな。ごめんね、メイ」

 

 咳き込む口に手を当てると血液が手のひらに付着している。


 「こんなお母さんでごめんね。メイの大人になった姿……見てみたかったなぁ」


 涙が溢れる。

死にゆく運命に、世界を恨み、羨む。


 「死ぬにはまだ早いと思うけど」


 いつの間にかカナンの隣に誰かが立っていた。


 「だ、誰?」


 「俺はメア。君の命、俺にくれないかい?」


 「命? もうすぐ死ぬのよ?」


 「実験台になってくれたら、君の命を救ってあげる。ギブアンドテイク、君には二つの人生が待っている」


 「ふ、二つ? 死ぬか生きるかってこ「違うよ」」


 「そんなんじゃ俺は面白くないじゃない。俺の世界の為に君が強くなって生きるか、ただ生きるかの人生。俺的にはおススメは前者だけどね」


 「強くなるって……」


 「言葉通りさ。人族の境界を超え、使徒として世界の敵と戦う為の言わば人員って所かな。だから実験なのよ」


 「何を言って『もう決まりだね。はい、早速注入っと』」


 カナンの額に植物の種子をぶち込んだ。


 オリジナル植物『快癒の魔薬草』

以前にエメリーに施した種子と同じである。


 「君の病は不治の病『キメラ肺炎』だね。医者殺しと同等なやばい病。だからこそ、強くなれる。病の強さが君の強さ。重篤であればあるほどその種子は君に強さを齎してくれる」


 「体が楽に……」


 「これで君は俺のもの。今度また実験させてね、それじゃまたね」


 転移で消え去るメア。

夢のような体験にカナンは目をパチクリとさせる。


 「メア……様。いつの日か貴方様のお役に立てます様に」


 祈りを捧げる。

するとメイが部屋へと入ってくる。


 「お母さん? なんで泣いてるの? 何か嫌な事があった?」


 「んーん。お母さんはもう元気になったよ。メイが不思議な人を連れてきてくれたからかな」


 「?」


 「お母さんはこれからもっと強くなってメイとあの人と一緒にずっと生きていくわ。ありがとう」


 「うん! お母さんが治って良かったよぉ」


 泣きながら抱きしめ合う二人。

強化されたカナンはこれから冒険者となり、使徒として戦う事になるとはこの時知る由も無かった。


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