第131話 炸裂する地獄の植物

 「地獄の植物は好きかい?」


 は?

何の事だ? 地獄? 植物? いやそんな事よりこの場から直ぐに逃げなければ。


 「あ、う、あ」


 声が出ない。

これが恐怖というものか?

嘘だ。この私が、神を喰らい神となった私が、こんな男に恐怖を抱いていると?


 認めない。

認めてはいけない断じて!!!!


 溢れんばかりの憤怒を糧にしろ。

恐怖を超越し、一矢報いろ。


 そう自分に強く言い聞かせる。


 自己暗示を徹底しろ。


 体は、大丈夫、動かせる。


 喰らえ。

私にはこの男を超える為のスキルがあるだろう。


 噛みつけ。

満身創痍でも喰らいつけ。


 「一緒懸命俺くんの事を倒そうとしてくれているのは理解出来るんだけどさ。終わってるからとっくにね」


 「…………何を…言って」


 あの時か。

少し前に獲物と思っていた可笑しな奴。

確かフィルギャとか言っていたが。

奴との戦闘の際に少しばかり痛みが生じた。


 触ると首の後ろには小さな小さな植物の種子が埋め込まれている。


 「そうそれそれ。フィルくんとの戦いの最中に植えさせて貰ったよ。それはね、『宿鬼ヤドリギの種子』。鬼に寄生し、鬼の力を奪う特別可笑しな子」


 自然とエインの心の中を読むヴァルトメア。


 「吸血鬼の始祖である私の力を奪うだと!?」


 「うん。闇ちゃんが君のスキルは危険だから奪ってほしいんだってさ。仕方ないよね。君頭おかしいし、弱いんだから」


 信じられない。

この私の唯一無二アイデンティティのスキルが、この男に奪われるだと?


 怒りが頭を支配した。

 

 殺すコロス絶対に殺す。


 幾度も殴りぐしゃぐしゃにし、喰らい尽くす。


 「やめといた方がいいんじゃない? その子は君の怒りの感情を糧に成長するから」


 何を言って…


 ビキビキビキっという不快な音が骨を通して鼓膜を刺激する。


 「ぐぁああああああああああああああ!!」


 種子が成長し、エインの身体に根を伸ばしていく。少しずつ身体の中を喰らう様に。


 この私が植物なんかにぃいいいい!!?


 「植物なんかに思い通りにされるなんて思ってもみなかったよね。地獄の力を宿した植物は悪魔も神も栄養にしちゃうから」


 なんだと!?

クソがっ!! この私がこんな物に!!


 怒りが頭を支配する。


 「いやだから怒ったらまた…ほらぁ」


 根が身体中に張り巡らされ、脊髄や脳を制御してしまう。もはや人格は押し殺され、力が、神気や血気、呪気が全て植物に吸い取られる。


 植物は一つの果実を実らせる。


 「出来たね。権能の果実。いただきます」


 ガブリと果実を食べるとヴァルトメアの権能、神級スキルが一つ増えた。


 果実に力を全て持って行かれたエインは小さな小さな蝙蝠に退化し、自我も動物の其れと同等となった。


 「闇ちゃん、これで満足? うん、まぁね。君とは一蓮托生だから。分かってるって。はいはい」


 飛んでいる蝙蝠エインはヴァルトメアの肩に乗る。


 「あ、しもしも、リュオンくん? 武王国の後始末は任せたから。ルシくんとフィルくんと一緒にお願いね。マーニちゃんとタルたんは樹国に帰還させてね。はーい任せたよー」


 敵対国、獣人が住まう武術の国、武王国。

栄えある武王に史上初めて他国の者が武王となり、この国を統治することとなった。


 竜王国をエーデルムートが統治し、大帝国は滅亡する運びとなり、武王国はアポリュオンが王となった。


 敵対する国は残り二国。

現状を把握し、このまま愚かにも敵対を続けるのか、それとも媚びを売り、属国となるのか。


 どちらにせよ、植物の神が全てを統べるのは確定された未来なのかもしれない。

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