第112話 武王大会、予選受付
武王国首都へと向かったタルタロス、アポリュオン、マーニは無事に侵入に成功した。
街は活気に溢れ、国民達も友好的で、好印象を彼らに与えた。
「中々美しい街並みでありますデスね」
「ふははは! 確かにそうであるな。木材で建てられた家々が古風で落ち着くな」
「確かにそうっすね〜。あっあそこに美味しそうな団子が売ってあるっす〜」
みたらし団子が売ってあり、周囲には醤油に似た豆の良い香りが漂っている。
「美味そうだが、まずは目的を果たそう」
三柱は王座決定戦への予選に出る為、受付へと向かう。
「やはり国民は良き者達が多いな。これを滅ぼすのは勿体ない。潰すより利用せよとの主人様からのお達しだ。正解だな」
「そうっすね〜。この文化も伝統も大切にしてて、強い者を尊敬する精神は我らにとっては都合が良いっす〜」
「武王が代わった所で、この者達はより強い武王に従うでありますデス。僕達三柱の中の誰かが武王になれば楽々侵略は可能ですデス」
「だが今代の武王はかなり強い様だ。それに四天武とも闘わなければならん。主人様がいらっしゃればどうとでもなると思うがな。だが武術大会だ。我らも武術家として同じようにこの身体で奴らを倒すべきだと思うがな」
会話を終え、予選会の受け付けへとやって来た三人。そこへ同じタイミングで竜の国から転移してきたルシファーとフィルギャが来た。
「ここが武王国か。フィル、貴様は武王城へと偵察に行ってくれ。奴らの狙いを見定めなければならん」
「わかったよぉ」
その瞬間、姿を虫へと変え、空を飛んで行った。
「ルシファーか。竜の国への侵攻は良いのか?」
ルシファーへとアポリュオンが話しかける。
「あぁ。ムートが全て任せろと言っていた。主人様の分体もいらっしゃるからな、あの国が滅ぼされるのも時間の問題だ」
「ムートくんなら大丈夫でありますデス。僕らはこの国の事だけ考えていればいいデスね」
「そういうことだ。貴様らはこれからどうするのだ?」
かくかくしかじか。
説明を聞くと、納得するルシファー。
「主人様もこの国は気に入りそうだ。であれば我は別の角度からこの国を攻めようか」
とルシファーは言うと、転移でどこかへと向かった。
「ルシファーはどこに行ったんだろうな。とにかく、我らは正面から武王達を始末しよう」
✳︎
武王国首都『カンプクスト』の中央エリア。
そのど真ん中には世界でも最大級の闘技場が設けてられている。
闘技場の名称は
【イェロヒム・コロシアム】。
石造りで見た目は古いが、魔道具によって状態を維持しているようだ。
闘技者の攻撃から観客を護る為の結界も魔道具で幾重にも張られているようだ。
周辺には出店や闘技者のファングッズなどが並び、出待ちのファンも多そうだ。
強いものこそが英雄のこの国で強い闘技者はそれだけでモテるようで、多数の女性を抱えて闘技場から出てくる者も多いようだ。
予選会に参加する為、三柱は受付に向かう。
受付嬢が何百人規模で業務をしている。
その一つに並ぶ。
「ようこそこちらは武王大会予選会の受付でございます。ご参加下さる方ですね。大会参加は無料でございます。こちらの参加申込書と同意書に記入をお願いします。記入頂けたら、あちらの予選会へとお並びください」
三柱は参加申込書と同意書に記入する。
書いてある内容はこうだ。
・参加者は武王大会の規則を遵守すること。
・審判、係員への暴力行為は即失格。
・相手を殺める行為は無罪とする、また、自身が命を落としても遺族が大会運営、及び、武王国に対し、責を問わないこと。
・大会を通じて、自身の国へスカウトする事は禁ずる。
上記以外にも結構細かいことが書かれていた。
予選会へと向かうと、長蛇の列が出来上がっている。
予選会は、実力を把握するもので一定以上の戦闘力が無ければ落選となる。
戦闘力を計測する魔道具が置かれており、それに触れると数値として魔導モニターに表示される。
世界最高峰のヒューマンで10万から15万。
超越者と呼ばれる者たちだ。
しかし、予選会に並ぶ者達が表示される数値は良い所、1万程度のもの。
クリア基準は8000で、かなりの確率で落とされていくようだ。
三柱の前の参加者は全員が基準値をクリア出来ず、全員が落選となっていく。
大会運営委員の委員長である虎の獣人は横に居る狐の獣人へとボソリと話しかける。
「今年の参加者は不作だな。小粒の者がよくもまぁこれだけ自信満々に参加しようと思うものだ。私なら恥ずかしくて夜も寝られんよ」
「確かに。去年の方が断然優秀だったな。あと少しで四天武にまでなれたかもしれない御三方も居たしな。今大会は四天武を含む、去年の上位成績の闘技者がメインとなるだろう」
「だな。今年は驚く様な実力者が居ないのはちと寂しいが、仕方あるまい」
未だ長蛇の列を作る参加者を見ながら、少しずつ残念な気持ちになっていく二人。
「はーい。次の方、手をこの水晶にかざしてください」
マーニが水晶型魔道具に手をかざすとその結果を映す液晶型魔導モニターに
『20e』と表示される。
「おっかしいなぁ。壊れたのかな? 大変申し訳ございません、少々お待ちください」
受付嬢は大会運営委員へと報告する。
「あの、計測魔道具が異常表示になったんですけど…」
その報告に目の色が変わる虎の獣人。
「何!? 見せてみろ!!」
そのエラーコードを確認する。
「くっはははは。来たか実力者が。それも飛び級のやばい奴が」
虎の獣人が受付嬢に代わり説明に向かう。
「これは貴方が?」
「そうでありますデス。早くして欲しいでありますデス」
「申し訳ない。私は今大会の運営委員長の『タイガ』と申します。こちらの表示はこれから通常は行われる予選会をパスする事が可能です。本戦への出場エントリーはここでなさいますか?」
「するでありますデス」
「はははっ。ありがとうございます。では本戦までの時間はご自由にして構いません。本戦は三日後となります」
「ありがとうでありますデス」
マーニが離れていくと虎の獣人『タイガ』も運営委員会本部へと戻っていく。
「はい、次の方どうぞ〜」
「この水晶に手をかざすのだな。ふはははは。ではいくぞ」
再び魔導モニターには『20e』の表示が。
カタカタと震える受付嬢。
また? やばい系の参加者が連続で? 嘘やんという表情をしながら再度、委員長を呼びに行く。
「あの…」
「どうしたんだ?」
委員長が震える受付嬢へと言葉をかける。
「また…」
「だからどうしたんだ?」
「また『20e』と表示され「なに!? そんな馬鹿な!!」
目を見開き、急いで受付へと走っていくタイガ。
そこには白銀色の闘鎧を装備した偉丈夫が立っていた。
「あ、あなたがこの結果を?」
「ふははは。そうだ。早よしてくれんか。説明は先ほど聞いている」
「あ、は、わ、わ、か、畏まりました。で、では本戦へのご参加お待ちしております」
笑顔が引きつり、乾いた笑い声しか出ない。
『20e』ってそんな簡単に出るっけ?
あれって戦闘力20万超えの限界突破のエラーコードだぞ?
この国に存在する武王を除く全ての者を凌駕する数値だぞ。
カシャンカシャンと歩く度に鎧の金属音を鳴らす御仁の背中を見ながら、そんなことを考える。
「あの…」
「あの!!」
「あのタイガ委員長!!!」
しきりにタイガを呼ぶ受付嬢。
意識が脳内から戻ってくる。
「…な、なんだ?」
「また先程のエラーコードが…」
「……は?」
タイガはそのエラーコードを見ると同時に目の前が真っ白になり、やがて白目を剥いて気絶した。
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