第106話 絶滅カウントダウン-0

 皇帝ザインと宰相アインツ、上級貴族が一斉に声の主へと目を向ける。

宙に浮いている謎の長髪の男とダークエルフの女に疑問を抱く。


 「なぜここにいる!! 城兵はどうした!? 聖将達は!? 本当に死んだというのか!?」


 アインツが叫ぶ。

先程の伝令の言った事が誠であったなど到底信じられない。


 人類史で見ても最強の十二人なはず。

皇帝が自ら彼等の実力を見て、感じて、惚れ込んだ正真正銘の猛者。


 口をあんぐり開けたままの無能な上級貴族。

しかし次第に蛮族の愚かな侵入者に己の無能さ故に次々と罵声を浴びせる。


 「蛮族の頭目かっ!! ここを何処だと思っている!! 貴様如きが来れる場所ではないわっ!! 直ぐに頭を地につけ、皇帝陛下に首を垂れよ!!」


 「そうだ!! 蛮族なんぞが我々と同じ目線に立つでないわ!! 貴様も奴隷にしてやるっ!!」


 ギガリマン伯爵とブタルザ侯爵が喚く。

汚い口から唾が飛び、醜くブクブクに肥えた腹を揺らす。


 「まぁまぁ。蛮族に天上人たる我々の言葉は理解できぬ故、ここは私にお任せください」


 ニヤニヤと嘲笑わらいながら、腰に装備している細剣を抜き、ヴァルトメアへと切先を向ける。


 「ここからは調教の時間です。私の帝国式細剣術、皆様とくとご覧ください」


 「おぉ、流石は勇猛果敢で知られるコーチン伯爵だ。美しい姿勢に滑らかな身体強化、武器への魔力操作も器用にこなす。帝国騎士学校の主席は伊達ではありませんな」(賄賂あり)


 周りの賛辞の声に耳をピクピクさせながら、ニマニマと頬が弛むのが止められない。


 「今なら特別に逃してあげますよ。大丈夫、安心してください。逃しますよ」

(後ろを向いた所を心臓に一刺ししてやる)


 狐顔のコーチンは既に勝ったものだと脳が思い込んでいる。無能ゆえに。


 何も反応がないのを怖がっていると勘違いし、コーチンは顔をほころばせ、攻撃をしかける。


 パチンッ。


 指を鳴らした様な音が謁見の間にこだまする。シーーンと静まりかえった広間。

一呼吸する合間、異変が訪れる。


 「何がお、お、おききた、た、たた、た、た

、あ!ぎゃああああ!」


 無詠唱によるヴァルトメアの風塵属性魔法。

その初歩中の初歩『ウィンドカッター』による斬撃。


 基本技にも含まれない程の幼稚な魔法。

その魔法がコーチンの手足を次いで頭を体から切り離す。


 「何が起こったのだ」「コーチン伯爵が死んだだと!?」「蛮族がやったのか!?」「いや蛮族に出来る訳がない!!」「では誰が!!」


 現実を理解できない無能な貴族が次々と言葉を発する。


 パチンッ。


 「あすっ」「ほるっ」「でんまっ」「いじっ」「れるっ」「いんっ」「らんっ」「あなっ」「るむっ」「つりっ」「すけっ」「べっ」


 広間は血の池地獄となる。

先に奈落の底へと引きずり込まれたコーチンの後を追うように無能貴族は胴体と頭がスパッとサヨナラした。


 「これでうるさいのがいなくなったねぇ。どうも。君が皇帝ザインかい?」


 「余が大帝国皇帝ザイン・エル・シュテリケである。其方が樹国エンデの国王、ヴァルトメアか。ふっ。強き男であるな。どうだ、我の下につかぬか?」


 「ははははっ。面白くも無いジョークだねぇ。やだ」


 「皇帝陛下に向かって失礼であろう!! 身の程を知れ!!!」


 宰相アインツが吠える。


 「身の程ねぇ。ユフィちゃん此処は良いからエルフちゃん達の助けに向かってくれる?」


 「はい!! 旦那様♡ 本体の旦那様に今日の晩御飯は何が良いか伺ってくださいね♡」


 るんるん気分で広間を後にするユフィ。


 「可愛いでしょ? エルフってね、森の精霊と同じくらい植物とは相性が良くてね。あっ、彼女は俺くんの使徒。彼女の仲間がここに囚われてるから解放しに来たんだ」


 宰相アインツの怒声に何も思わない、動じない、相手にすらしていないマイペースなヴァルトメア。


 「エルフごときの為にか。くくっ。愚かな事だ。エルフなんぞ人の力に屈した弱者だ。奴等は滅びゆく種族ではないか。玩具以外の利用価値もない。人との間に生まれるハーフエルフなんぞは生まれるだけで迫害の対象となる。故に妻にも出来ぬ。そんな劣等種を救おうなど頭がおかしいとしか思えんわ!!」


 「まぁ何でも良いよ。俺くんには倫理観や死生観なんて存在しないし、興味もない。君らが死のうが彼女の仲間が死のうがね」


 「そうか」


 「いつまでも言葉を紡いでいても仕方ない。もういい加減に帰りたいしね」


 戦闘の気配を感じ、臨戦態勢に入るザインとアインツ。


 「アインツ!! 来るぞっ!! 最初から全開でいく!! ふはははっ!! ひさびさの戦闘だ。簡単に死んでくれるなよぉおおお!!」


 戦闘狂であり、帝国最強、齢四十を超えても未だに最強は健在であり、アインツも同様。


 帝国最強の二人がヴァルトメアに相対する。

ザインは魔力の形を変え、魔法剣を創り出す。


 「これが余の武器『斬鬼ザンキ』だ」


 全身が漆黒で二メートルはある斬馬刀のような巨大な剣。


 「闇属性の魔力が深海の如く込められておる。貴様の魔法も攻撃も全て切り伏せ、吸収する。そのおかしなスキルもな」


 愛剣を見ながら呟くザイン。


 「では私も本気を見せよう。聖将達とは格が違うぞ? よく味わえ!!」


 魔道具を亜空間から出現させ装備するアインツ。


 「魔道具は偽神器アーティファクトと呼ばれるが、帝国の頂上である我らに与えられる物は全て強力なものだ。喜べ。陛下と私が相手するのだ。誇りに思うがいい」











 「一つ教えてあげよう」





 

 二人は動きを止める。








 「戦闘はしない」









 二人は何を言っているのか理解が出来なかった。侵略しに来ておいて戦闘はしない?

何を言っているのだと。


 「何をいっておるのだ。まさかここへ来て怖気づいたわけではあるまい」


 「いえ陛下。我らに怖気付いたのでは? であれば滑稽。死を以って償うべきです」


 「あー。違う違う。俺くんが君らごときに戦闘する訳ないじゃない♪ するのはね」


















 「惨殺だよ」


















 ヴァルトメアは地獄の植物を解き放つ。


 「『戒魔かいま十指じっし』、育て」


 枝垂れた黒紫の柳。

まるで地獄の鬼神の手、その十本指が握り殺そうとしている出立ち。全身に無数の棘がついている。


 二人に襲いかかる。


 「くははっ。何かと思えば奇妙な柳の樹か。そんな樹で何が出来るっ!!!」


 「私の魔法の餌食にしてあげましょう」


 ザインは切り払おうと横切りで剣を振るう。ものすごい爆風が凄まじい威力を物語る。


 「氷属性第十位階魔法『絶槍氷豪雨アイシクル・ヘビーレイン』」


 大量の氷の槍が豪雨のように柳の幹を襲う。


 ザインの剣は魔力すら喰らい尽くし、アインツは魔道具で底上げしたステータスによる暴力で攻撃を繰り返す。






 ––––––––かれこれ三十分の時が経過した。





 

 肩で息をする二人。体に力が入らない。


 限界が来ているようだ。

対して宙で横になりながら欠伸をするヴァルトメア。


 「もういいかい? 人生最後の思い出づくりは」


 結局枝一本たりとも切る事は叶わず、幹にも傷一つもつけられなかった。


 「だから言ったじゃないの。戦闘はしないって。値しないのよ君らじゃ。俺くんはもっともっと上の存在だから。遥か上のね」


 パチンッ。


 ヴァルトメアが指を鳴らすと柳は満身創痍の二人の身体を絡め取り、棘が食い込んでいく。

ギシギシと硬いモノが圧縮していく音が聞こえる。


 二人の体が形を変えていく。


 オリジナル植物

戒魔かいま十指じっし

・まるで戒律のような凄まじく凶悪な鉄壁さと攻撃性を誇る。

地獄の鬼達でもこの木の近くを通る事はしないだろう。如何に剛腕を誇ろうが強力な妖術を使おうが無意味に終わり、攻撃の代償を払う事になる。


 やがて、二人の体はハムの様に圧縮していく。ギシギシギシ、ミチミチミチッと肉が握りつぶされていく音が二人には聞こえているだろう。


 「や、やべで、ぐれ。もう手は手手手はダサら、出さないからっ!!」

 

 「し、下にし、下につくがらっ!! やめ、やべでぐだざい!!」


 二人は命乞いの言葉をヴァルトメアに必死に伝えるが、本人は柳と戯れている。


 やがて盛大にミンチへと変わり果てる二人。


 「あっ。終わった? はいはーい。お疲れちゃーん。じゃ行こっか」


 呑気な声でさも虫の生き死にを見るかのように視認し、転移するヴァルトメア。


 無事助けられたエルフと連れてきたエルフ、ダークエルフ、幹部連中と共に樹国へと集団転移した。

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