第105話 絶滅カウントダウン-1

 モニカは体が震えるのを抑えられない。

今までに体験した事のない途方もない魔力に。


 「モニカ様に、逃げましょう!! 無理です!! 無理無理無理無理!! 勝てるはずが無い!!」


 そんな事は分かってる。

私なんかが相手になる次元の敵では無いことくらい、この禍々しい魔力を感じれば嫌でも。


 「ですが!! わた、私は帝国十二聖将の一人っ!! この国を守らなければ存在価値は無いのです!! 皆さんは恐ければ今からでも逃げてくださいね」


 覚悟を決め、ヴァルトメアの分体とユーフィアの姿を瞳に映す。


 「我々は自分の命が大事です。家族もいる。ここで死ぬわけにはいかない。申し訳ありません」


 言葉は違えど同じような事を言い訳のようにモニカへと伝え、逃げていく帝国兵。


 「行っちゃいましたか。でも一人だろうと私が死ぬまでこの帝国を踏みにじる事は許しません!!」


 グシャッ。

バキバキバキバキっと鼓膜が破れてしまう程の爆音が後方から聞こえる。


 振り向くと大きな木の幹が彼方此方から生えてきており、その隙間から赤い液体が流れ出てくる。


 あの物量、木々による圧死。

逃げた帝国兵が全て潰され、挽肉と化す。


 「いや〜。あのタイミングで逃げる普通〜? 物語なら君と一緒に戦うでしょ。結果的に同じ事なのに」


 「旦那様、仕方ないですよ。旦那様の魔力を感じたら人族は本能的に闘争より逃走を選びますよ♪」


 「上手いねぇ。流石ユフィちゃん。んで君はまだやる? 死ぬよ? 間違いなくね」


 人ではない何かが私に話しかけてくる。

人の形をしているが、明らかに人では無い。

そんな次元の存在ではないと感じた。


 「私はモニカ・アマツ。帝国十二聖将の一人。貴方は?」


 「俺くんはヴァルトメア。樹国エンデの王であり、この世界の新しい神様さ」


 「私はユーフィア。元エルフィアのダークエルフであり、あなたの国の被害者。返してもらうわよ同胞を」


 やはりか。

モニカは目を瞑り、己の祖国が繰り返してきた過ちを後悔した。


 「それは…。致し方ありませんね。この国が滅ぶのも決められた運命だったのかもしれません」


 モニカを目を開き、ユーフィアに向かって剣を向ける。


 「ですが、私としても此処を通す訳には行きません。勝負です。貴女が負ければ撤退してください」


 受けるはずのない条件をダメ元で突きつける。大して期待していなかった。


 「ふふっ。面白いねぇ。勝てると思ってるのもそのあり得ない条件も。良いよ。本体には俺くんから言っておくよ。ユフィちゃん相手をしてあげて」


 「旦那様、分かりました。ではお相手願います。そちらからどうぞ」


 ユーフィアは棍棒を手に取り構える。


 「行きます」


 剣、体、目に魔力を纏い、全ての能力を上昇させるモニカ。麒麟児たる所以はその魔力操作に起因する。学園でも歴代トップの魔力操作の才能に努力を重ねた。彼女は剣技により一つの境地へ辿り着いた。


 神速の剣。


 剣聖ヴァンですら辿り着かなかった速さをモニカは手に入れた。


 音を超えたイルガよりも更に速い。

一時的に速度だけは神に近づき、ヴァルトメアは「ほう」と声が漏れた。


 「秘技『神速三段突き』」


 目にも止まらない神の如き技はあまりの速さに同時に見える。


 モニカは勝利を確信した。

いくら神の仲間とはいえ、エルフはエルフ。

人族が勝てない道理はない。


 殺った。


 ダークエルフの女の体には三つの大きな穴が開いて死に絶える。


 モニカの瞳にはその光景が映っていた。


 しかし現実は、全ての突きが叩き落とされ、棍棒はライフルの弾の様にモニカの体を貫く。


 「ぐはっ。な、にが、起きたんですか」


 「貴女は確かに速かったわ。でも貴女よりもっともっと速い師匠に育てられたの。負ける道理はないわ」


 「わた、し、より速いのですか。そ、れは見てみた、か、った」


 瞳孔が開いていくモニカ。

体は次第に動かなくなっていき、感覚も鈍くなっていく。


 「何かに使えるかもしれないねぇ。亜空間に入れとこうか」


 モニカの死体を亜空間に入れると二人は城の方へと向かう。



 皇帝が座する城の門の前に辿り着く。

守衛が二人、屈強な兵である。


 「貴様等は誰だ!! 見たことのない連中だな。何の用でここへ来た!! ん?下等なダークエルフの女も同じか。奴隷を献上にでも来たか。奴隷商の証は持っておるか。提示せよ。」


 偉そうな守衛の顔に手をつける。


 「うるさいよ」


 「うるさいとは何様だ!! そこに直れ!! 私が直々にその言葉遣いをいをいをあをいわをいいああいをあいん」


 顔がガンギマリ、四肢が痙攣する。

手を離すと男の顔から全身へと根を生やす謎の植物が彼に寄生していた。


 「ひいっ!! ば、化け物!! たす、たす、助けて!!」

 

 ヴァルトメアは種子を指で弾く。

逃げ出した守衛の男の体に入り込むと、直ぐに成長し片方の男と同様に死を迎えた。


 「じゃあ行こうかユフィちゃん」


 そのまま皇帝ザインの座す広間まで向かうと

伝令が報告をあげている。


           ✳︎


「帝都ザーフィンが壊滅的な被害に遭い、国民は過半数以上が生き絶えております!! 帝国十二聖将の方々も死力を尽くし応戦しましたが、全員が死亡。侵略者はこの城に向かっており、直ぐにお逃げくださ…あひょ、ひょ、りりぃあああああああ!!」


 伝令の男は顔が破裂し、血飛沫を撒き散らした。その顔は内部から爆裂し、無惨に殺された。


 「あーあグロいねぇ。ふふっ。大丈夫だよそんな顔しなくても。君らもこの子と同じように死ぬんだから。尽きぬ欲望を呪い、命という美しい花を散らしなよ。はははっ。ははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ。

ねぇ。地獄の植物は好きかい?」


 ヴァルトメアの逆さ三日月の様な禍々しい眼が鋭く光る。

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