第101話 幕間:帝国民恐慌狂想曲
超広大な帝国首都『ザーフィン』に住む帝国民は凡そ一千万人。全人口は三千万人を超える。貴族が領地を治め、皇族が支配をする。
その歴史は侵略から始まり、今尚、世界を統一するためにあらゆる手を使い、諸外国への影響力を持っている。
食べ物も魔導機による開墾の自動化、機械化を率先し、湯水の様にお金を研究へと使い、大量生産を可能にした。
科学とは異なるが、思想、思考は同じである。移動手段、運搬も機械化され、エネルギー源は魔力のみ。魔石も運用出来る為、非常にクリーン且つ、効率的となる。
そこら中に魔導車が走り、路面はしっかりとした石造り、そして奴隷が虐げられているというアベコベな風景である。
古い思想、つまり奴隷制度などという文化が日進月歩の技術的進化に追いついていない。
人間の心は置いて行かれている状況なのかもしれない。
そして帝国は国民の様々な意見にも耳を傾け、有効的な意見には特許的な権利や褒美も与える。
そうして国力を増大し、強くなり、世界最高峰の技術力を手にした。
がしかし、その力に国民の民度は着いていけなかった。他国の者を蔑み、差別してきた。
それは獣人のみならず、エルフ、同じ人族にも白い目を向ける始末。
傲慢。
その世界最高の自負が国民から優しさや思いやりを失わせたのだった。
特に酷いのは富裕層や貴族といった特権階級。人を人とは思わない。他国の平民なら何をしても良いと思っている。
何故か。
自分達の方が上位の存在だから。
蛮族とは生き物としての格が違うのだ。
それを当然な事だと考えている。
幼子だろうと女だろうと老人だろうと等しく帝国民の下に在るべきだと。
そして帝国十二聖将が建国宣言を行った蛮国に侵略しに行ったと皇帝は仰った。
であれば、国民として応援する他ない。
蛮族も幸せだろう。
奴隷になるかもしれないが、我らが帝国の一部となるのだから。
時が経過し、国民は今か今かと帝国十二聖将の凱旋の時を待つ。
「なぁ、おかしくねぇか? そろそろ魔導モニターに侵略の情報を映し出す頃だろ? 」
国民の男が隣にいる男に話しかける。
「そうだな。陛下が仰った時間を過ぎてる。途中経過でもいいから知りたいな。勿論我ら帝国が負けることは有り得ん。今頃、樹海ごと焼き尽くしている頃だろ。消火に時間がかかってんだよ」
時が更に経過する。
「おい、何だか騒がしくねぇか? それに侵略しに行った聖将達の情報も噂では死んだというのを耳にした。それとなんか関係ありそうだな」
「どうやらその情報は本当らしい。『音超』のイルガ様が一人で撤退し、皇城にある自室で亡くなっていたそうだ。何やら奇妙な植物に寄生され干からびて死んでいたらしいぞ」
「なんだよそれ。あのイルガ様がなす術なく殺されたってのかよ!! あの方は人類最強の一人だぞ。だったら他の聖将も殺されちまう。そうなったら帝国は終わりだ。帝国兵など物の数じゃねぇ。あっという間に蛮族に滅ぼされて終いだぞ!!」
「貴族共も逃げ腰らしい。今ごろ、金目の物をアイテムボックスに入れて逃げ出す準備でもしてそうだぜ。俺たちも死ぬ前にトンズラここうぜ」
その情報を得て信じる者、信じない者、拒絶する者、逃避する者、怒る者、嘆く者、様々な反応が見えた。
多くは帝国を信じて、国を出ることは無かった。問題は帝国から逃げ出した者だった。
皇帝ザインは逃げ出した者を殺す様に命じた。暗部を使い徹底的に。
見せしめの為に広場に首を並べ、恐怖により帝国に縛りつけたのだ。
そして、帝国は志願兵を募り、再度侵略の為に隊を編成しようとしていた時だった。
「蛮族の連中が攻め込んできたぞ!! 魔物らしき狼の群れ、蛇の群れ、スライムが攻撃して来ている。皆ども、防衛にまわれ!!」
多くの国民は逃げ惑い、恐怖に絶望する。
死というかつて体験もしたことない、する未来も想像しない事象に首都は大パニックに陥る。
緊急事態。
東西は帝国兵が死に絶え、敵に会えば死を与えられるだけ。
絶対的な死。
それが脳内を駆け巡り、パニックを超え、膝を屈し、思考が真っ白になる。
ブルブルと震える体はまるで言う事を聞かない。
その場から動くことも出来なくなった。
「なぜ我らが、我らが何をした。仕方ないではないか。帝国は全ての上に君臨する。下のモノに何をしても良いではないか」
涙を流しながら一人の帝国民が言葉を発する。
これが帝国民の民意。
生まれてからこれまでの環境で培ってきた総意。
やがてサマエルの毒が侵食し、この男の体は溶け始めた。
「痛い。苦しい。死にたくな、な、あ、い。て、いこくなんかにうまれてこなけれ」
最後まで言葉を発する事はなく魂までもが毒に侵され、永遠の苦しみを味わう事となる。
「侯爵領の二の舞か。あの後、他国へ逃げていればこんな事には」
侵略し、自国が更に豊かになるのを夢見ていた帝国兵は愚かに死んでいく事となる。
亜人や他国の民を軽んじ、奴隷としてきた者の相応しい末路。
しかし、まだ混沌の時は始まったばかりであった。
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