第100話 絶滅カウントダウン-4

 ワシの名はジルバ・ヴァルター。

この帝国に仕え、早くも八十年が経とうとしておる。先代皇帝でありワシの親友でもある『カイン・エル・シュテリケ』はそれはもう勇猛果敢で覇気の強い良い男だった。


 あやつが崩御し、嫡男が皇太子となり、今代の皇帝となった。生意気な程にカリスマ性があり、強欲ではあるが、カインの奴に似ておる。

ワシはこの先の人生をあやつに使おうと心に決めた。カインの願いでもあったからじゃ。


 帝国十二聖将。

選ばれし者、帝国最強の十二人、超越者、皆がそう呼ぶ我らは全員がレベル800を超える。

元は冒険者や傭兵、研究者など様々な分野で活躍していた彼らを皇帝はそのカリスマ性によって手中におさめた。


 そしてザイン坊は覇道を征こうとしておる。

この世界を統一し、全ての人間を配下にしようとしておる。


 あやつの為にもワシらは蛮国を攻め、祖国を守護せねばならない。蛮国の王はヴァルトメアと名乗り、ワシらの国を滅ぼすつもりじゃ。


 そんな事は絶対にさせん。

蛮族なんぞ人間の最高峰、その超越者の前にただただ朽ちてゆくだけよの。


 

           ✳︎


 攻めてきおった。

帝国西方の空は紅く染まり、炎の塊が降り注ぐ。たしかあそこはパルス坊とアルマ坊が護っておったはず。であれば安心じゃな。


 アルマ坊は天才じゃ。

ワシにあやつの才が少しでもあればとっくにレベル千を超えておるじゃろう。

もしかすると不老不死の術も完成しておるかもしれん。


 パルス坊は勝手が過ぎる所は否めんが、それでも奴のスキルは強力じゃ。蛮族は手も足も出せず彼奴の圧倒的な暴力の前にひれ伏す事となるじゃろうな。


 可哀想とは思わん。

これもこの世界の覇者となる為、致し方あるまいて。


 「シュルルル」


 何じゃ?

振り向くとかなり大きな蛇がおった。

もしや蛮族の手先か。


 哀れよの。


 よりにもよってワシの所へ攻め入るとは、運が無い。


 「魔物風情に言の葉を紡いでも仕方あるまいが、貴様も不運よの。ワシのスキルでこの世から消え去るといいわい」


 「シュルルル。不運はお前だ」


 「魔物風情が人語を使うか。ならば丁度良い。そのまま立っておれば苦しまず死ねるぞい」


 ワシは『空虚』の二つ名の通り、スキルである『空間把握』、『虚空の手』を発動した。


 『空間把握』スキルはその名の通り、一定領域で起こっている事象を把握する能力。

筋肉の軋む音、空気の流れすらも感知し、相手の能力も鑑定できる。


 相手の行動も長年の経験とこのスキルで先んじて読む事が出来る。正に、未来予知の様なものかの。


 そして、『虚空の手』スキルはこの手で触れたモノを触れた範囲のみ異次元空間へと飛ばすことが出来る。勿論、生物に触れたならばその部分を異次元空間へ飛ばし、損傷を作る事など容易い。


 魔法もこの手にかかれば無効化することも朝飯前じゃ。


 「かかってこい魔物めが。ワシの力を見せてやるわい。」


 今回もいつもの様に先を読み、この手で触れるだけで勝利確定じゃ。どんな存在もな。


 「シュルルル。愚物が。」


 少し先の未来を読む。

全ての情報の先に見えた未来は、自分が死ぬ未来じゃった。

 

 彼奴のステータスも鑑定してみたが、まるで底が知れん。理解が追いつかん。


 「な、ぜ、じゃ。なぜ、こんなことに」



 絶望に目が見開き、拒絶を示す。


 バクンッ。


 上半身を大蛇が一噛み、魔法すら使わずに生物本来の武器、噛みつきによる一撃。


 彼我の実力差が無ければ選択肢にすら入らない攻撃方法。龍は鼠を殺すために魔法なんぞ使わん。


 なんて存在に帝国は喧嘩を吹っかけたのか。


 グシャっという生々しい音が聞こえるとその音は虚空へと消え去った。


 「シュルルル。

死神毒『紫死蜃気楼しししんきろう』」


 帝国東方を襲う死の海。

まるで水平線に見える蜃気楼の様に、空気と赤紫色の毒霧が層を作り広がる。


 吸い込んだ帝国兵は呼吸器系に異常をきたし、肺が溶ける。

魔導武器は全て産業廃棄物と化す。


 植物は枯れ、地は死を迎え、大気は毒となる。


 「シュルルル。所詮は人間。どんなスキルを持ってようが、相手にならん。」


 地へ溶け、人間としての形を失ったジルバと帝国兵は魂となった後も死神毒に苦しむ事となる。神の力とはそういうものなのだろう。


 西はマルコキアス、東はこれよりサマエルが侵略済みとなった。


 北はアルくんが攻め入る。

帝国の絶滅へのカウントダウンはまだ始まったばかりであった。

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