第89話 帝国十二聖将

 帝国は侵略戦争の準備を完了した。

戦闘部隊は十二に分かれ、移動手段として最新型の移動機『魔導ジェットブーツ』を戦士に配布した。


 魔導ブーツは自身の魔力は勿論、魔石や魔法燃料と呼ばれる、言わば電池の様な物でもエネルギーを供給出来る。


 魔力の多い者は魔石や魔法燃料を使わず、魔力の乏しい者は使用して空を飛んで移動する。


 魔導国ザウパーから輸入したが、条件付きで格安に売る提案をされた。つまりは実験台になってくれと。


 そして『魔導スーツ』を装備する。

魔導国の最新防御魔法が付与されたバトルスーツ。身体に密着し、動きやすく、物理、魔法にも優れた防御機能を持つ。


 武器は『魔導剣』。

刃には薄い魔力が覆われており、高周波ブレードの様に斬れ味が抜群。達人ともなればA級モンスターだろうと討伐できる優れ物。


 そんな本来であれば高級で高性能な装備品を格安で買う事ができた。


 侵略開始の日。


 帝国十二聖将は其々、五万人の志願兵、民兵を含む兵隊を率い樹国へと向かっていた。

全員冒険者や傭兵、武術経験のある者だけだ。


 防衛にまわる部隊は五隊。

二十五万人の帝国兵が国を守る。

お国の為、家族の為、未来の為に。



 そして出兵した帝国兵は、まるで穀物を食い尽くすイナゴの様に物凄い速度で飛んでいった。


 何日か経過した頃に、樹国の領土、つまり樹海へとたどり着いた。


 第一戦闘部隊、帝国十二聖将『音超』、イルガ・アーリー。侵略組。


 第二戦闘部隊、同じく『黒血』、パルス・フルール。防衛組。


 第三戦闘部隊、『死槍』、アイヴァン・ランサー。防衛組。


 第四戦闘部隊、『炎天』、バイオレット・ムース。侵略組。


 第五戦闘部隊、『麒麟児』、モニカ・アマツ。防衛組。


 第六戦闘部隊、『鬼王』、ギルバート・デルビ。侵略組。


 第七戦闘部隊、『魔覚』、メメ・メイガス。侵略組。


 第八戦闘部隊、『空虚』、ジルバ・ヴァルター。防衛組。


 第九戦闘部隊、『虹才』、アルマ・エルトマン。防衛組。


 第十戦闘部隊、『幻影』、バベル・グローリー。侵略組。


 第十一戦闘部隊、『風太刀』、サトル・キリマ。侵略組。


 第十二戦闘部隊、『氷人』、ネオン・ハバラ。侵略組。


 ちなみに『剣聖』ヴァンは元帝国十二聖将の一人であり、死亡した為、新しく『麒麟児』モニカが成り上がった。


 帝国十二聖将の下には貴族階級順に補佐として役職に就き、それぞれの家から次男、三男が代表して参加している。


 生意気な貴族も中にはいるが、帝国十二聖将は貴族以上、皇族未満の権力を持っており、逆らえる相手では無い事は愚かな者を含め全員が知っている。勿論、御家柄重視の貴族主義者は陰では不満を漏らしているが。


 樹海に着くと、中にはA級モンスターがたくさん生息している。


 飛行していても勿論飛行能力のあるモンスターもいる為、弱い兵は次々と殺されていった。


 貴族主義者も捕食され、阿鼻叫喚の場で余裕のある者は帝国十二聖将だけだろう。


 A級モンスターも難なく討伐していく彼らの頼もしさに兵達の士気はどんどん上がり続けた。


 『炎天』バイオレット・ムースが樹海を魔物諸共、焼き払っている。


 「どれだけ広いのよ。流石に魔力が持つか心配ね。休みながら行くわよ。部下にはそう指示しておいてね侯爵家の次男くん。」


 「承知しました。美しき焔に誓い、私が貴女を補佐します。だからこの美しきイケメンの私、いえ、アルバン・クルーツと婚姻を結んでは頂けないでしょうか。」

 

 「なんで急にそんな話になる訳?意味不明なんだけど。さっさと指示してきなさい。」


 「んー、そのクールでお厳しい言葉もご褒美。バイオレットさまぁんん。」


 「きしょいわね。さっさといけ。」


 泣く泣くこの場を離れて部下に指示しに行ったクルーツ侯爵家の次男坊にバイオレットは溜め息を吐く。


 「はぁ、なんであんなのが私の補佐なのよ。無能では無いんだけどウザイのよね。にしても、ガッカリだわ。こんなに簡単だなんて。侵略なんて直ぐに終わらして魔法の修行がしたいわ。」


 赤髪のウェーブを靡かせて、片手間に樹海を焼いていく。ふと強烈な違和感に気づく。


 「変ね。さっき焼いた所がもう木々に覆われてる。不気味な樹海ね。焼いても仕方ないなら魔物を殺すためだけに魔法を使った方が良さげね。」


 『音超』イルガ・アーリー。


 その二つ名に相応しい俊敏性を持ち、魔剣『首斬り』を手にA級モンスターを次々と斬首していく。


 「元S級危険区域に指定されていたけれど、未だA級モンスターしか出現していない。何か不吉な予感がするな。俺っちの予感がそう言ってる。」


 「えぇええ。怖いよぉ。だから来たくなかったんだ。お家でのんびりしたかったのに。なんで弟を出さなかったんだ父上。そりゃ戦闘力は僕が上だよ?でもさ、死にたくないじゃない?だから普通は弟を戦争に出すよね?間違いなく次男の僕は予備品としてお家に置いておくよね?まぁ?強いよ僕は。でもあり得ないよね。」


 ゴチャゴチャと愚痴をこぼす伯爵家次男。


 「何を言ってんのよ君。大丈夫、俺っちが君の能力を認めてんだからさ。伯爵も鼻が高いだろうよ、フリーク君。」


 その後、侵略組の聖将が四方八方に分かれ、攻撃を開始していく。


 『鬼王』ギルバートはその破壊的な身体能力で。

 

 『魔覚』メメは、天才的な複合魔法で。


 『幻影』バベルは、その特質的なスキルで。


 『風太刀』サトルは、スキルと魔法による相乗作用的な戦闘術で。


 『氷人』ネオンは、全てを凍てつかせる魔法で。


 この世で自分が一番強いと自信溢れる彼等が堂々と樹海をその力をもって踏み壊していく。


 S級モンスターだろうと簡単に屠ってみせると、何体だろうが我らの部隊が必ず駆逐してみせると各々が当然のように思っていた。















 彼等は死よりも恐ろしい、悍ましい体験をするとはこの時はまだ夢にも思っていなかった。

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