第88話 竜の国の顛末

 エーデルムートはスキルにより、樹国に攻め入った蛇神二柱のスキルを奪い取った。

これはヴァルトメアとエーデルムートの二人の間で計画されたものだった。


 それ程にエーデルムートの実力を別次元へと押し上げなければならない事情があった。


 神界に居座る者の存在。


 この世界にまさとくんが来る原因となった存在。偉大なる者の存在。


 場面変わり。


 竜の国へと転移したエーデルムートは、未だ夢から覚めぬ竜人を見やるとその魔法を解いた。


 夢から覚め、辺りをキョロキョロと見る竜人達。


 次にエーデルムートはヴァルトメアから渡された種子を地面へと放り投げた。


 ムクムクと瞬時に成長する植物。


桜化桜花オウカオウカ』。

この桜が満開となる時、その土地に住んでいる民にそれはそれは美しい花びらを見せ、魅了し、心に巣食うだろう。散り乱れた時、花びらは民の体を乗っ取り、心身共に桜の木へと変貌を遂げ、動く桜の樹となる。


 あっという間に満開となり、ひらりひらりと花びらが舞い落ちる。咲き乱れ、散り乱れる。夢から覚めた現実か夢かも理解していない民の目にその姿を映した。


 幻想的なその風景に竜人達はただ黙って見惚れている。花びらは地面に落ちる前にさらりさらりと砂になる様に消え、花びらは光となって竜人の体に入っていく。


 準備は整った。


 「さて、生きる屍となった都合の良い国民の出来上がりだ。死ぬまで働いてもらうよ竜人。」


老若男女、場所も問わず、広範囲に桜の花びらは風と共に降り注いだ。


 そして寄生された竜人達は苦しみのあまり呻き声をあげ、体が変形していく。


 バキバキバキバキと骨が砕ける音がこだまし、体の内に巣喰った桜の花びらが彼らを桜の樹へと変えていく。


 歩く桜の樹。

さながらトレントの様に変容した元竜人達。


 「これで過去の清算はしてあげる。せいぜい木生を楽しんでくれ。」


 人面樹と成り下がった竜人達に待ち受ける未来はこれで絶望しか無くなった。


 話すことも楽しむことも貶す事も死ぬことも自分自身で行うことが出来なくなった。


 ただただそこに居て、彷徨うろつくだけの木。

出来るのは生気を垂れ流すだけ。

その生気は樹国の為に使われる。


その為の大樹が同時に植えられた。


『飴玉の冥樹メイプル

生きる者の生気を吸い取り、樹液として溜め込む。一年に一度、溜め込んだ樹液を果実として実らせ、この世の幸せを詰め込んだ味わいとなる。それは大勢の不幸で成り立っている味。


 圧倒的な依存性のある果実、いや、ご当地グルメの出来上がりである。


 そして話は変わり、そんな凄惨な生産を見た商人達は口を揃えてこう言った。


 『そこには地獄が存在した。誰も逆らってはいけない。終焉を迎えたくなくば、答えは一つ。ただただ支配を受け入れよ。』


 後に世界は知ることとなる。

この異質で悪質な現象を絶対に自国で起こしてはなるまいと。


 絶対に何があっても敵にしてはいけない国が興ったのだと。


 其々の国の王族は自国の貴族に樹国の者には絶対に逆らわず、歓迎する様に厳命した。


 残るは後、四つの国。

最凶の国に宣戦布告した無知で愚かな国が。


          ✳︎


 大帝国シュテリケ。

 皇帝ザイン・エル・シュテリケ。

 宰相アインツ・ジル・シザース。

皇帝が立ち、後ろには宰相が控える。


 皇帝による樹国への侵攻開始を宣言が帝国民に対し、行われた。


 「世界を制する時が来た。偉大なる祖国の力をとくと見よ。民よ!その眼に残すのだ。愚かなる蛮国が倒れ行く様を焼き付けよ。我らが全であり、その他有象無象は我らの為にあるのだ。」


 ワァーッと歓声が鳴り止まない。

いずれ来る繁栄と幸福に国民は胸を踊らせる。


 城下に隙間無く蠢いている自国民に満足そうな目を向ける皇帝ザイン。


 この時はまだ竜の国の惨い有様を帝国は知りもしない。


 この時は世界の中心は我らだと信じていた愚かな国に、混沌と絶望が襲いかかる。

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