第87話 竜王ヴァースキ
竜王ヴァースキは自室で焦燥に駆られていた。爪をガジガジと噛みながら独り言を漏らす。
「何故こんなことに。解放したヨルムンガンド様は侵略しに彼の地へ行ったまま帰ってこぬ。ダハーカ様とヒュドラ様は気配を感じぬ。蛇神様は最早使い物にならん。我だけでも生きて、偉大なる我が血を残さなければ。しかし、どう逃げれば良いのだ。」
頭を抱え地面に膝を折る。
「宰相はどこだ。まさか逃げたのか?」
直ぐさま自室を出ると、近衛兵や城中の兵が居なくなっていた。
「ぐぬぬぬ。あやつら逃げやがった。我を置いて我先に。会ったらただでは済まさん。全員嬲り殺し、家族は火炙りの刑だ。」
憎しみが彼を支配する。
宰相含む竜人は逃げた先で全員がムートの魔法によって幻夢の世界へと囚われている。それは彼の預かり知らぬ所。
「だが全てはあの龍人のせいだ。奴が来なければ全て上手くいったのだ。世界は我の物となっただろうに。糞が!!必ず殺す。惨たらしく殺す。泣き叫んでも殺す。」
「誰を殺すって?」
竜王の首元にはサイズ変化させた怨刀が当てられた。怨刀が今すぐにコイツの血が吸いたいと細かく震えている。
「き、貴様は。何をしておる。たかがハグレのりゅっ!」
「煩い。自分の置かれている状況が理解出来ないのか。このまま殺してもいいが、もっと有効に使わせてもらうよ。その命を。」
「ゆ、有効にだと!?こんな刀など我が鱗で弾いてみせるわ!」
「やってみろよ愚鈍な豚め。」
少しずつ力を入れ、何も抵抗感もなく刃が鱗を裂いていく。鱗と皮膚を切り裂くと竜王は激痛のあまり悲鳴を上げた。
「ぎぃやあああああ!!痛い!痛い!やめろ!やめてくれぇええええ!!」
「貴様は樹国の建国宣言を聞いた上で偵察隊を忍ばせたな。そして蛇龍を使って滅ぼそうとした。万死に値するだろ?ん?この腕は要らないな。」
竜王の右腕を切り飛ばすムート。
右腕に魔力を溜めて武技を使おうとしていたようだ。
切り落とされた後、悲鳴をあげるヴァースキ。苦痛に顔を歪める。
「貴様をアナンタの元へ連れて行く。そこで貴様には『竜王同化』スキルを使って同化しろ。」
「良いのか?それを使えば貴様なんぞ殺せるぞ。」
「良い。行くぞ。」
アナンタの元へ到着する二人。
寄生され空へとその巨体を吊り上げられている光景にヴァースキは絶句した。
「蛇神様。お労しい。今助けます。」
「良いから早く使え。」
ヴァースキを尻を蹴飛ばす。
「おのれ龍人め舐めやがって。だが今に見てろこのスキルで貴様を八つ裂きにしてやる。『竜王同化』。ぐっくくくくっ!!」
寄生されたアナンタが竜王ヴァースキの身体に消えていく。光の粒となり身体に入ったようだ。
「くかかかか!力が湧き上がる。これだけの力があれば世界を支配する事も容易い。アナンタの意識が無くなった今、我がこの途方も無い力を使い、全ての生き物を屈服させてやる。その手始めに貴様からだ龍人っ!!」
神気で棍を作る。
『人化蛇神流棍棒術』を使用し、ムートへと連続で攻撃する。
その一撃には『殺神』スキルが込められており、ムートであろうとダメージを食らうのは必然であった。
連続攻撃を行うヴァースキに躱し続けるエーデルムート。
「防戦一方だな龍人。愚かなことだ。我をアナンタと同化なんぞさせなければこんな事にはならなかったのに。その傲慢さに感謝するぞ。」
「何を勘違いしている。今は所詮戯れだ。貴様の力を測っている所だよ。だが、それもそろそろ終わりにしようか。」
ここで龍王エーデルムートのスキル紹介。
『高貴なる覇龍神王』
・龍族の神王のみが獲得できるスキル。
全ての龍から一つだけスキルを奪うことができる。
ただし、自身が討伐、または、戦闘後に抵抗力の失った意識の無い龍族に限る。
「何を言っている!貴様はこのまま死ぬに決まっているだろぉおお!!」
最大の神気を込めた突きがムートへ迫る。
「龍闘神武『幻龍』。」
ムートに突きが当たる瞬間、その体はフッと
「き、消えた。どこだ!?」
「まだまだ未熟だな。龍闘神武『五空拳』【空龍】。」
五発の正拳突きがヴァースキの急所である顔、首、みぞおち、腹部、金的へと当たる。
「はぉっ!ひゅうっくふっふ。」
白目を剥いて悶絶するヴァースキ。
痛みのあまりゲロを吐く。
ゲロに含まれる猛毒によって地面が溶けだす。
「汚ない奴だな。これで終わりだ!!」
掌底で顎をかちあげ、回し蹴りで後方へ吹っ飛び、頭部は破壊され壁に追突する。
ヴァースキはその愚かな人生の最期を迎えた。
「お前とアナンタのスキルは有効に使わせてもらうよ。」
『高貴なる覇龍神王』を使用して、強化されたアナンタのスキルを吸収したムートは、次の獲物に向け、その場から転移した。
転移先は勿論、樹国エンデ。
✳︎
「やぁムートくん。遅かったね。もう終わったよ〜。さぁこいつらのスキルも奪っちゃってよ。俺くん達の目的の為にさ。」
植物に寄生された蛇の死体が二つ。
ムートが転移し樹国へ到着する頃には
既に蛇神二柱の始末は終わっていた。
「ふっ。さすがですねヴァルトメア様。」
呆れたように、でも圧倒的な頼もしさに思わず笑ってしまったエーデルムートだった。
「奪ったらさ、竜の国の国民をあの種子であんな事やこんな事をやっちゃってよ。俺くんは消えるからさ。任せたよ〜。」
分身二号も役目を終えたと言わんばかりに突然消える。
「えぇ。みんな地獄の植物は好きそうですからね。」
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