第81話 龍王VS暴龍-1

 ヨルムンガンドは、懐かしい気配を感じていた。それは樹海の方角に位置し、何か力が強くなったり弱くなったりと不安定なモノだった。


 「ヴリトラの気配だが、以前より弱いえ。…いや、あやつの子か?ふぇっふぇっ。いつの間に子なんぞこさえたえ。」 


 そう。

ヴァルトメアが神に成り立ての頃、半殺しにし、樹海組織のエネルギー源としたヴリトラは言わばジュニアであり親からヴリトラの名を受け継いだのだった。


 「親の方は…気配が見当たらんのぉ。死んだか?ふぇっふぇっ。まぁ良い。」


 圧倒的な速度で樹海へと到着した。

樹海の規模に少し驚くヨルムンガンド。


 「まさかここまで大きいとはな。ワッチの体よりも随分と大きいえ。」


 ヨルムンガンドの体は小さな島を一周し自身の尾を咥える事が出来るほど。


 「ふぇっふぇっ。奴らを待つまでもないえ。ワッチが全て焼き払ってやる。」


 大きな口から灼熱の龍火咆ブレスを放つ。辺り一体が焼き払われ、樹海の木々がまるで苦しみの声をあげているかのように揺ら揺らと燃えている。


 「ふぇっふぇっ。他愛もないえ。このまま焼き尽くしてやるえ。」


 解放の約束を守る。

それだけの為に竜王の願いを聞き、叶えた後はつまりは自由だ。その場で竜王もまとめて殺しても良かったが、興が削がれる。


 希望の後に絶望が来るから面白いのだ。

その振れ幅が重要であると暴龍は知っている。


 それは残りの二柱も同様である。

いつかは殺したい。そう思っている。


 厄介なのはアナンタ。

蛇龍の祖と呼ばれるに相応しい力を持ち、ヨルムンガンドを含む暴龍三柱で闘ってやっと勝てるかという程に実力差がある。


 実際、過去には何回も挑んだが全て敗れた。

思い出すだけでも腹立たしい。


 「ふぇっふぇっ。この苛立ちを解消させてもらうえ。」


 広範囲を焼き尽くしたが、ここで異様な光景を目の当たりにする。


 焼き尽くし、荒地となった樹海。

そこから次々と植物が非常識な速度で生えてくるではないか。


 「元通り…か。ふぇっふぇっ。面白い。」


 ブレスを撃っても無駄に終わる事を悟ったヨルムンガンドは毒をブレスに込める。


 「これでどうだ。神でさえ苦しみ死に誘う毒だえ。」


 植物は燃え、毒によって生えてくる事はなくなった。


 「ふぇっふぇっ。このまま全て不毛の地にするえ。」


 再び毒ブレスを放とうとした瞬間、目の前を神気を纏った斬撃が通り過ぎた。


 「龍か。竜の国の?…であれば殺す他あるまい。」

 

 「ふぇっふぇっ。何者だえ?」


 「答える義務もつもりもない。お前はただ斬り殺され、地を這えば良いんだ。竜の国の者は誰であろうとコロス。」


 龍王と巨大なる蛇龍の闘いが始まった。


 神となった蛇龍。

この地において最高峰の実力者。


 誰しもが一面の景色が荒れ果てる程の戦闘を行う事を予見するだろう。


 「フィル、ルシファー、君達は武王国へ行ってくれ。ヴァルトメア様の分体と一緒に竜の国へ攻め込むから。」


 「分かったよぉ。ルシファーぁ。いくぞぉ。」


 「ムートには心配は無用だな。貴様にはそれだけの実力がある。ここは任せたぞ。」


 「あぁ。」


 「ふぇっふぇっ。余裕だえ?実力差も分からぬか小僧。まぁ良かろう。竜の国でなければ何処へ行こうと構わん。」


 「何を勘違いしている。貴様如き一瞬で終わる。俺は神龍を含む全ての龍の頂点、龍王の息子。今は俺が龍王である。」


 「龍王だと?あのお方の息子だと?ふぇっふぇっ。嘘か真か。ワッチが見定めてやるわ。」


 ヨルムンガンドは神をも殺す毒を牙から滴らせ、噛みつこうとする。


 「デカすぎるだろ。大きさだけなら確かに脅威になり得るな。」


 開いた口はエーデルムートの視界を埋め尽くす。遠近感が分からなくなる。


 「巨大毒蛇のぶつ切りなんて誰も喰わないね。空腹でもね。」


 そう呟くと、右手には歪で異様な力を感じる太刀を具現化させる。


 「神級スキル『怨刀龍喰リュウヲクラウモノ』。」


 師匠の力の一端を発動させる。

ユラユラと黒きホムラが立ち昇る。


 「なんだその力は。ワッチの力が吸い取られ……!??」


 言葉を終える前にムートは太刀を横に一つ。

放たれた斬撃はヨルムンガンドの巨大な顔面を上半分を抉り取る。


 「ぎゃあああああ。顔が顔がぁああああ。」


 絶叫、苦痛に喘ぐヨルムンガンド。


 「な、お、らない。いつもなら直ぐに再生が始まるえ!!??」


 ヨルムンガンドは巨大な身体、猛毒よりも不死性、その圧倒的な再生力が脅威の蛇龍である。神となって更にその再生力は強化された









はずだった。















 「貴様の再生力は俺が喰った。」


 怨刀龍喰。

その異様な太刀はどんな龍の能力も喰い、己の糧とする事が出来る。


 龍を喰い殺す迦楼羅の力。


 それは後に、神をも喰い殺す力を持つ様になる。


 怨みの力を太刀に宿し、対象を屠る。

ヨルムンガンドは一目散に逃げようとする。

巨体を翻し、エーデルムートに背を向け飛び去る。



 「やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいええええ。」


 龍気を解放し、全速力で逃げる。

かなりの距離を逃げてきた。

目が見えなくとも気配で竜の国の方角は感じられる。


 「あんな奴がいるなんて聞いてないえ。あ奴らにも知らせなくては。」


 逃げ切った。

そう確信し、あの二柱とアナンタを連れ、アイツを殺してやろうと思った。


 「どこへいく。」


 「は?な、なぜ?」


 感知できなかった。

視覚と嗅覚は潰されたが、魔力感知は常に行っていた。



 「貴様の実力なんてそんなものだ。解除。」


 逃げたはずだった。

だが闘っていた樹海からは少したりとも離れてはいなかった。


 「全ては幻覚だ。」


 ジュピターの魔法をあの日見て、模倣出来るか試した。可能であった。魔力の波長を完璧に合わせ、思考すら真似た。


 「フィルギャには怒られるかもな。」


 フッと笑うと、すぐに真剣な顔になる。


 「終いだ。龍王神武『絶迦ぜっか』。」


 怨刀に龍気と神気を混合し、二つの気をエネルギーとし、ヨルムンガンドの能力を暴れ喰らう龍が顕現する。


 残るは斬撃。


 無数に放たれた斬撃は巨大な身体をバラバラにぶつ切りにする。


 「樹を斬ってはヴァルトメア様に叱られるからな。多重結界。」


 武闘場で見たヴァルトメアの結界を模倣する。流石に頑丈さまでは真似できなかったが充分であった。


















 「今から行くからね。竜の国。」


 眼に怨みを込めて、殺戮の限りを尽くさんとする龍王がまさに立っていた。

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