第80話 幕間:宿怨の龍人とガルーダ

 母さんが死んだ。

俺が弱かったからだ。龍王の息子であるのにも関わらず、俺は闘う事を拒絶していた。


 痛いのは好きではない。

だから誰であろうと痛めつけることはしたくない。それが敵であっても。


 でも母さんが、優しかった母さんが、人族の手によって殺された。なんで?なんで殺されなくてはならない。


 羅刹?


 何を言っているんだ。

みんな優しくて、愛で溢れる良い人ばかりじゃないか。流浪の民であった俺と母さんを快く受け入れてくれた心の温かな人ばかりだった。


 魔物の特徴があるから危険だと?


 嘴や角、翼や爪、邪眼だってあるって?


 だからなんだ。

お前達だって武器を使うじゃないか。

スキルで人を殺すじゃないか。


 そう。母さんを殺した時みたいに。


 絶対に許さない。

必ず殺してやる。全てを蹂躙し、滅ぼすのが母さんへ誓った約束だ。


 泣き叫んでも許さない。

力を蓄え、必ずお前たちをコロス!!

















 その後、体は傷だらけとなった俺は体に鞭を打ち死ぬ気で歩を進めた。


 漸く竜の国へと到着した。


 楽しそうに笑う亜人種である彼等。

彼等も人族から迫害されているらしい。

俺と同じだな。


 お腹が減った。


 「た、た、の、む、何か、く、食い物を分けて、くれないか?」


 沢山食べ物を両手に抱えている竜人の男性へと声をかけ、情け無くも食べ物を分けてもらえないかと懇願した。


 「ひっ!!龍人だと!?ふ、封印されているはずではないか!!まさか、ハグレ?それとも封印が解けたのか?」


 何を言っているのか分からなかった。


 ただパンを恵んで欲しかっただけなのに。


 「よく見たらボロボロじゃねぇか。龍人だからと言ってビビり過ぎたか。おい、お前にくれる食い物なんてねーよ。誰もお前になんてやらねーよ。食いたきゃその辺の草でも食ってろ。ははは、土もあるな。美味そーだろ。口に入れてやるよ。美味しく食べろや。」


 竜人の男性は俺の口に草や土を押し込んでくる。


 「ははは、傑作だ。龍人とはいえ空腹には勝てねーんだな。このまま縛って竜王様の下に連れて行ってやるよ。お前は残念ながら死刑だがな。人間の片親を恨めよ。この半端者が。」


 殺されると思った。

体に残された最後の力を振り絞って、その場から逃げ出した。


 緑豊かな山が見える。

もしかしたら果物が実っているかもしれない。


 山の方にいくと小屋が建っていた。

中に入ると小汚いが生活は出来そうだった。


 「ふぅ。ここは…廃屋のようだ。とにかく体を休めないと。」


 体と頭は限界をついに迎え、硬い床に寝そべり、気絶する様に眠っていた。


 その後、数時間眠りにつき、空腹過ぎて、気持ち悪くて起きてしまった。


 「眠い。だが、何か食べないと…。」


 小屋を出ると少し体力が戻ったのか来た時よりもその風景は綺麗に見えた。


 「食えるもの、探さないと。」


 脳に糖分が回っていない。

虚ろな表情でとにかく食べ物を探す。

 

 「何もない。野生動物もいない。果物もない。せめて、りんごの木でもあってくれれば。」



そんな夢物語を妄想したが、空腹の限界が来て、その辺の雑草を食べた。


 「不味い。だが腹は満たされた。植物は偉大だな。少し元気が出たよ。」


 その後更に山を探索すると、自生したオランジの実やパイムの実が成っていたのでもぎ取って食べた。


 「美味い。久しぶりだ。こんな美味い食べ物は。…母さん。母さんにも食べさせたかったよ。」


 涙が止まらなかった。


 同じ人族によって母さんは残酷に殺され、逃げてきた竜の国では迫害にあった。温もりのある魔族の皆も殺された。


 誰も助けてはくれない。


 神様も誰も。


 だったら強くなって滅ぼせば良いじゃないか。要らないあんな奴ら。


 あいつらの家族諸共消す。

そうなれば俺や母さんと同じ気持ちが分かるさ。


 分からせてやるんだ。

お前たちがしてきたことの過ちを。


 まずは強くならなくちゃ。

人里なんかじゃダメだ。


 そうだ。

樹海だ。あの危険区域の。


 植物によって生かされた命だ。

死んでも樹海なら本望。彼らの命の一部になるなら最高じゃないか。


 その後、山の植物でバッグを作り、それに果物や竹で作った水筒を入れた。


 かなり長い道のりだったが何とかたどり着いた。


 樹海には弱い動物から強い魔物まで生息していた。


 弱かった俺が魔物の肉を喰らい強くなった。

まだ強い魔物は相手には出来ない。

隠れて弱い魔物を殺し、とにかくレベルを上げよう。


 最弱から少しずつ強くなっていった。


 そんなある日、一人の炎を纏った鳥人が俺の下に降りてきた。


 「オレの名はガルーダ。竜を喰らう者だ。お前は良い闇を抱えているな。俺がお前を強くしてやる。」


 鳥人。

それは紛れもなく、魔物の特徴を持つ魔族だった。


 「なぜ魔族がここに。」


 「お前を探していたからだ。やっと見つけた。俺の母上がお前を家族だと言っていた。だからお前を守るのは俺の役目だ。」


 魔族最強の男『ガルーダ』。

哀れで不運で、最も神に近い強き男の登場だった。


 ここから二人は師弟関係となり、日々研鑽を重ね、魔人や魔物との戦闘によりエーデルムートの才能は開花されていく。


 師が羨む程の才能。


 後に、ガルーダの目的が-----である事が判明するがそれは別の話。


 樹海に住んでいる間に、強い魔物と同等の力を身につけた俺は、ヴァルトメア様の配下となるべく前述の通り行動した。


 ガルーダはそれを見届けると、自身の目的の為に再び旅へと向かった。

 

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