第72話 Battle of Gods(4)

 会場の人々は神々の闘いに釘付けとなり、拳を握り、我も忘れて全身にビッショリと汗をかいていた。


 それ程に凄まじい闘いに興奮し、敬い、畏れた。この方達に逆らってはいけない。

本能がそれを感じとり、脳へとぶち込んだ。


 いよいよ四試合目。

小さいモノ同士の闘い。そして、ヴァルトメアのお気に入り二柱の戦闘である。


 背中に生えた半透明な翼をパタパタと羽ばたかせ、興奮を抑えられない様子のジュピター。


 対して


 あくまで冷静で、そして素顔は誰にも分からない。普段は能面の様な顔をしているフィルギャ。霊化状態で姿、存在感共に希薄になっている。


 「みんなはどうか分からないけど、俺くんが一番楽しみにしているのはこの闘いかもしれないなぁ。とーっても楽しみだねぇ。ということで、準備は良いかい?始めっ!!」


 まず先制したのはジュピター。

ジュピターの戦闘は幻から始まり、自分に有利なバトルフィールドを展開する。


 「いくよフィルくん。幻想属性第十一位階魔法『妖精ノ楽園』。」


 『幻想属性』

・妖精の王のみが使用できる伝説の属性魔法。

太古の巨人族すら騙し、混乱させた強力な属性魔法。


 武闘場全体に幻想属性魔法による錯覚と思考力を鈍らせる効果を発揮させる。


 ただの下級神であれば、自分の事すら理解が出来なくなり、戦闘行為すら不可能になっていただろう。それどころか自傷行為もあり得ただろう。


 「また厄介な能力を得たねジュピちゃん。ははは。」


 笑いながら少し冷や汗をかくヴァルトメア。

その目は笑っておらず、未来を想像すると身震いした。


 「んぅうう。面白き魔法ぅ。大変にぃ厄介でありますぅ。ワタクシでなければですがぁ。」


 一切、効果はない様子。

なぜなら、フィルギャの能力、その真髄は同化と同調。誰にでもなれる能力はそれに起因する。

であれば、同じ魔法をコピーし、相殺すれば良い。


 「神級スキル『愚者之道化神ナル・フィルギャ』Mode:ジュピター。」


 姿形は勿論、魔力の波長、息遣い、仕草、そして能力すらもコピーする。


 「えぇええ。ワタシそっくり!!すごいすごーい♪」


 「えぇええ。ワタシそっくり!!すごいすごーい♪」


 声色、表情もコピーし、ジュピターの魔法は同じ魔法をぶつけて相殺した。



 完璧なるコピー能力。

だがこれだけではただの物真似芸人と同じ。

オリジナルは決して超えられない。


 しかし、コピーに自分本来の能力を足したらそれはもはやオリジナルを超えたと言っても過言ではない。


 「神級スキルぅ『夢女ノ予知』。」

 

 『夢女ノ予知』

・少し先の未来を見る事が出来る。


 単純な能力だが、フィルギャのコピー能力と合わせると凶悪な相乗効果を生む。

 

 「幻想属性第十一位階魔法『無明迷々』。」

 《むみょうめいめい》

 「え!?何でワタシが使おうと思ったのに!!」


 先手も先手、まさか自分より先に自分の魔法を使われるとは夢にも思わない。

驚き取り乱した事によって一歩出遅れたジュピターはモロに魔法を喰らってしまう。


 幻想属性魔法『無明迷々』

その効果は五感を封じるという至極単純な魔法。しかし、その精度と強力さはかつての巨人族の戦士も苦戦したという。


 空中に浮遊していたジュピターの目に光は無くなり、地面へと力無く落ちた。


 「流石すぎるねぇ。けど…。はぁ。」

ジュピターを見るヴァルトメアは、少し先の未来を予測しため息が出てしまう。


 「ひひひひひ。よくもやってくれたわね。ヴァル様の前でよくも。よくも。よくも。よくも。よくも。よくも。よくも。ヨクモ。ヨクモ。ヨクモ。ヨクモォオオオオオオ!!!」


 ジュピターがブチギレた。


 「ジュ、ジュピちゃん!?」


 驚き戸惑うヴァルトメア。


 「かかかか、

  神級スキル『残響死鎌之風グリムリッパー』。」


 禍々しい風を自身の周囲に展開。

竜巻を起こし、そこから無数の神気を帯びたカマイタチ、いや、死神の鎌の斬撃を放つ。


 フィルギャのコピー能力は同等級である神級スキルはコピー不可能。唯一の弱点でもある。

よってこの斬撃はコピーする事が出来ない。


 「厄介ぃ。」


 迫り来る斬撃の嵐。

圧倒的な攻撃量による蹂躙劇が開幕する。












 ように見えた。

















 「神級スキルぅ。

 『六星呪結界ろくせいしゅけっかい』。」

・六つの結界が攻撃を防ぐ。防いだ後、しゅを敵にかける事ができる。


 狂いに狂ったジュピターは自身が行っている攻撃の加減が出来ていない。


 故に、守護霊たる力を冷静に行使しているフィルギャの様子を感じることは出来なかった。


 冷静な者には勝てないのが闘いの常。


 怒りに任せた攻撃は全て防がれ、終わりと同時にジュピターにはしゅが降りかかる。

 

 相手の攻撃を全て防ぐという制約をかけることで強力な呪いをかける事ができる。

それは必中であり、必殺である。


 神をも殺す禁忌の呪い。


 本来であればその呪は体を蝕み、際限なく苦痛を与え、惨たらしい死を与える。


 その全てをみがわりの神木が肩代わりした。


 だが、未だ狂い続けるジュピター。


 「かかかかけけ。神級スキル『鬼血ノ灰燼』。」

 

 ジュピターの体から漆黒の火焔が吹き出す。

全身に纏い、手を前に突き出すと煌々と燃える黒き太陽が創られる。


 フィルギャは再度、『六星呪結界』を発動しようとする。
















 「はぁ。やっぱりこうなったか。」
















 「勝負は終わりだよ。究神級スキル『神魔気支配』。」


 神級スキルを超えた次元のスキル。

ヴァルトメアは右手で掌印を結ぶと、太陽のような火焔の塊はみるみる力を失い、消滅した。


 だが未だ狂うジュピターに木々が絡みつく。

少しの時間を稼ぐ。


 「オリジナル植物『慈悲法宝じひほうぼうの樹』。」

神気を持った樹を創り出し、圧倒的物量でジュピターの動きを封じる。

 

 神樹に飲み込まれたジュピターの元へ行き、救い出すとやはり力を使い果たし眠っているようだった。


 「はぁ。こうなったか。まぁ良いか。とりあえずこの試合はフィルくんの勝ちね。はい終わり。」


 眠っているジュピターを抱えて、リリデルの元へ行く。


 「リリちゃん、あとは頼むね。」

 

 「はい、お任せください主人様。」


 熾烈な闘いはこれにて終わった。

エルフ達はまさかの主人の参入に驚き、容易に幹部の暴走を抑える姿に興奮したという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る