第66話 勇者の経験値と進化

 人間一人が生涯に稼ぐ経験値は平均でレベル換算で50レベル分。


 どんな無能な人間でも才能豊かな人間でもゴブリンを倒した時に取得する経験値が5ポイントであり、10体倒しても100体倒しても同じ。


 では1000体倒した時は同じ?

それは否。実は半減するんだねぇ。

だから効率を考えると生産というのは1番なんだよね。それも同時進行でね。


 勇者第一世代が約千名。

これは地球原産の神隠しにあった子ね。


 勇者第二世代が約一万五千名。

第一世代に15人ずつ産んでもらいました。


 そのままねずみ算式に何倍にも膨れ上がる。その膨大な経験値がヴァルトメアを新しい次元へと押し上げる。

SS級モンスターを倒した時の経験値より勇者を殺した時の経験値の方が何倍も高く、美味しかった。そして…。


 ヴァルトメアは久しぶりに次の次元、つまり進化をした。


 見た目は変わり、男神だが女神にもなれるようになり、子どもにもなれ、爺にも婆にもなれる。だが通じて美形であり、神秘的であり、見る者を振り向かせるのは間違いない。


 髪は緑が主で黒のメッシュになり、長髪ウェーブがかかっている。金の髪飾りが目立つ。

 服は白と金。ポイントに緑を基調にした神聖な雰囲気を感じる。裏地は煌めく緑。

緩めの神服が自身の性格を表現しているようだ。


 耳には金のイヤリング。体中そこらにアクセサリーが散りばめられ、一つ一つに神気を感じる。


 第何世代かも忘れてしまう程に増えに増えた勇者…経験値達。もはや不要となりつつある。


 「くくくくははははっ。力が溢れる。これが全てを超越する最高神の力か。神族としての最高位。全て破壊し創造する力。最高だよ。」


 空を仰ぎながら有り余る力に高揚する。

思わず顔が歪み、歯を剥き出しにし嗤う。


 勇者の経験値凡そ、20万人分の経験値を手にした。ねずみ算式に増えに増えた勇者を尽く殺し得た力。莫大という言葉では表せない程である。赤子だった勇者も一年以内に大人へと強制的に成長させ、モンスターを狩らせる。

急成長させた勇者達は皆が精神に異常をきたし、歪んだ性格となった。嗜虐的であり、暴力に全てを注ぎ込んだ存在となる。それが更に勇者本人のレベルアップを加速させた。


 「今なら俺くん何だって出来るね。天界にいる気に食わない連中も殺し尽くしてやろうかねぇ。っとその前にあのおバカちゃん達もそろそろ神化させないと。邪神くんの神気も溜まって経験値も神となれる程に溜まってると良いね。」


 天界にいる神々の前菜としてこの世界を蹂躙して、地獄の植物で溢れさせてやろうかねぇ。


 「地獄の植物はお好きですか?ってね。」



           ✳︎


 樹国エンデ、王城。

ヴァルトメア配下の幹部が集結する。


 「シュルルル。主様のお力が更に強大になられたな。我らも負けては居られまい。」


 クネクネと動きながら感嘆する。


 「ふはははは。我が王はどこまで昇られるのか。神として我らを導いて下さる。ありがたい限りだ。」

 

 黒き鎧を纏いし冥府の騎士王が満足そうに、そして誇らしげに笑う。


 「ワガアルジ。ツヨキモノ。サイジョウノカミサマ。ワレラモツヅクゾ。」


 巨大な蜘蛛であるヘルくん。脚をたくさん動かす素振りは興奮しているのが分かる。


 「愛しいマスターはどんどんかっこよくなっちゃうねっ♪マスターとの子どもが欲しいなぁ。」


 はしゃいでたと思った矢先、少し目の奥が黒くなるジュピちゃん。憧れと好意の先に闇を感じる闇高位妖精。


 「それにしても我らはまだまだだ。主人様とは比べて配下として恐れ多い程に弱い。我らも強くならねば足手纏いになりかねんぞ。」


 「…………。」(そうだね。ボクらも強くならなきゃ。神化しなきゃ。神化しなきゃ。)


 念話で話すスライムのアルくん。


 「はいぃ。下級ぅでも神にならなければぁ。フィル達はぁヴァルトメア様に相応しくありませぇん。」


 霊だけに空中にフワフワと浮かぶフィルくん。


 「でありますデス。ボクは勇者の経験値を使うべきだと思うでありますデス。主様に許可をいただいてボクらも強くなるべきでありますデス。」

 

 マーニちゃんはハスハスと興奮しながら、現実的な提案をする。皆が悩んでいたのはそこ。勇者を使って良いのか。主様に許可を頂けるのか。それが心配だった。


 「俺が主人様の所に許可を貰いに行くよ。ルシファーもマルコも良いね。」


 ムートくん流石はまとめ役。


 「ムートが言うならそれが良さそうであるな。」


 「ムートくんお願いね。僕はおバカだからまた余計な事しちゃう。」


 ルシファーとマルコキアスも強くなりたいのだろう。


 「じゃあ決まりだな。俺たちも強くなろう。主様に負けないくらいに。」


 タルたんは相変わらずのんびり寝ている。


 ヴァルトメアの為に、勇者という経験値を糧に更なる強さを得ようと思う幹部達であった。

ムートがヴァルトメアの王室に行く。

扉をノックし、中に入る。


 「俺くんに用?勇者を経験値にしていいか?良いよ?好きにすれば良いさ。俺くんにはもう御役目御免だしねぇ。邪神ちゃんの神気をちゃんと使いなよ?君たちもいよいよ神様になっちゃうのか。おもしろーい。」


 ニコニコとするヴァルトメア。

その目は天を見定め、植物の根の様に辺りを侵食せんとする強い想いが感じられた。



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