第59話 ニンフィの憂鬱

 女王としてエルフ族の仲間たちを守れなかった過去を思い出す。


 安心できる居住地すら確保出来ず、元老院による私利私欲の暴走を止める事も出来なかった。


 巻き込んでしまったエルフ達は許してくれたし、元老院には報いを受けさせた。


 でも情け無くて、悔しくて、心がチクチク痛む。女王としての責務は少しも果たせていない。


 精霊魔法もリリデルに勝てず、戦闘のセンスは無い。エルフ族が得意な筈の弓術も下手。


 ハイエルフというだけの存在。

薄く、虚しく、空っぽだ。


 「今日は満月か……」


 綺麗な夜空に、丸く光り輝く月。


「あんなに自分も輝けたら良いのに」


 独り言を呟く。

言葉は寂しく静かに消えていく。


 「おーい。ニンフィちゃんいるー?」


 誰かが呼んでいる。

外に出ると敬愛するヴァルトメア様が佇んでいた。


 「夜遅くにごめんね。急だけど君、宰相でもやってみる? 暇でしょ?」

 

 「宰相ですか? 私がですか? あまり自信はありません」


 「んー君は向いてると思うんだよね。かなり色々考えるタイプでしょ? 俺くんは何でも力で解決しちゃうからダメだし、幹部の連中は論外。リリデルちゃんは多分闘う事の方が好きだと思うんだよね。宰相やってたみたいだけどさ」


 「リリデルは何だって出来ますよ……。私なんかより才能もあるし……」


 俯くニンフィ。

その顔には己への自信のなさが窺えた。


 「ニンフィちゃんも出来るじゃない。ただ自信が無いだけ。君には君の良さがある。女王として民を憂い、隔てなくて、何より尊敬されてる。エルフ達を見てたら分かるよ。だから君じゃなきゃダメなんだ。俺くんだけだとその内にエルフ達をゴミの様に扱ってしまう気がする。心は神様だからね。神は残酷だから……」


 「ヴァルトメア様……。分かりました。微力ながらお手伝いをさせていただきます」


 ニンフィは臣下の礼をしながら、心に刻み込む。


 今度こそエルフ達を守り抜くと。




 次の日、謁見の間にてニンフィを宰相にする旨の報告をした。


 幹部は快く受け入れ、ニンフィは嬉しさのあまり、涙が止まらなかった。


 もっと愛し、美しく、魅力溢れる国にしようと誓った。








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