第58話 リリデルの後悔
リリデルside
「はぁ…」
深いため息が夜空に溶けていく。
ヴァルトメアから与えられた二階建ての家に
住み、食事の心配もしなくていい。服は丈夫な植物の繊維で作られた上等でオシャレな服を着ている。
衣食住が完璧なまでに保障されている。
敵に脅かされる事のない日常。
多分、普通の人には最高の生活なのだろう。
しかし、リリデルには物足りなさと申し訳なさと大きな後悔が頭の中にこびりついている。
あの日救われた恩に何か返せるものは自分には無い。いやあるはずだが、それがあまりに小さくて、責任感に押し潰されそうになる。
後悔は沢山した。
なぜ自分はこんなにも弱いのか。
なぜ女王様を守れなかったのか。
なぜここに来て安心してしまっているのか。
弱い自分に腹が立つ。
安心とは自分で勝ち取るもの。
決して与えられるものではないはずだ。
全ての原因は、弱い自分のせいだ。
でも、これ以上どうやったら強くなれるのか分からない。相談する相手は居ない。
女王様にも心配はかけられない。
ベッドに潜り込んだが寝付けない。
少しずつ夜は明けていく。
日が上り、また与えられた安心の日常がやってくる。
とりあえず何かやらなければ。
やれるとしたら樹海で魔物を狩ること。
それくらいしか無い。でも自分が強くなったとて、あの方々には勝てないと思う。
でも何かしないと。
樹国の周辺の魔物は大体がヴァルトメアの部下となっている。
部下にもなれない下等な魔物のみが狩りの対象となる。
樹海へと向かい、少し開けた場所がある。
そこから何やら音がする。金属が打ち合う音。
ダークエルフ?
と龍人?
樹に隠れ様子を見ていると鍛錬が終わったのか休憩に入った。
「ユフィ……君はとても筋が良いよ。何か武道はやってたのかい?」
朗らかな笑顔でダークエルフに話しかける龍人。
「いえ、でも何となくムートさんの動きが見えて少しずつ真似をする様にしたらスムーズに動ける様になってきたんです」
「ははは。それが才能というやつだね。誰も彼もが出来る事じゃ無いよ」
「………いずれヴァルトメア様のお力になれますか?」
「もちろんだよ。ヴァルトメア様もそう望んでおられるはずだよ。その為にももっと強くならないとね」
「はい!!」
「そして、それは君もだよ」
ムートはリリデルの方を向き、笑顔で話しかける。
「なぜ………隠れていたのに。いえ当然ですね。あの方の、この国の幹部なのですから」
エルフの中では強い部類に入るリリデルの隠密を軽々と見破るムートに少し驚き、納得した。
「何やら不安を抱えているね。俺で良ければ話を聞くよ。どうかな?」
王子然としたムートの雰囲気に頼もしさを覚え、相談してみることにした。
「そうか。強くなりたいのか。だったら一緒に鍛錬してみるかい? 勿論ヴァルトメア様の為にってのが前提だけどね」
「はい。弱いままは嫌なんです。ニンフィ様とヴァルトメア様に恩を返したいのです」
「なら……っ!!」
ムートの顔が、目つきが鋭くなっていく。
「地獄の特訓だ。もちろん、金色の果実のプロテインつきだ!!!」
その後、二週間二人の叫び声が樹海に響き渡ったという。
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