第54話 阿鼻叫喚の老エルフ
エルフィアの若いエルフ達は樹国エンデへと転移され、エンデ城へと通された。
二千人を越える若きエルフ。
エルフィアに残っていたエルフ千人。
捕まっていたエルフが千人。
戦士として鍛えられ、国の守護をしていた女エルフも含まれ、二千人のエルフが国民となる契りを交わした。
エルフ族元女王『ニンフィ』はヴァルトメアの元へと挨拶と懇願をしにきていた。
頭を下げ、片膝を地面に着け、臣下の礼をするニンフィ。
「エルフィア国、元女王ニンフィで御座います。まずはヴァルトメア陛下に挨拶を。この度は窮地を救って頂き誠に有難う御座います。此度、救われたエルフ族は貴方様の庇護下に加えさせて頂き、お仕えしたいと存じます。そして、願わくば恨みを晴らす機会を頂けたらと」
「エルフの女王か。そんな堅苦しい言葉なんて使わなくて良いよ。自然体で良いよ」
「いえ、臣下の者として敬服の意を込めたいと存じます」
あぁ、堅物なタイプかと思ったヴァルトメアくん。
「それで恨みってのは大帝国に? それとも元老院に?」
目を見開き驚くニンフィ。
「元老院のことまで………、願わくばどちらにも」
「わかった。……元老院の爺さん達は今逃げてるね。今は樹海に潜伏しているエルフの男達に偉そうに指示してるね」
「この樹海に……」
「うん。好機と見るかどうかだねぇ。俺くんの力で捕まえる事も可能だよ。やるかい?」
「是非」
強い決意が目から感じられる。
エルフの元女王として、故郷と仲間が滅亡の危機に陥れられたのは絶対に許さない事だった。
✳︎
樹海、エルフの戦闘員が潜伏している場所。
「ワシらにかかればこの樹海の主なんぞ屁でもないわ。我が精霊魔法の餌食にしてやる」
「そうじゃな。それにしても大帝国の剣聖が出張ってくるとは思わなんだ。奴らは天才であり、狂人だからの。準備もしておらんその時は逃げるのが正解じゃ」
「いずれ、機を見て反撃しよう。
そのためにもまずはこの樹海を手に入れようではないか」
またもやあり得ない妄想を抱いている者たちがここにも。
この会話も聴かれている事も彼らは知らない。
「樹海の主は魔物であろう。我らの精霊魔法は自然の中であればそれだけで凄まじい効果を発揮する。この樹海を手に入れるのも其奴が現れるまでの時間の問題じゃな」
「であるな。早く現れないも………。うぐっ!?ぐぐぐぐがががっ!?」
「なんじゃこれは木の根が絡みついてくるぞ!!」
突然地面から現れた木の根っこが七人の元老院の老エルフへと絡みつき、身動きが取れなくなる。
オリジナル植物【
•身の丈に合わない夢を見た愚者の魔力を吸い続ける樹。根で相手を捕まえ、相手の生命力すら魔力に変え、尚も吸い続ける。
捕まえられた相手は一切魔力を使用する事が出来なくなってしまう地獄の植物。
「ま、魔力が……これでは精霊魔法も使えん」
「くそ。こらエルフの兵よ!!助けぬかっ!!だれが貴様らを指揮していると思っておる!!」
「ふふははは。天から与えられたスキルってだけでで俺たちを利用しやがつて」
「そうだそうだ。ざまぁみろ!!くくくははははは!!」
「散々こき使いやがって。お前達の独断で俺たちも俺たちの家族も巻き込みやがって」
「本当は来たくなかったのに……置いてきた妹が心配で気が気じゃなかった。小さな妹だ。今頃怖くて泣いてるかもしれない」
次々の支配から解放されて自我を取り戻すエルフ達。
ハイエルフはスキルにより、エルフへの絶対的な支配力を持っている。
スキル名【
ヴァルトメアなどが保持している
例えば【植物完全支配】もこの分類である。
勿論、使用する為には魔力が必要である。
オンオフは切り替え可能で、女王ニンフィは常に敢えて、オフのままである。
「良いから助けんか!! 貴様らなんぞ我らが居なければ何も出来ないでは無いか!!」
いまだに圧倒的に上から目線でものを言う老エルフに、場の怒りのボルテージはグングンと上がっていく。
「もう放っておこうぜ。このまま何もしなければどうせ奴らは死ぬ。それを見るのも一興だろ」
「だな。面白い事になったな。少しずつ弱っていく老エルフ共を見れるなんて最高じゃないか」
すると、突然女王ニンフィが現れた。
ヴァルトメアの集団転移だろう。
「みなさん、此度の侵略行為に胸を痛められ、置いてきた家族が心配のことでしょう。申し訳ありません。元老院が勝手にした事とは言え、管理できなかった私の責任です。なので、私と老エルフの命で許してもらえないでしょうか」
悲しそうな顔でエルフ達へと話すニンフィ。
「女王様、あなた様が私達に対して普段から気にかけて下さっている事は知っています。なので、女王様には生きていて欲しいです。全責任はこの愚か者達にあると思っていますし」
「そうだそうだ!!」
「そう言って下さりありがとうございます。ならせめて、この老エルフを殺す役割は私がやりましょう。皆さんの手を汚す様な事はさせません」
「ま、待ってくだされっ!! 我らもエルフィアの事を思ってやったのだ!! 許してくだされ」
「そうですぞ!! 我らはエルフィアの繁栄を願いやったのじゃ」
次々と言い訳を口にする老エルフ。
そこに謝罪の言葉はなく、汚れ切った愚か者の保身の言葉しか出てはこなかった。
「愚か者め」
その一言を言うとヴァルトメアから貰った一粒の植物の種を地面に放り投げる。
急速に育ち、その大きな花は邪悪な気配を放つ。
オリジナル植物【宿怨の血花】
•血の様に真っ赤で大きな花を咲かせる。
対象の脳へと寄生し取り憑き、永遠の時を感じる程の苦痛を味わわせる。今までの人生で怨みを買えば買うほどに苦痛の度合いは大きく、感じる時間は長くなる。
綺麗な真っ赤な花を咲かせたその植物は老エルフの鼻の穴から侵入し、寄生した。
【愚者の吸魔樹】と合わさり、みるみると生命力が吸われ、その間も想像を絶する苦痛を与えられているのはその表情で理解できる。
「これで一見落着ですね。では皆さん我らが新しいご主人様の居場所へと案内致します」
すると、千人を優に越える若きエルフ達は一斉にその場から転移した。
その後、樹海のとある箇所で干からびた苦痛に歪む表情のエルフが尚も叫び続けているのを誰かが目撃した。
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