第53話 侯爵領の騒動
ルシファーがアブイを無の世界へと送った日。
エルフ全員を樹国エンデへと避難させた。
気絶から目覚めたエルフ達は感謝の言葉をルシファーへと口にし、ルシファーは主人へと感謝の意を伝える様に申し付けた。
侯爵領にいる民は先程感じたとてつもない邪悪な魔力に驚き、我先にと逃げ出していた。
赤子を抱いた者、子連れの夫婦、障害を持った者は逃げ遅れたが………。
✳︎
侯爵邸。
執務室でガラス窓から外を見ている侯爵は、アブイが去った後、今後に来たる幸多き未来を想像していた。
「もし王族と婚姻を結べば、我が侯爵領も安泰、私も他の貴族達の憧れの的になるやもしれん。いや、確実になるだろう。ふははは。嫉妬の目に晒されるのも慣れておかなくてはな。くくくく」
永久に来ない未来への展望を妄想し、その顔は醜い笑顔で歪む。
時間を忘れて妄想に明け暮れる。
膨大で邪悪な魔力が天へと昇っていくのが見えた。あまりの魔力圧に腰が抜けた。
「な、な、な、な、なんだ。あの様な魔力は感じた事がない。何が起こった…。まずは状況を把握しなくては。おい!!誰か居ないか!!」
同じく腰が抜け呆けている執事が侯爵の呼び声で慌てて現実へと引き戻される。急いで侯爵の元へと走る。
「旦那様、執事のセバスチャンでございます。ご、御用でしょうか」
「お、おぉセバスか。まず先程の魔力は感じたか?あれの正体を調べてきなさい。手段は何でも良い。できるだけ早くだ」
「かしこまりました。では【闇】を使っても宜しいでしょうか?」
「あぁ構わん。【闇】に連絡して、至急情報を持って来させろ」
「はい。かしこまりました。すぐに」
セバスチャンは屋敷から出ていくと、【闇】と呼ばれる犯罪ギルドへと依頼をしにいく。
【闇】とは大帝国に深く根を下ろす犯罪ギルドであり、その規模は大きく、帝国の裏を牛耳っていると言っても過言ではない。
その間にアブイはこの世から消滅した。
犯罪ギルド、【闇】の支部へと到着したセバスチャンは支部長へと会い、依頼内容を伝える。
「よくおいでくださいましたセバスチャン殿。今回はどのような御用で?」
「あぁ。旦那様よりご依頼だ。先程の邪悪なる魔力の原因と正体を突き止めて欲しいとの事だ。できるか?」
ニヤッとする男。
彼の名は【ウリュク】。顔の左半分にタトゥーが彫ってあり、長髪黒髪の怪しげな雰囲気を醸し出している。
「我らの組織に出来ないことはありませんよ。2000ゴールドでその依頼、受けましょう」
大帝国の平均的な国民の生活費が月に20ゴールド。日本円で約20万円ほど。
であるからして、調査だけで2000万円もの大金を提示する。
「分かった。旦那様にはそう伝えておく。早い連絡を待っているぞ」
「えぇ。ご期待してお待ちください。ふふ」
会話を終え、ウリュクは手下へと指示する。
「【闇】の名の下、必ず成果をあげよ。行け」
その言葉を聞いた諜報員兼戦闘員が先程魔力の柱が登った場所へと移動した。
侯爵の別館。
既にルシファーによってエルフ達は避難を終えて、建物内はすっからかんになっている。
「ヒトっ子一人もいないな。気配感知にも引っかからない。魔力感知も……反応なし」
「だな。どうする。成果無しでは支部長から罰を喰らうぞ」
「そう…だな。周辺にも気配がない。どうする」
困り果てる諜報員。
「人間か。臭いな」
突然現れた存在に【闇】の諜報員は警戒度MAXで睨みつける。
「悪魔……」
「エルフの避難も終えた。あとは貴様らのみ。この領地ごと消滅させてやろう」
ルシファーからとてつもない魔力が発せられる。莫大な魔力は収縮し、掌へと収まるほど濃い密度へと集められる。
「闇属性魔法【混沌の滅雨】」
闇属性魔法第十位階【混沌の滅雨】。
•闇属性の特性である阻害の力を濃縮し、生命維持を阻害する魔法。天からの絶望の雨として広範囲に影響し、大地や水域などの自然環境にすら効果を及ぼす。不毛の地と化す。
広大な侯爵領。
その範囲は地球の長さの単位で表せば、30平方キロメートル。端々の田舎まで含めるなら100平方キロメートルはあるだろう。
漆黒の雨雲が天から死の雨を降らせる。
侯爵を含む、生きとし生けるもの全てが死に絶え、その魂をルシファーは喰らう。
こうして侯爵領は滅び、この報せは数日後に来た行商人により大帝国帝都へと知らさられる。
この日の出来事を帝都では
【呪われし死の雨の日】と呼ばれ、この国が滅ぶまでの間、国民によって語られる。
✳︎
「ん?植物ちゃんごとやっちゃったよねルシくん。またまたお仕置きが必要みたいだねぇ。」
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