第52話 悪魔王ルシファーの力
いつのまにか転移してきたルシファー。
その気配を感じ取ったアブイは力量を量ろうとする。まさか悪魔の王だとは露知らず。
だがしかし、力量に差がありすぎるが故に、推し量れる訳もない。
「誰じゃお主は。人間ではないのぉ。ん?悪魔か…。悪魔が何故こんな所におる」
顔を歪ませ、折角のお楽しみの時間を邪魔されて、不機嫌な表情をするアブイ。
「人間風情が。下等生物は下等生物らしく地を這いずり、泥を
無表情でえげつない事を口ずさむ悪魔王。
本心なのだろう。
「うひひひひ。悪魔なんぞワシの魔法を喰らえばひとたまりもあるまいて。昔に喧嘩を売ってきた上級悪魔を屠った事があったのぉ。お主もそうなりたいか?」
ニヤニヤと自信満々に語りかけるアブイ。
彼我の差を理解できない為の錯覚か。
「上級悪魔如きと一緒にされるとは。我が主人に聞かれたら何と言われるか」
ルシファーの頭に、ニマニマとした笑顔でバカにしてくる主人の顔が浮かぶ。
「我が主人? 悪魔のかのぉ? お主の様な下級悪魔の主人なぞ大した者では無さそうじゃな。一緒にこの世界から消し去ってやろう。ひひ」
その言葉を聞いた途端、ルシファーの中の何かが暴走した。溢れる魔力と邪気にエルフ達は気絶し、アブイですら腰を抜かしブルブルと震え出す。天空にまで立ち昇る魔力の柱。
黒く、深く、強く、そして邪悪な魔力。
「な、な、何者なのだ。これ程の魔力…下級悪魔ではない。上級悪魔でもこれほどの魔力は持ち合わせてはおらん。まさか……っ!!」
気づいた時にはもう遅い。
悪魔の中の悪魔、頂点に座す悪魔の王に刃向かえる人間などこの世にはどこにも存在しないのだから。
「劣等種が……。我が偉大なる主人を貴様如きが侮辱しよって。我が力で貴様には死ぬよりも苦しい痛みを味わわせてやる」
怒らせてはいけない存在を怒らせた。
その怒髪天はアブイを殺したとて、おさまる訳もない。この領地の消滅が決定づけられた瞬間であった。
「ワシとて……人生を魔法に懸けてきた。このプライドは決して折れはしない。行くぞ悪魔‼︎」
アブイはありったけの魔力を練り、魔法を完成させる。人類でも才能のある僅かな選ばれし者だけが到達する位階。第六位階。
蛇王サマエルの子達が使った毒魔法が第八位階である事を考えると凄い事と言える。
「ふひひひひ。ワシの最高の魔法じゃ。人生を懸けた最強の魔法を喰らえ。聖光属性魔法【天光の封剣】」
眩しく煌めく天から現れたかと見紛う程に美しく神聖な十本の光の剣。その威力は上級悪魔を数十体屠ってもおつりが返ってくる程だろう。
どんな悪魔もこの世界から消滅する事、間違いないとアブイは確信していた。
悪魔王ルシファーでなければ。
「人間風情が」
「大罪の権能【醜悪なる
そのスキルは発動と同時に、ルシファーの目の前に現れた。全てを喰らう漆黒の塊が宙を舞い、アブイの魔法めがけて、まるで餌を見つけた蝿の様に飛んでいく。
頭に
光の剣は瞬く間に食い散らかされ、力を失い消え去った。
「何じゃ……っ!!!」
あり得ない。
真髄である偉大なる我が魔法が一瞬で消えるなど。
そんな言葉がアブイの表情から読み取れる。
「喰い殺せ」
ブーンという羽音が耳をつんざく。
アブイの体は第六位階魔法という膨大な魔力を使用した反動で動けない。
小さな漆黒の点が集まり、大きな塊となる。
一つ一つの黒点がその空腹を満たそうとアブイを観察する。
まずは足から食い潰す。
徐々に上へと登っていき、穴という穴から黒点が侵入し、内側からも生きたまま食われていく。即死の出来ない食い方をされているのがアブイには理解できた。
何故か。
悪魔の力の源は魂だから。それも負の感情を抱えれば抱える程に美味となるから。
言葉にならない叫び声。
失神したくても出来ない。
終わりなき非情な苦痛。
何故自分がこんな目に遭うのか。
それらの複雑な負の感情がますます悪魔を喜ばせる事を彼は知らない。
しばらく漆黒のソレは食事を楽しみ、やがてルシファーの内側へと消え去った。
「穢れた魂よ……我の糧となり、永久の苦しみを」
魂ごと全てを食い尽くされ、消滅したアブイは輪廻の法則から外れ、無の世界に彷徨う事となった。
そしてその後、この場のエルフは無事転移でエンデへと送られる。
侯爵の夢の様な人生はもうすぐ終わりとなる。悪魔王の怒りによって。
✳︎
「ルシくん、エルフちゃん達も気絶させちゃってどうすんのよ。でも下級悪魔に間違えられてるの草。植物も司る神だけに草」
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