第49話 マーニへの指令

 時は少し遡り、場面は樹国エンデ。


 謁見の間にて。


 ヴァルくんです。

エルフィアとシュテリケ、中々面白い事になってるね。

 

 わざわざ偵察に行かせた訳ですけど、正直その気になれば植物くん達に聞けば把握できるんだよね。


 何故偵察に行かせたのか。

それはね、あの子達に場所、地形、環境などを覚えてもらいたかったから。


 そうすれば、いつでもあの子達を使って侵略できる。俺が直接動くの嫌なんだよね。正直めんどいし。


 「はーい。エルフィアに行ってきたマーニちゃん。今から駆け足でエルフィアまでまた行ってきてくれるー?」


 「なぜでありますデスかー?」


 「一応うちで保護したダークエルフの故郷だと思うんだよね。ハグレだから村出身だけど元々は故郷はエルフィアだからね」


 玉座で足を組み、肘をつきながら気怠げに言うヴァルトメア。


 「偉大なる国の為、エンデの国民の為なら仕方ないでありますデス。すぐに向かうデス」


 「すまんね、マーニちゃん、ほら人参あげるよ。とっておきのやつ」


 ヴァルトメアは手のひらを上に向けると、何も無い手のひらから人参が一つ生まれる。


 虹人参と呼ばれる色んな美味が楽しめる究極の人参。一口食べれば心は幸せで満たされる。


 「がががががんばりますデデデデデス!!!!」


 張り切るマーニちゃん。

興奮し過ぎて何かやばい事になっている。


 人参に齧り付くと、目にも止まらぬ速さでエルフィアの守護へと向かった。


 「よしこれでエルフィアは何とかできるか。エンデの属国にするもよし、滅ぼすもよし。あっ。滅ぼしちゃいけないか。んんっ。それより大帝国だねぇ」


 目先の目標はエルフィアって事で、元老院は潰すの確定だけど、良い子のエルフちゃん達は保護してあげないと。


 俺が行くとまたまた樹海が増えちゃうからね。文明はあって欲しいから潰すだけだと困るから……俺はとりあえず待ちかね。


 でも元老院が来た暁には、ふふふ。

やばい植物を思いついちゃった。



           ✳︎


 場面かわりエルフィア。

女王であるニンフィと宰相のリリデルは

国の中心部、戦闘を繰り広げている戦場へとたどり着いた。


 「貴様が侵略者か。数々の蛮行、その命を代償とせよ」


 「やっと来たか。攻め入るつもりだったが……手間が省けた。お前らは奴隷として皇帝陛下の愛玩具となるんだ。それがお前達エルフの唯一の価値なんだよ」


 「ぶ、無礼者め!! 我らは誇り高きエルフだ。貴様ら人族などの慰み者になってたまるか」


 「リリデル……もういいわ。会話するのも疲れる。この男を始末なさい」


 「リリデルちゃんて言うのか。エルフの女王の前菜として楽しませてくれや」


 「偉大な母がつけてくれた名前を汚らわしいお前ごときが口に出すなぁあああ!!!」


 怒りに染まるリリデル。

全力の精霊魔法を発動する。リリデルが使役、契約しているのは上級精霊。


 エルフは基本風属性の精霊への親和性が高く、契約もしやすい。


 リリデルはエルフにしては珍しい氷属性の精霊への親和性が高い。


 氷属性上級精霊セルシウス。

非常に強力であり、上級悪魔とは対をなす。


 「氷属性精霊魔法【氷槍の白撃】」


 空中に百本ほどの氷の槍が創造される。

一つ一つが人間の体より大きい。

リリデルが右手を挙げ、振り下ろすと氷槍は

高速でヴァンの元へ飛来する。


 「氷槍か。くかか。おもしれぇ。お前の槍と俺の剣技どちらが上かねぇ」


 次々と飛来する槍を剣で切り裂き、避けられる物は避ける。


 地面に当たった槍に周囲は凍りつき、次第に辺りの温度が低くなっていく。植物は凍りつき、真冬の様な景色に変化する。ヴァンの足は地面に張りついた。氷のせいだろう。


 「身動きは封じたぞ。氷属性精霊魔法【絶氷の剣】」


 決して溶けず、割れない氷の剣を6本創造し、飛来する能力を削り、強度を高める。


リリデルの背後、空中に展開する。


 飛来する能力では無い制約のため、ヴァンへと近づく。剣聖であるヴァンには剣技でこそ勝てないが動きを封じた今なら容易に殺せる。駆け出し、展開した剣で突き刺そうと近づく。空中にあった剣が全てヴァンの方向へとその切先を向ける。


 右手に持った剣を突き刺すと同時に、展開した剣も同じ様にヴァンへと突き刺そうと切先を向ける。殺した!!






 そう思ったが。





 リリデルのお腹から剣が突き出てくる。






 「動けないフリをしてたんだよお嬢さん。剣聖を舐めんな」


 倒れ込むリリデル。

傷口から大量に血が溢れる。恐らくもう助からない。


 「次はアンタの番だ。アンタは無傷で捕らえないといけないし、難しいね。けど面白そうだ。どんな魔法を見せてくれる?」


 絶望感が漂う。

女王ニンフィが剣聖ヴァンに勝てる可能性はほぼない。


 ハイエルフという特異的な種族だから女王になったのだ。ハイエルフの特徴は下位存在のエルフを支配する事。


 元老院の老エルフは皆がハイエルフであり支配は効かない。だから裏切られたのだ。


 年も若い。

精霊魔法は長く生き、精霊との親和性、つまり仲が良ければ良いほど力を増す特徴がある。


 老エルフ程の精霊魔法使いにはまだまだなれていないのが現状。


 万事急す。


 「ここにいたでありますデスかー。一人やられているでありますデスね。じゃあまずはコレ。じゃじゃーん!!」


 右手に持った植物の種をリリデルの傷口に埋め込むと発芽し、リリデルの体が急速に治っていく。血の量も元通り。完治し目を開けるリリデル。


 「私は……」


 お腹を見るリリデルは驚いている様子だ。


 「リリーー!!良かった……」


 目から涙が溢れるニンフィ。


使った植物はこちら。

【廻福の種】

•傷口に埋め込むとDNAを読み取り適合する。瞬時に発芽し、傷を回復させる。増血効果もある。オリジナル植物。


 「あーまぁいいか。どうせもう終わった戦闘だ。んで次はお前さんかい? 兎の人間……獣人か?」


 その言葉が終わると同時にヴァンは吹き飛ばされた。数Kmは吹き飛んでいったであろう。


 目を丸くするエルフの二人。


 「なんだか、うるさくて殴ったでありますデス」


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