追憶 紫苑の花咲く色褪せた写真

つかさ

第1話

追憶 


 おじさん、私のお父さんにとっての叔父さんを皆がおじさんと呼んでいた。私も自然とそう呼んでいた。

おじさん。

 

 呼んだことがないから下の名前も思い出せないけれど、親戚の集まりの時に長机の一番左端に座って、ずっとニコニコしてくれていた。


 お喋りなおじいちゃんとは対照的に物静かで物腰の柔らかいおじさん。その性格はお父さんと似ているなと思うことがあった。実際同じ親族経営で仕事上の立場も似ているため、一世代上で助言や仕事について話していたのは叔父さんだったのかもしれない。


そんなおじさんが二年前亡くなった。

最後に一緒に行った墓参りでは身体がうまく動かないようで背は一段と低くなったようだった。靴を履く際に支えた腕の細さと微細な震えが今も思い出すことができる。


 この前、父の仕事場に行く機会があった。父と私以外誰もいない仕事場を、父の後ろでとことこと着いて行った。父の机には書類が高く積まれていて、それを手伝うのが行った目的だった。(ちょっとした小遣い稼ぎ)


 その書類の奥に革でできた黒いペン立てがあり、そこに小さく色褪せた写真が飾られてあった。おじさんのところだけ切り取られたその写真はおじさんがそこまで若くない、最近の写真のように思われた。周りには紫色の花畑が広がっているが、おじさんの周り以外は四角く切り取られていたためどこかはわからない。

 しかし、その写真を見てそこにおじさんの写真を飾る父の見えない思いを感じとり、思わず涙が出そうになったので散策しているふりをしてそっぽを向いた。


 役職上誰よりも遅くまで残業している父。一人残る広いオフィスで毎晩、父はおじさんと向き合っているのかと考えると、父にとってのおじさんはきっと頑張っているところを空からでも見守って欲しいような存在で疲れた時、辛いような時にただその微笑みを見ていて欲しいと思う存在なのだろうなと思った。


 家でいる父の印象とはあまりにも乖離している。一人で周りが真っ暗なような時間に叔父と向き合う父の姿は。


 おじさんが亡くなった時、親族はおじさんに対して可哀想、という言葉を多く聞いた。死人に口無しと言うが、父と同じく出張が多く仕事人だったおじさんが不幸だった、可哀想だなんて決めつけられるのは悔しいと思った。

 少なくともいつだって会うおじさんは優しい笑顔で、写真の中のおじさんも穏やかな笑顔を向けていた。色褪せた写真の中に、その時確実に幸せそうだった。

紫色の紫苑の花畑は断片的だが十分に美しい。

 

 私は少なくとも父を誇らしいと思っている。

 そしておじさんはきっと父の頑張っている姿を見てくれているような気がするのだ。

 その花畑の奥で。

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