第19話 眷属誕生

 ———生き物を悪魔に変える方法。


 それは彼方の世界で何千年もの間幾千幾万の悪魔使い達が成し遂げようとした、悪魔使いの中でも特に有名な難題であった。

 しかし、その割に悪魔の生み出し方は至って簡単である。


 悪魔の魔力を対象に流す、それだけ。

 本当にすることはそれだけだった。


 実験はネズミや虫などの小さな生き物から始まり———実際、猫程度の大きさの生き物を悪魔にするところまでは成功した。


 しかし、その後からは無情にも失敗の連続である。


 特に、人間やそれと同等レベルの身体の大きさの生き物や知能の高い動物などは今まで誰1人として成功するものはいなかった。

 その結果、紀元後1000年くらいで悪魔を生み出す力の発展は止まってしまう。


 では何故止まってしまったのか。


 理由はたった一つ。



 ———悪魔の魔力の不足。



 純粋で簡単な理由であるが故に誰もが解決出来なかった。

 様々な悪魔の魔力を同時に流せば実験体は木っ端微塵に爆散し、同質の魔力を少しずつ長期間込めたところで精々半魔が限界。

 しかも半魔になったところで生命維持に魔力を流さなければならないので結局は使い物にならない。


 こうして悪魔使い達の様々な工夫を嘲笑うかの如く悉く、悪魔を生み出す実験は失敗に終わった。



 ———俺が生まれるまでは。



「グァォォォォ……!!」

「正気を保て、ゼロ。お前を悪魔にするにはこんなもんじゃ足りない」


 膨大な魔力———今回は三体の悪魔の魔力を俺の中で1つの別の魔力に変えた———をゼロに流し込みながら、俺は、もがき苦しむゼロに懸命に声を掛ける。


 現在ゼロ身体は悲鳴を上げている。

 突然膨大な魔力……それも他人の魔力が入ったことによる拒否反応が身体に起きているのだ。

 しかし、それは同時に【悪魔の開花】が上手くいっている証拠でもある。


 身体を悪魔に作り替えるのだから、激痛があるのは当然だ。

 しかし俺が見込んだゼロなら、絶対に俺の魔力に耐えてくれると信じている。

 

「頑張るんだゼロ……!」

「グルァアアアアア———ッッ!?!?」


 ゼロの悲痛の雄叫びに群れの狼達が駆け寄ろうとするが……行手をアスタロトが塞ぐ。


『ここから先は行かせん。リーダーの生きている姿が見たいならそこで動かず黙っているがいい』


 その言葉で、狼達は駆け寄ろうとするのをやめて動きを止めた。

 ナイスだ、アスタロト。


 俺は心の中で感謝を述べ、魔力を注ぎ続ける。


「グルァァァァァァ……」

「耐えろ……耐えるんだ……」

 

 徐々に、本当に徐々にゼロの身体に変化が現れ始める。

 身体に亀裂が走ったかと思えば身体の内側から輝かんばかりの光が解き放たれ、ボロボロと卵の殻のように身体の表面が剥がれ落ちていく。

 そうして全ての殻が剥がれ落ちる瞬間。



「アォォォォォォォォ———ッッ!!」



 かつて狼だったモノの遠吠えが、時の止まった世界に響き渡った。

 








「———気分はどうだ?」

『……私が私では無いみたいだ……』


 俺の問い掛けに不思議そうに自分の身体に目を向けるゼロ。


 見た目こそ前とあまり変わっていない。

 しかし、内包する魔力、対面した時の威圧感は先程までのゼロの比ではなかった。

 ザッと今までの数十……下手すれば数百倍にまで膨れ上がっているかもしれない。

 使い熟せれば、あの龍魔神程度なら余裕で勝ちそうだ。


「無事、悪魔になれたみたいだな。しかも完全な悪魔だ」

『本当に感謝する———我が主よ』


 そう言ってゼロが俺に頭を下げると、あれほど俺を警戒していた狼達が次々と遠吠えを上げた後に恭しく俺に頭を下げる。


『ふむ……流石主人であるな。まさかこれほどまでに成長させるとは……』

『凄いよね。まさかまさかの僕達の眷属より強くなっちゃったよ』

『寧ろご主人様に悪魔にして貰っているのに私達の眷属如きに負けて貰っては困ります』


 俺の悪魔達の評判も悪く無いようだ。

 1番の問題は寧ろそれだったのだが……気に揉む心配がなさそうで何よりである。



「———これから宜しく頼むぞ、ゼロ」

『———此方こそ宜しく頼む、我が主』



 さて、そろそろ時間を進めるとするか。

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