第20話 化け物
「これでもう大丈夫だろ」
『感謝する、我が主よ』
「別にお礼は要らん」
ゼロを眷属にした俺は、約束通り狼達をクラスメイト達や他の人間から襲われない様に遠くに逃した。
それと同時に、残っていた狼達はゼロの配下ということで、俺がアイツらを全頭纏めて半魔半狼にして、ゼロ直属の眷族にしてやった。
これでゼロが呼べば、狼達は即座に転移で駆け付けることが出来る。
『我が主よ、何故あやつらを半魔半狼に?』
クラスメイト達の下へ戻る途中、ゼロの背中の上に乗った俺にゼロが尋ねてくる。
因みにアスタロト達は、俺が魔力を使い過ぎたせいで元の体を維持出来なくなり、現在アスタロトを除いた2人は俺の中に戻ってもらった。
アスタロトは小さな体で俺の肩に乗っている。
『主?』
「あ、あぁ……何で半魔半狼にしたか、だったな」
『うむ、我が主に何の得もないはず……』
まだ俺のことを分かってないゼロの体毛を優しく撫でる。
『あ、主……?』
「別に理由なんてねぇよ。俺がやりたいと思ったからしただけだ」
『そ、それだけの為に魔力を7割消費したというのか……』
愕然とした様子で呟くゼロ。
余程俺の行動が不可解で理解出来ないらしい。
ただ、こればかりは慣れてもらうしかないので何ともいうことが出来ない。
「まだゼロには分からんだろうが、俺は基本やりたいことをやる主義でな。兎に角俺がやりたいと思ったら絶対にやる」
『ゼロよ、主人の言葉は誠だ。我らもそれに毎度振り回されている』
「おい、振り回されているとは失礼な。お前らも基本的には即賛成じゃねぇか。何なら楽しんでるだろ」
『まぁ否定はしない。我は主人が好きで契約もしている。本来なら我と契約出来る人間など存在せん』
ま、そうだろうな。
地獄の三大支配者は大天使をも凌ぐ絶対強者だしな。
『そ、そう言うものなのか……私にはまだ分からない……』
「ま、徐々に慣れてくれればいい」
『……慣れると言うのが怖いと思うのはこれが初めてだ、我が主人よ』
そんな話をしながら、俺達はクラスメイト達の下へ向かった。
『———我が主よ、私はここで』
「ああ、ありがとう」
ゼロは俺に恭しく頭を下げると、俺の中に消えていった。
残るは俺とアスタロトのみ。
『主人よ、準備はいいか?』
「ああ、やってくれ」
俺は不服ながら朝日奈の隣に戻り、止まった瞬間と同じ動きのポーズをする。
それを見届けたアスタロトが俺の中へと消えると同時に———世界に色が戻る。
「———どうした、そんなに俺の顔を見て」
俺は歩みを進めながら、此方を見る朝日奈に問い掛ける。
朝日奈は驚いた様に俺を見ると……何故か納得げな表情で頷いた。
「なるほどね……ふふっ、透君……君はやっぱり頼りになるね」
「何の話だ?」
「———気になる?」
朝日奈が、俺からすれば気味の悪い笑みを浮かべながら此方に一歩近付く。
仄かに甘い匂いが漂っており、澄んだ漆黒の瞳が俺を映している。
一瞬その姿に不思議と目を奪われた。
「……っ、遠慮しておく」
俺は後ろからのざわつきを聞きながら、そっと一歩離れる。
背筋が凍る思いで、冷や汗が頬を垂れた。
『主人よ……これは……』
『あぁ……分かってる。コイツは———』
俺は時間を止める前よりも気分良さげに歩く朝日奈を見据えた。
『———俺が力を隠していることに気付いている。それも、勘と俺から発せられる気配の強さだけで』
魔力は隠しているが、もはやコイツの勘の前にはそれも怪しいかもしれない。
まさか……自分の様な奴と出会うとは。
彼女は、天才だ。
仮にその力が仮初とものであっても、彼女は既に完全に自分のものにしている。
俺が本気で隠している気配の強さを把握出来る奴は彼方の世界でも五本の指に入る天才と呼ばれた強者のみ。
僅かな時間で戦闘能力こそ彼方の世界の強者には全く及ばないものの、勘や感知においては並んだと見ていいだろう。
朝日奈を見ていると、朝日奈も俺を見る。
そして———小さな声で呟いた。
「やっぱり、話そうよ。その力について」
「はっ……化け物め」
「お互い様でしょ?」
「そうだな」
俺も朝日奈も嗤う。
随分と……楽しくなりそうだ。
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