第18話 4体目の眷属

「———どうだ?」

『わ、私はそれでもよいが……』


 隻眼の狼が俺の後方に勝手に現れたアスタロト達を見て畏れ多いと言った風に頭を下げる。


『果たして私が必要なのか?』

「ああ、勿論だ」

『……正気か、主人よ。あやつを悪魔にしたところで我らの眷属程度の強さにしかならぬぞ?』

『私も反対です、ご主人様。かの者が弱ければご主人様の評判が落ちてしまいます。仮に新たな眷属が欲しいのでしたら、私の眷属の内の最強の者を差し上げます』

『僕はどっちでも良いよ。ご主人様がしたいようにすれば良いんじゃないかな。まぁでもご主人様の契約悪魔が増えたら僕は楽しいから賛成かなぁ』


 反対2人に賛成1人か……珍しく意見が割れたな。

 まぁ確かに反対2人の言い分も理解出来る。


 確かにこの隻眼の狼は、どれだけ強く生まれ変わろうと精々眷属と良い勝負をする程度だろう。

 だが、そもそもコイツらが規格外に強過ぎるだけで、コイツらの第一眷属でさえ彼方の世界では誰も契約出来なかったのだから、それに比類する力を手に入れれるのなら十分な気がする。

 あとは———。


「お前ら、魔力めっちゃ喰うし見た目が悪魔過ぎて仮に誰かに見られたら、その時点で終わりなんだよ」

『ぐ……主人の言うことにも一理ある……』

『わ、私が見た目を変化させればいいではないですか? 私ならば完全に姿形を変えることができます』


 まぁ確かにそうすればある程度の心配事は防げるだろう。

 相変わらず彼らが如何に優秀かがよく分かるが……。



「———俺が契約したい、それだけじゃダメか?」

『『…………』』



 結局はこれだ。

 あの隻眼の狼は、正直めちゃくちゃかっこいい。

 それに俺の悪魔になれば、あの龍魔神より確実に強くなれる。

 それなら十分に役立ってくれるはずだ。

 てか———。


「お前ら全員近接戦闘しないだろ」

『『!?』』

『あはははっ、確かにね。僕なんかそもそも戦闘向きですらないしね』


 俺の言葉にビクッと身体を震わせてスッと目を逸らすアスタロトとルシファー。

 逆に完全に戦闘向きではなく、そもそも反対すらしていなかったベルゼブブだけは面白そうにケラケラと笑っていた。

 

『……そうだな、確かにそれなら利があるだろう。我は主人の決定に従う』

『私も眷属にする価値があると分かりましたので賛成します。———全てはご主人様のお望みの通りに』

「よし、ありがとうアスタロト、ルシファー」


 俺はずっと待っていてくれた隻眼の狼の下へ向かう。

 その際残った狼達が未だ俺を警戒しながら低い唸り声をあげていた。


「ふっ、随分と嫌われたもんだな。まぁ仲間をあれだけ殺せばこうなるか」

『……見逃してくれること、本当に感謝している』

「別に気にするな。俺と一緒に前で戦ってくれる相手も欲しかったしな。お前ならアイツらと同等とはいかないが……ある程度良い勝負が出来るようにはなるはずだ」


 俺はチラッと後ろの3体の悪魔達を見て言った。

 まぁ隻眼の狼は、持ち前の本能でか、あの圧倒的な覇気を纏った3体とある程度打ち合えると言われて些か訝しげにしているが。


「お前の名前は?」

『……ゼロだ。この迷宮で生まれ、一度も外に出たことも、出たいと思ったことも、目的すら持ち合わせない憐れなモノの1つ』

「だからゼロ何もないか?」

『そうだ。私が食い殺したモノの中にこの言葉を発しているモノがいたので、拝借した』


 ゼロが、澄み渡る晴天の如き隻眼で俺を見つめる。

 そんなゼロに、俺は触れた。

 優しく、優しくその毛並みを撫でる。

 

「準備はいいか?」

『……うむ』


 俺はゼロの返答を聞くと、己の中にある膨大な魔力を操作して———。



「———【悪魔の開花】———」



 全ての魔力をゼロに流した。

 

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