第17話 ダンジョン③
『———主人、来るぞ』
「分かってる」
アスタロトの忠告と同時に、先程とは違って連携して4体の狼が襲ってくる。
俺はまず前方の狼の前足を避けながら背後から突進してくる狼を飛び越える。
そして空中で剣を振い、飛び掛かってきた1体の狼の噛み付きを防ぐと、そのまま身体強化を用いて狼ごと剣をもう1体の飛び掛かろうとしていた狼へとぶつけた。
「ギャウ!?」
「まだまだこんなもんじゃねぇぞ」
地面に着地すると同時に地面を蹴り、先程の攻撃で地面に叩き付けられたせいで動きが鈍くなった狼の首を刈り取る。
だが相手も生き物を殺した後が1番隙が生まれると分かっているらしく、3体同時に斬られた狼を巻き込んで炎を吐く。
「……お前ら火なんか吐けたのか。まぁ、全く意味ないけどな」
俺は剣に魔力を込めると、迫り来る炎目掛けて振り払う。
同時に魔力が斬撃として飛び、炎を真っ二つに両断した。
『主人よ、なるべく騎士達に当てないように戦ってほしい』
「……ああ、そうだったな。こっちで受けたダメージは時を戻さないと反映されるのか」
アスタロトの声に、俺は狼を斬り飛ばしながら答える。
俺自身なぜ時間が止まっている中で攻撃したら時間が動き始めた時にダメージが入るのかさっぱり分からないが、他でもないアスタロトが言うのだからそう言う仕様なのだろうと勝手に解釈している。
本来悪魔の力は悪魔使いに代償を伴うので術者側は調べるだろうが……俺に関しては死ぬまで魔力供給を行い、悪魔が使う力を俺が魔力を肩代わりするだけの緩い代償なので何も調べてない。
何なら、3人が俺に申告してない別の能力も隠している可能性まである。
基本俺が適当だから気にしてないが。
そんなことを考えていると……今度は炎ではなく風を操る狼が現れた。
しかも直接攻撃してくる系統ではなく、あくまで自分の動きの補助と防御のに使っているせいで非常に面倒臭い。
アイツらとは戦いたくねぇな……。
ただ風を纏った狼が先程の奴とは比にならない速度で急接近してきては、鋭い鉤爪の付いた前足を振り下ろしてくる。
俺は咄嗟に剣で受け止めるも、地面に足を着いたまま大きく後ろに吹き飛ばされた。
『ご主人様っ!』
「よせ、手を出すなよ。ふっ……やっぱり自分で動くのも楽しいな……!」
俺は楽しくて嗤う。
そんな俺の狂気的な笑みに狼達がより警戒心から全身の毛を逆立て———鋭く吠える。
「「「アオォォォォォン!!」」」
「ん? 何をして———っ!? おお、まるでドラ◯もんの空気砲だな」
突然、目に見えない風の塊によって砲弾を食らったかのような強烈な衝撃波が俺の身体を襲い、受け流したにも関わらず剣を握っている手がジーンと痺れていた。
俺は全身を魔力で強化し、狼達の攻撃を回避しながら何度か手を感覚を確かめる。
ふむ……彼方の世界の時の俺なら、魔力で身体強化してないと手の骨が砕けてたな。
どうやらこのレベルアップとか言うシステムは相当凄いらしい。
俺は少ししてやっと手の感覚が戻ってくると、襲い掛かってきた狼を既のところで回避しながら胴体を斬り裂く。
彼方の世界の技術が惜しみなく注ぎ込まれた俺の剣にも魔力を込めているので、風の防御など紙切れ程度の役割にしかならない。
「さぁ、まだまだ遊ぼうぜ……!!」
『———主人よ、1番強い奴が動き始めたぞ』
「ん?」
あれから完全にレベルアップによって強化された身体の感覚に慣れた俺は、破竹の勢いで狼達を倒していき———遂にボスが動かなければならない状況まで持ち込むことが出来たらしい。
俺は狼の死体の山の上に座り、悠々と、それでいて威厳を感じさせる佇まいで歩いて来る隻眼の狼と相対する。
『———其方は何者だ?』
「っ!? ほぅ……お前、話せるのか?」
『然り。されど、私が話をしなければならないモノなど今まで存在しなかったが……其方はどうやら私の力をも超越しているようだ』
隻眼の狼は此方を見据えて言う。
……思った以上にイケボだな、この狼。
アスタロトが渋いイケボなら、コイツは力強い低音イケボだな。
対する俺は、比べるのも恥ずかしいくらいにクソほどどうでも良いことを考えていた。
頭の中で大きなため息が聞こえた気がするが無視。
「それで、何が言いたい?」
『私の家族を見逃してくれないか』
「良いぞ」
『勿論何でも———何っ!?』
あまりに俺があっさりと受け入れたせいで逆に隻眼の狼が驚くこととなった。
まぁ戦うのは満足した……と言うか正直飽きてきたからな。
『か、感謝する……強き者よ』
「別に良いけど———俺と契約して悪魔にならないか?」
俺が何気無く投げ掛けた言葉に———。
『…………』
隻眼の狼は片目を大きく見開いて唖然としていた。
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