第16話 ダンジョン②

 ———後10分程で此方に騎士達と同レベルのモンスターの大群がやって来るらしい。

 つまりそれは……朝日奈を除いたクラスメイト達の全滅も示唆している。


 俺はチラッと後ろに視線を向ける。


 やはり、誰もが程度は違えど緊張している様子だった。

 まぁそれも仕方のないことだろう。


 どれだけステータスを手に入れ、人間を超越した肉体や能力を手に入れようと、平和な日本で育ったまだ子供だ。

 人生初めての命懸けの戦いに恐怖や緊張するのは当たり前だろう。

 そもそも悪魔使いの俺や、何故か全く緊張していない朝日奈がおかしいのだ。


 そんな奴らに1体1体が騎士達レベルのモンスターの大群が迫っている。

 現在、騎士に勝てる者は朝日奈以外存在しない。

 次点で一樹と源太……なのだが、多分コイツらでもモンスターには勝てないだろう。

 ただでさえ相手の方が上なのに、本物の殺気を知らないアイツらには格上殺しは絶対に不可能だ。


 そしてその肝心の騎士達だが……僅か30人しかいない。

 本来ならそれでも過剰戦力なのだろうが、相手は300体。

 もう完全に俺達勇者のレベルアップに期待するしかない状態か。


「どうしたの? そんな険しい顔して」


 朝日奈が俺の顔を覗き込んで尋ねてくる。

 ただ、言葉の割に何故かとてもワクワクしていそうな表情をしていた。


 ……どうせならモンスターのことを朝日奈に話してみるか?

 コイツなら騎士達も話を聞いてくれると思うが……何故俺がそんなこと分かるのかと聞かれるのは普通に面倒だな。


「いや、何でもない。何か周りの魔力が変に感じるだけだ」

「あ、それは私も同意見よ。何処か……気持ち悪いのよね」


 そう言えばコイツも魔力感知の能力を手に入れてたな。


 つくづく不気味な奴だ。

 正直彼方の世界で裏の世界と関わっていたと言われても俺は驚かん。

 

『主人よ、どうする?』


 頭の中でアスタロトが問い掛ける。

 ただ……どうやらもう俺の考えを理解しているようだ。


 そうだよな。

 俺は自分のしたいようにするためにこの世界に来たんだ。



「———アスタロト」

『承知した、主人よ』



 ———世界が停止する。









『今回は少し動きが遅かったな、主人よ』

「……隣にコイツが居たからな」


 俺は動きを止めた朝日奈に目を向ける。

 朝日奈は此方を向いて不思議そうな顔をして停止していた。


「ふむ……我の魔力を感知したか」

「ああ、コイツは気持ち悪いくらいに勘がいい。だから極力コイツの近くで力を使いたくなかった」


 時を止める時は、ほんの一瞬だが魔力が急上昇するので、バレる可能性が高くなる。

 恐らく突然俺の魔力が上昇したことに不思議な表情をしているのだろう。


『主人よ、どうやって倒す?』

「ふむ……ルシファーの魔法は独特だから怪しまれる……。だがそれを言えばベルゼブブの方が奇妙な攻撃痕が残るからコイツも駄目」

 

 俺は自分のステータスを確認する。


————————————

魔影透 人間? 17歳 男

レベル【64】

職業【悪魔使い】

体力【740?】 魔力【表示上限突破】

攻撃【740?】 防御【740?】

敏捷【740?】 知力【97(固定)】

魅力【80(固定)】

能力【使役:11(超越)】【気配感知:5】

【魔力感知:10】【翻訳】

使役悪魔【地獄の三大支配者】

————————————


「へぇ……俺はトドメを刺してはないが……龍魔神とかいう奴を倒したからか」


 レベルが爆上がりしている。

 どうやらあの龍魔神は相当レベルが高かったようだ。


 まぁ腐っても俺の【悪魔同化】の一撃に耐えた奴だからな。

 と言うか多分今なら素の能力で朝日奈にも勝てるんじゃないか?


「まぁアイツのステータスは異次元だったしどうせ直ぐ追い抜かれるか。だが……」


 俺は彼方の世界から持ってきた『空間拡張ポーチ』から一振りの剣を取り出す。

 悪魔使い専用の悪魔の魔力に耐えられる漆黒のロングソードだ。

 刃渡りは1メートル程で、通常のロングソードよりも刃が薄く、切れ味が鋭い。

 しかし薄いと言っても日本刀よりは強度もあるだろう。


「久し振りだな」


 俺は何回か剣を振り回した後で軽く剣舞を舞う。

 どうやら身体強化をしておらずとも、彼方の世界での俺の標準レベル程度の力が出せるらしい。


「さて……どうやら少し、時を止めるのが遅かったらしいな」


 俺は先頭で剣の柄に手を掛ける騎士団長に目を向ける。

 恐らくモンスターの気配に気付いたのだと思うが……なるほど、騎士団長は他の騎士とは一線を画す手練れと言うわけか。

 

「まぁ、お前の出番はないけどな」


 俺はズカズカと無造作に歩いて行って、モンスターの大群の目の前に移動する。

 

 アスタロトの言うモンスターの大群とは狼型のモンスターのようだ。

 1頭1頭が3メートル近くあり、全体的に灰色の毛に身を包んでいる。

 そしてそんな狼達の1番後ろには、体長7メートル程の片目に傷がある、漆黒の毛に身を包んだ隻眼の狼がいた。

 十中八九コイツが群れのボスだろう。


 ……かっこいいしペットにしたいな。

 

「アスタロト、モンスター達の時間だけ動かせ」

「承知した」


 アスタロトが小さな身体で顕現すると同時に、モンスター達が何事も無かったかのように動き出す。

 そして、目の前で佇む俺を視界に捉えた狼達が真っ向から飛び掛かってきた。

 飛び掛かってきた数は3。


 俺はそんな狼達を———。



「———ふっ、随分と威勢がいいな」



 一振りの下に斬り伏せる。

 横薙ぎによって俺に飛び掛かってきていた狼は3体共胴体を切断されて絶命する。


 ベチャッと地面に落ちる仲間の死体に、狼達が怯む。

 そんな狼達に、俺はニヤッと嗤った。



「なぁおい、少し俺の遊び相手兼サンドバックになってくれよ」

 


 今度は俺が狼達に飛び掛かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る