第14話 バレているらしい
「———本当に大丈夫なのよね?」
『当たり前です。私に掛かればこの程度の結界を発動させないことなど容易です』
「ルシファーが言うなら大丈夫だ。だから安心してくれ、シルフィア師匠」
俺達と共に自室へと戻ってきたシルフィアだが、未だにバレないか心配して挙動不審になっている。
そうやっている方がバレそうだけどな。
「マカゲはあの結界の恐ろしさを知らないからそんなにリラックスしていれるのよ。もしもバレたら……うん、間違いなく私は死ぬわね」
「……本当か? シルフィア師匠程の人を殺せる奴がいるのか?」
「いないわよ。その代わり魔力を封じる手錠を掛けられるの。その後はそのまま他の呼ばれた人達の前で見せしめの首チョンパね」
やけに具体的なシルフィアの説明に、流石の俺もドン引きする。
シルフィアもこの世界にとって大切な戦力なのだからそんなポンポン殺さないと思うんだが……。
「…………この世界だと決して大袈裟に聞こえないのも、怖いところだな……」
俺がそんなことを思っていると……コンコンコンと部屋の扉を誰かがノックする。
「———ッッ!?!? ま、マカゲが開けてくれないかしら……?」
「……」
「し、師匠の命令よ!」
「……」
「…………分かったわよ。ちゃんと自分で開けるわよ……」
俺は、ノックと同時に全身をビクッと震わせて、声にならない絶叫を上げ何故か俺に出させようとするシルフィアをジト目で見つめる。
少しの抵抗の後、無言の圧力に耐えきれなくなったらしいシルフィアが覚悟を決めて扉を開けた。
「な、何かしら———って……」
扉の前にいるのもを見たシルフィア師匠の表情が驚いたものに変わる。
同時に、今度は俺がビクッと身体を震わせる番であった。
……何で来るんだよ……朝日奈。
そう、シルフィア師匠の部屋を訪ねてきたお客さんは———一介の執事、メイドや騎士などではなく……俺の会いたくない相手第1位の朝日奈であった。
一体何のために此処に現れたのか不明である以上、関わるのは御免被る。
『シルフィア師匠、俺が此処にいると言わないでくれ』
『……っ、いきなり頭の中に語り掛けないでもらいたいのだけれど?』
『そんなこと今はどうでも良い。アイツにだけは……朝日奈にだけは絶対に会いたくないんだ』
『な、何でそれほど避けるのかしら……? 別に彼女、悪そうには見えないけど……』
『この世には悪人なんかよりよっぽど面倒な人間が存在するんだよ』
俺の場合は朝日奈だったと言うだけ。
「どうしたのですか、シルフィアさん?」
「いえ、何でもないわ。それで……私の部屋に何の用かしら?」
そんなシルフィアの問いに……朝日奈がクスッと笑いながら言った。
「———ここにいる……透君に用があってきました」
……バレてんのかよ。
「———おはよう、透君」
「……おはよう」
「どうしたの? 朝から元気ないね?」
そうにこやかな笑みを浮かべて尋ねてくる朝日奈。
アンタは一体誰のせいでこんなに元気がないのか一度しっかり考えた方がいいと思う。
そんな言葉は心に仕舞い、はぐらかす。
「まぁ、朝だからな。それで……朝日奈は俺に何の用があるんだ?」
「別にないよ? ただ……君の友達が『透君が部屋にいない』って言ってたのを聞いただけだから」
つまり、勘で俺の居場所を把握したと言うわけか。
つくづく危険な女だ。
俺が朝日奈への警戒心を1段階上げていると……面倒な奴らが俺達の下にやってきているのに気付く。
既に中庭に居る俺に逃げることは不可能。
「———透〜〜! 一体どこにいたんだよ〜〜! 結構探したんだぞ!」
「うるせぇ……」
「なっ、五月蝿いとは何だよ〜。こちとらそこそこ探したんだぞ」
一樹が朝だと言うのに真昼間と同じテンションで絡んでくる。
正直鬱陶しいったらありゃしない。
「随分と無駄なことをしてたんだな」
「酷くね?」
「酷くない」
「てか何で香織と一緒に居るんだ?」
普段はお馬鹿な源太だが、目敏く俺と朝日奈という珍しい組み合わせを指摘して首を傾げる。
珍しいな、源太……俺も同じ気持ちだ。
ただ、陽キャと言う者は誰に対しても下の名前呼びなんだな。
「それな〜確かに香織が透と話してるところ見たことないよな〜〜」
「たまたま会ったのよ、行っている途中で」
「へぇ……俺達があれだけ探しても出会わなかったのに凄いな!」
ほんと源太は馬鹿正直過ぎて困る。
まぁ俺からすればこの朝日奈とか言うよく分からない奴なんかよりよっぽど付き合うのが楽でいいが。
何て俺が思っていると……アリシアが真剣な表情で口を開いた。
「勇者の皆様、おはようございます。今日はお伝えしなければならないことがあります」
そう前置きをした後———。
「———今朝の未明……ここから遠く離れた所で膨大な魔力を感知しました。それも……魔王に匹敵する、もしくはそれ以上の魔力を……」
アリシアは危機感の籠った声で言った。
同時にクラスメイトや騎士達の間にも波紋が走る。
そんな中———俺は固まっていた。
……それ、俺じゃん。
あながち、シルフィアが恐れるのも間違っていないのかもしれない……。
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