第12話 悪魔使いの本領(三人称)①
———悪魔使い。
人間より高次元の存在である悪魔を使役する特殊な人間のことを指し、主に悪魔使いの才がある者は基本的に魔法使いの才能が皆無なことが多く、魔力の扱いも未熟だ。
しかし、悪魔使いは魔力を扱えないが故に魔力を蓄える器———魔力量と如何なる魔力をも吸収し、蓄えることのできる魔力適応力が桁違いに高い。
そんな人間を悪魔は好み、既に悪魔と契約した悪魔使いの助力を得て契約を結ぶ。
また、契約は基本的には人間が不利なように結ばれる。
当たり前だ、人間の方が立場が下なのだから。
通常の悪魔使いならば、悪魔に力を借りるだけで代償を伴う。
だが……中にはいるのだ。
———魔力の扱いが桁違いに上手く、悪魔に対抗する術を手に入れる悪魔使いが。
その特異な存在の中でも魔影透という人間は———天才だった。
魔力の扱いは世界最強の魔法使いすらも凌駕し……魔法こそ使えないものの、魔力を身に宿す身体強化は、人間の限界なんぞ遥かに超越した強化率を誇っていた。
悪魔と契約者平等の契約を結び、力を借りるだけでなく悪魔そのものまでもをその身に宿すことが出来る程に。
「———久し振りの感覚だな……!」
決して大きな声だったわけじゃない。
しかし天にまでその声は響き渡り、ディストラートの耳朶に触れた。
『……な、何だ、この力は……!?』
「おい、そんなビビるなよ。俺がお前と同じ混ざりモノになっただけだろ?」
その声に、ディストラートは身を竦める。
何故かはディストラート自身にも分からなかった。
しかし———目の前の敵が自身の命をも脅かす存在であると、本能で理解した。
(あの者を生かしてはおけん……!!)
ディストラートは、未だ光に包まれた透を見つめて口を大きく開けた。
口内に再び膨大な魔力が集い———数メートルにも及ぶ漆黒の魔力の塊が出来上がる。
『死ねぇぇ———ッッ!!』
ディストラートから放たれた強力な魔力砲が光に包まれた透を襲う。
「マカゲ———ッッ!! この———【
シルフィアが叫び、再び魔法を発動しようとした瞬間———。
「———【熾天使の極光】———」
透を包んでいた純白の光が消え失せ、透の声と共に純白の眩い光が一直線に放たれ、ディストラートの魔力砲が一瞬にして掻き消される。
『何ッッ!? き、貴様は———ッッ!?』
ディストラートが自身の本気の一撃をあっさりと消し飛ばされたことに瞠目すると同時に、全身を今まで体験したことのない程の威圧感が襲った。
そこには———。
『ば、馬鹿な……!? に、人間が悪魔と同化するだと……!?』
「ふんっ、少しは耐えてくれよ?」
瞳に漆黒と純白の輝きを灯し、白と黒のオッドカラーの髪に変化させ、背後に3対の漆黒の翼と3対の純白の翼を停滞させた———透の姿があった。
「———こ、これって……」
「———【
神々しくも禍々しい威圧感を放つ透の姿に言葉を失うシルフィア。
そんなシルフィアの隣に立ったアスタロトが、面白そうに笑いながら言った。
「主人はな……我ら最凶たる悪魔を3体使役できるだけでなくその力を身に宿すことが出来るのだ」
「そんなことしたら……」
「爆発するね。悪魔の魔力に耐えられずにその者は消滅するよ。でも———ご主人様はそうはならなかったんだ……! 僕の大切なご主人様だけは……!!」
恍惚な笑みを浮かべたベルゼブブの姿にドン引きするシルフィアと……。
「キモいぞ、ベルゼブブ」
「酷いよ、ご主人様!」
その主人たる、透。
軽蔑の視線を向ける達に、ベルゼブブは爽やかな顔を豹変させて泣き顔を晒す。
そんな敵の前とは思えぬ透達の姿にディストラートがブチギレる。
『儂を前にしてその態度……万死に値する……ッッ!!』
ディストラートの怒りの咆哮が辺りに響き渡らと同時に雷鳴に轟き、幾重にも重なった雷が吹き荒れる。
強い風は人間など一瞬で切り裂くほどの威力を持ち、それら全てが意思を持ったかのように透の身に迫る。
「———五月蝿いな。少しくらい待てよ」
純白と漆黒のオッドアイを滑らせ、上空のディストラートを見据えた透が一言呟く。
「———【大悪魔の極光】———」
瞳と翼が全て漆黒に染まり、透の身体が宙に浮く。
そして透を中心に———溢れんばかりの漆黒の光が世界を埋め尽くした。
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