第10話 龍魔神ディストラート

 あ、昼に上げたやつ消しました。

 こっちが正規になるんで記憶を消去してくれるとありがたいです。

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「———連れてってって言われても……」

「どうした? 何か不具合でもあるのか?」


 緊張に身体を強張らせながらも渋るシルフィアに、どこに渋る理由があるのか、と俺は首を傾げる。

 今の俺は機嫌が良いから、何でも聞いてやるぞ。


「……指導員になる条件として、勇者が育つまでは勝手に外に出ることを禁じられているのよ」

「ふむ……大方、勇者の存在が魔族側に伝わらないようにするためか」


 勇者を知っている者が自分達の預かり知らぬところでペラペラと勇者のことを話してもらっては困るからな。


 今王城を集中的に攻撃されれば、多分勇者だと朝日奈くらいしか使い物にならない。

 次点でかろうじて一樹と源太か。


「だから、この王城を出られないように結界が張られているの」

「……そうか」


 そんな大掛かりなことまでしているのか。

 余程この国は勇者の召喚に力を注いでいるのがよく分かる。


 だが———そんなこと、俺には知ったこっちゃない。



「———大丈夫だ。それは俺に任せろ」

「え? ———え?」



 シルフィアは、突如世界の全てが灰色に色褪せた光景を目にして瞠目し、急いでベッド立ち上がって外に飛び出そうと……したが扉が開かないことに更に驚愕する。

 そして直ぐに術者が俺だと気付いたのか此方に顔を向けた。


「……これはどう言うことなの?」

「時間を止めたのだ、シルフィア嬢よ」

「じ、時間を止めた……? そ、そんなの不可能……いや、定義としては不可能ではないのかしら……? 因みに……範囲は聞いても良いのかしら?」


 シルフィアが此方の顔色を伺いながら恐る恐ると言った感じで聞いてくる。

 どうやら魔法使いはどこの者であっても知的好奇心が旺盛なようで、驚愕と同時に興奮もしているようだった。

 案外魔法使いという者は俺と相性が良いかもしれんな。



「———世界だ」

「…………………は?」



 シルフィアは俺の言葉を聞いた途端、ポカンと口を半開きにして呆ける。

 しかし直ぐに意識を取り戻せば、頭を何度も振って「これは聞き間違いよね……?」と疑心暗鬼になっていた。

 

「……本当に世界全部の時間を止めたの?」

「ああ」

「あ、あり得ない……一体どれだけ途方のない魔力が必要になると思っているの!? 世界よ、世界! しかも時間魔法なんて超高度な魔法は物凄い魔力を消費するのに!」

「まぁ……俺の魔力量なら大体2日くらい待たせられる」

「……と、とんでも無いわね……」


 俺の言葉にその場で額に手を当てて崩れ落ちそうになるシルフィア。

 そんなシルフィアは、薄笑いで呟いた。


「ははっ……これなら結界なんて無意味よね……いいわ、連れて行ってあげる。私もいつか乗り越えないといけない場所だから。今かだいぶ後かの違いでしかないもの」

「おお! 思い切りがいいな、シルフィア!」

「ちゃんと師匠をつけなさい」


 そこは譲らないんだな……。

 








 ———俺達が空を飛んで止まった時間の中を移動すること7時間。

 途中でルシファーとシルフィアの俺の師匠を巡る口論が勃発したりと問題はあったが何とか到着した。


「———ここよ……。まさかこんなに早く戻ってくるなんてね……」


 シルフィアが苦虫を噛み潰したかのような表情で感慨深そうに、それでいて怒気を隠さず吐き捨てる。


 そんなシルフィアを視線の先には、起きたのは10年前というのに未だ森の焼け残りや倒壊した家屋が散乱し、地面は真っ黒に変色していた。

 それだけでなく空はどんよりと曇り……辺りには禍々しい魔力が漂っている。

 ……確かに厄災と呼ばれるだけあって相当酷い。


「これなら生存者が魔法を使えたシルフィア師匠だけなのも頷けるな」

「———主人よ、何か来るぞ」

「ご主人様、私も感知致しました」

「僕もかな」


 悪魔3人が上空を見上げる。

 既に時間停止は解除しているのでそれも当たり前なのだが……俺のワクワクはもう限界知らずであった。


 さぁ、どれほどのものなのか———俺に教えてくれ……!


 俺がそう思った瞬間———何条もの赤黒い雷が天より放たれる。

 放たれた極大の雷は一直線に此方へと降り注ぐが……。

 

「ルシファー」

「承知しました」


 ルシファーが生み出した虹色に見える光のベールに阻まれた。

 更にまるで光を反射する鏡のように雷が天へと駆け上っていく。






『———儂の領土に侵入した不届き者は一体何処の何奴だ……?』





 雷を掻き消して地に響く重低音を響かせながら雲の間から現れたのは———龍。

 それは誰もが思い浮かべるような龍だった。


 漆黒の体躯に、所々赤い亀裂が走って全身を赤黒いスパークが包み、真紅の瞳が俺達を睨みつける。

 全長は雲に隠れていて分からないが、ざっと裕に数百メートルはありそうだ。

 

「……龍魔神ディストラート……ッッ!!」

『……ん? 貴様は……ああ、儂が見逃してやった小娘か』

「今日こそ……今日こそはアンタをぶっ殺してやるわ……ッ!」


 シルフィアが怒りに震えながら、魔法を放とうと———するところで俺は止める。


「待ってくれ、シルフィア師匠。師匠じゃ勝てないだろ。俺がある程度まで弱らせる。トドメはシルフィア師匠に任せるぞ」

「……っ、マカゲ……お願い、するわ……。どうか———あのクソ龍をなんとかして!」

「任せろ」


 俺は悔しそうに唇を噛むシルフィアの願いを聞き受けると上空を見上げながら———おかしそうに嗤う。






「———おい、俺とやろうぜ」






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