第9話 秘密

「———どうかしら、マカゲ。少しは貴方の師匠が凄いって分かったかしら?」


 シルフィアの魔法による大爆発の後、彼女は此方に振り向いて得意げな顔をする。

 その後ろでは、過剰な威力の魔法によって的だったであろう残骸が灰となって宙に舞っていた。

 地面も爆発によって真っ黒に焦げている。


 ……どうやら初めての弟子に良い所を見せたかったらしい。

 まぁでも実際、結構凄かったのは事実だ。

 その証拠に———。


『ほう……中々の魔法だな』

『えぇ……勿論ご主人様の1番な僕である私の方が何百倍も強いですけど』

『相変わらず女に厳しいね、ルシファーは』


 俺の悪魔達も全員良い反応をしている。

 流石勇者の指導者に選ばれるだけある、と言ったところか。

 それに、俺がこの部屋に来るまでにシルフィアに少し質問したりしたのだが……面倒事への対処の考え方以外は、大まか俺と同じではあった。 


 因みに、俺が基本スルーなのに対してシルフィアは自分のできる範囲でなら請け負うと言った感じだ。

 何でもかんでも背負い込む馬鹿な考えの人じゃなくて少し安心した。


 俺が某源太や某一樹の事を思い出して顔を顰めていると……シルフィアがいつの間にか近付いてきていて、心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。


「どうしたの、マカゲ? もしかして魔力に酔っちゃった?」

「……っ、いえ、大丈夫です」

「そう? それなら良いけど……くれぐれも無理はしないでよ。せ、折角私の初めての弟子なんだから……」


 そう言って嬉しそう且つ恥ずかしそうに少し顔を赤くしながらゴニョゴニョと話すシルフィアは、正直言って少し可愛かった。

 これ程の力を持つ魔法使いが何故今まで弟子を取らなかったのか、甚だ疑問だが。


『訊いてみればいいんじゃない?』


 ベルゼブブがなんて事ない風に言うが、人間には触れてほしくない過去もあるんだよ。

 それに何か面倒そうだし触れな———。



「———私ね……本当は弟子を取るために指導員になるのを了承したの」



 どうやら、もう手遅れだったらしい。

 何処か沈んだ表情を浮かべるシルフィアは独白のようにポツポツと話し始めた。


「昔はこの国じゃなくて……もっと遠い辺境の小国の村で暮らしてたの。家族も村の人も優しくて……皆んな大好きだったわ」


 ああ、マズイぞこれは……絶対に面倒事を打ち明けられるタイプじゃないか……!


『主人よ……時間を戻すか?』

『……せめて最後まで聞くか。時間を戻すのは聞いてからでも遅くないだろ?』


 俺はアスタロトとの話をやめて、さっさと本題に入って欲しいので質問する。

 

「大好きだった……と言うのは?」


 彼女はもう既に諦めたかのような儚い笑みを浮かべた。

 

「もう居ないわ。皆んな……皆んな死んでしまった……私のせいで……」

「私のせい、とは?」


 気付けば、俺達のいる部屋はいつの間にか俺の部屋と大して変わらない間取りの部屋に変わっていた。

 俺が少し驚いていると、これは私の魔法で作ってたのよ、と地味に凄い事を打ち明けたシルフィアがベッドに腰掛ける。

 

「マカゲも座っていいわよ」

「じゃあ俺はこっちで」


 俺は近くにあった丸いテーブルと背もたれのある椅子を持ってきて座る。

 なるほど、俺の部屋のとは比べ物にならないほど、良い椅子だな。

 身体が包み込まれている感覚だ。

 

「ふふっ、椅子1つで何そんなにはしゃいでるのよ」

「椅子1つとは何ですか。俺の部屋の椅子より大分良いヤツですよ、これ」

「そりゃそうよ。私の私物だもん」


 そりゃ良いヤツなわけだ。

 

 俺が1人納得していると、シルフィアが再び話し始めた。

 

「えっとどこまで話したかしらね……ああ、私のせいまでね。私の住んでいた村には、立ち入ってはいけない場所があるの」

「ほう……因みにそれは……?」


 何だ、その面白そうなモノは……!


『主人の悪い癖が出たぞ……』

『嫌な予感しかしないね』


 何やら悪魔2人が五月蝿い気がするが、無視しておこう。 

 このワクワクが不適切とは分かっているのだが……どうしても抑えきれなかった。


「な、何が居たのですか……?」

「うーん……マカゲの世界にいるのかは分からないけど———」


 そう前置きをして、シルフィアが言った。




「———龍よ。伝説の半魔半龍———『龍魔神ディストラート』っていう厄災…………マカゲ……?」




 思わず笑みを漏らす俺に、シルフィアが戸惑った様子で俺の名前を呼ぶ。

 頭の中では、3人のため息が聞こえた。


『主人……』

『良いだろ? 多分コイツならバラさねぇと思うぞ』

『まぁ……我は主人が良ければそれでよい』

『僕も別に良いよ』

『私は賛成です。丁度良いですし、あの女に私がご主人様の師匠であると思い知らせてやります』

『大人気ないな』


 ただ、どうやら反対も無いようだし……俺の正体をバラしてみるのも、また一興か。


「———なぁ、シルフィア」

「ちょっと、私のことは師匠と……呼べって…………」


 シルフィアが声を徐々に小さくして、驚愕に目を見開く。

 何故ならば———。



「———久々の元の肉体……感謝するぞ、主人よ」



 2本の捻れた漆黒の角、大柄で筋肉質な体型に相応しい巨大な翼を生やし、傲慢さと冷静さを併せ持った50代くらいの笑みを浮かべた男。



「———お呼びして下さり誠にありがとうございます、ご主人様」



 3対の漆黒の翼と3対の純白の翼、純白の麗しい長髪に黒と白の瞳、人間離れした完璧なプロポーションと美貌を誇る……神々しさと禍々しさを同時に感じさせる美女。



「———楽しいことなら、僕も混ぜてもらおうかな」



 小さな2本の角と、他とは違う虫のような半透明の翼を生やし、身長は他の2人に比べて低く、物腰の優しそうで謙虚そうではあるものの、強大な気配を漂わせた美少年。





 ———地獄を支配する3体の悪魔が、俺の後ろに顕現したからである。





「こ、これは……」


 もはやこの世で最も危険とも安全とも言える場所になったこの場所で、呆然と呟くシルフィアに向けて口を開く。



「シルフィア、俺をその場所に連れてってくれないか?」



 俺は足を組み、机に頬杖をつきながら、ニヤリと嗤った。


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