第8話 弟子入り

「———ねぇ、どうかしら!? 私の弟子になってみる気はない?」

「えっと……」


 グイグイと顔を近付けてくるシルフィアにとりあえず曖昧な笑みを浮かべる。

 周りの視線が痛い……特に一樹からの嫉妬の視線が酷い。

 お前は取り敢えず浅倉に怒られてろ。


「……何で俺なのですか?」

「貴方に才能の片鱗が見えたからよ。貴方なら絶対良い魔法使いになるわ!」

『ご主人様の先生は私……』


 頭の中で苛ついた様な声が響いた気がしたが、今は気にしないでおこう。

 俺は自身がやらかした事を一瞬で理解した上で、思案する。


 まずこの誘いを受けるのは論外。

 しかし、ここで断れば間違いなく面倒な事が起きそうな予感しかしないのも確か。

 まあそれは受けた場合でも面倒事は起きるだろうが……果たして何方がより軽いか、と言う問題に帰結する———が。


『主人よ、時を戻そうか?』

『…………いや、いい』


 俺は首を振ってアスタロトの提案を拒否する。


 確かに面倒事は嫌いだ。

 面倒事は完璧にこなせば次から次へと新たな面倒事が訪れ、適当にやればやるで絶対に叩かれる。

 そんな損な事を何故しなければならないのか……理解に苦しむ。

 しかし、興味があることや好きなことに対して生じる面倒事なら、別に嫌いではない。


 そして———この世界の魔法使いが一体どれ程の実力であるのか、少し興味がある。

 これで後で後悔したときは……まあその時はその時考えれば良い。

 やりたいことは直ぐにやるのが俺の主義なんだ。


『ふっ……主人のその好奇心が、主人唯一の弱点かもしれぬな』

『まあ、否定はしない。だが……今の俺なら1週間までなら戻るだろ?』

『うむ、任せろ』


 そう、アスタロトが頼もしく頷く。

 アスタロトもそう言っていることだし……少し冒険してみるか。


「シルフィアさん」

「どう、決まったかしら?」


 期待に胸を膨らませているらしいシルフィアが此方に期待に満ちた顔を向けた。

 俺はそんなシルフィアに……。



「———宜しくお願いします」



 頭の中の声を無視して弟子入りを申し込んだ。










 ———訓練が終わり、部屋に戻ろうとしていた俺は、シルフィアに呼び止められた。

 その時魔法組ではなかった一樹が『何で美少女と透が……』と愕然とした様子で悔しそうに呟いていた。


『ご主人様……』

『わ、悪かったな、でも、好奇心に勝てなかった。飽きたら時間を戻すから許してくれ』

『……申し訳ありません、ご主人様。まるで面倒な彼女みたいでした』

『えー? ルシファーが面倒な彼女みたいなのって今に始まったことじゃないよね?』

『———あ"?』


 再び始まった喧嘩を無視して、俺の目の前を気分良さげに歩いているシルフィアに問い掛けた。


「シルフィアさん……」

「シルフィア師匠と呼びなさい」

『殺しましょう、ご主人様』

「シルフィア師匠、今俺達はどこに行っているのですか?」

『ご主人様!?』


 頭の中でルシファーが悲痛の叫びを上げるせいで罪悪感が物凄いが……まあ後で適当に埋め合わせをしておくか。

 流石に可哀想になってきたしな。


「今どこに向かっているのか……だったわね」

「あ、はい」


 別のことに気を取られていたせいで少し焦るが、シルフィアは特に気にした様子はなく続けた。

 

「貴方は才能があるとは言え……まだまだ魔力を扱い始めたばかりよ」

『ご主人様は既に10年以上魔力に触れております』


 …………。


「流石に貴方に直ぐに魔法を使えとは言わないわ。だから、まずは魔法がどの様な物なのか私が手本を見せるわ」

『貴方などより私の方が力量は上ですので出しゃばらないでください』

『ルシファー、後で元の姿で遊んでやるから一旦黙れ』

『はいっ!』


 頭の中で他の悪魔2人に『何とかして黙らせとけ』と命令する。

 これ以上邪魔されては気が散って余計な疑いをかけられそうだからな。


「———ここよ」


 シルフィアに連れられて来た場所は、俺が持って来た空間拡張ポーチの部屋バージョン的な所であった。

 壁も床も天井も真っ白で、真ん中にポツンと1つだけ的が置いてある。


「どう? こんなに広いなんて思わなかったでしょ?」

「そうですね……確かに広いです」


 地球には流石にこれ程の空間魔術師は居なかったなぁ……と思っていると、早速シルフィアが魔力を練り始めた。

 膨大な魔力によって発生した風で、俺の服や髪が激しくはためく。


「危ないから、少し離れて見てるのよ?」

「分かりました、気を付けます」

『……そこそこ、ですね。私の眷属の上の下程度の力でしょうか』


 ルシファーがそこまで褒めるのは珍しい。

 眷属の中で上の下以上の純粋な魔術師ならば、地球にも片手で事足りる程度にしか居なかった。


 俺の感心を他所に、シルフィアが赤い髪と瞳をより真紅の輝きに染まらせ———。



「———【フレアバースト】———」



 シルフィアの手の上で燃えていた火種程度だった炎が、的に当たると同時に一瞬にして数百倍にも巨大化し、的を中心に大爆発を巻き起こした。


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