第6話 面倒な……。

 俺達は莫大な金を盗んだ後、こうして再び召喚された部屋に戻って来ていた。


「———ここか?」

『うむ。我が時間を停めた時の主人の位置はそこだ。それにしても……随分と機嫌が良いようであるな、主人よ』

「ふっ……まぁな」


 何せ、あの『神話』とかいう本には、随分と面白そうなことが書かれてたからな……!


 俺の知識的には、異世界の神話は実際に起こったことを書き記したモノである、という認識だ。

 なので、特に『龍魔神ディストラート』とかいう半龍半魔は、悪魔使いとして是非とも見てみたいところである。


『仲間に加えるのであるか?』

「向こうが望むなら、な。俺にとって絶対必要なのはお前ら3人だけだ」

『あ、主人……!!』


 俺がそう言った瞬間、頭の中が物凄く五月蝿くなったので、取り敢えず頭を振って声を鎮める。

 しかし直ぐにまた五月蝿くなった。


「やめろ、鬱陶しい! アスタロトもさっさと時を戻せ!」

『す、すまぬ……それでは戻すぞ』



 その瞬間———世界に色と時間が戻った。



「———だからさ〜〜俺はアリシア様を狙うのはやめた方が良い気が……透?」

「すまん、どうでも良過ぎて1ミリも聞いてなかった」

「酷くない?」


 なるほど……俺が意識を外した後も一樹は必死にアリシアとかいう女について語っていたのか。

 それでは絶対後で浅倉にキレられ……もうキレられてるな、ご愁傷様。


「源太、とっととステータス見せに行こう」

「え、あ、ああ……一樹は?」

「知らん。後で浅倉と行くだろ、多分」

「確かに……な」


 今一樹と一緒に居るのは、とばっちりを受けそうなので、やめておこう。

 ところで源太……お前は何故それほどまでに意気消沈しているんだ?


 俺が首を傾げると、源太が人差し指と人差し指をくっ付けて口を開いた。


「……だってさ、アリシア様、めちゃくちゃ人気だし……俺なんか見てくれてないか……とか思って……」


 …………め、面倒臭めんどくせぇ……!


 余りの面倒臭めんどくささに俺は思わず後ずさる。


 本来ならコイツの陰に隠れてしれっとステータスを見せるつもりだったが……今のコイツと一緒に行くのは嫌だ。

 絶対ダルい。


 ということで、俺は仕方なく1人でアリシアの下へ向かう。

 アリシアの前には既に長蛇の列が出来ており……俺はざっと数えて20番目くらいか。


『ご主人様をこれほど待たせるなど無礼です。全員消滅させましょうか?』

『お前は相変わらず考えがおっかないな。絶対にやめろ。やったら縁切る』

『…………』


 俺がそう言えば一瞬で黙るルシファー。

 ほんとに暴走しやすいが、それ以上に扱い易くて楽な限りだ。


 何てぼんやりと並んでいると……俺の番が来る。

 目の前にはアリシアとか言う美少女。


「次は……」

「魔影だ。『ステータス開示』」

「ありがとうございます、魔影様」


 アリシアが俺の偽造されたステータスを確認する。


「【魔力感知:10】……」

「…………」


 ま、マズい……。


「そ、それって凄いんですか?」

「ええ……まぁ偶に物凄く感覚が鋭い人もいらっしゃるので十分あり得る範囲ですよ。カオリ様は元々魔力感知も気配感知も10ですからね」


 それって朝日奈が異次元級の化け物ってことじゃないのか?


 そんなことを思うも……結局、何事もなく『はい、ありがとうございました。良い魔法使いになるでしょう。これから頑張ってください』とだけ言われて終わった。

 少しアリシアが上から目線だったため、俺の悪魔達がキレてたが。


 何だが拍子抜けして、今までの苦労は何だったのか……と思っていると。


「魔影君、ちょっと良いかしら?」


 誰かが俺の名前を呼ぶ。

 振り返れば……ジッと俺の目を見る朝日奈の姿があった。

 一瞬、物凄く顔を顰めそうになるも、既のところで抑える。


「……何だ?」

「いえ、ここに来てから全く取り乱さなかったのはキミだけだったから……少し気になっただけよ」


 それだけで話し掛けてくんな。

 俺にとってはアリシアとかいう王女よりもお前が1番危険人物なんだよ。


 朝日奈香織。

 文武両道、性格も穏やかであり協調性もある。

 何よりその美貌は学年一……いや、下手すれば学校一とも噂される程で、正直ルシファーを除けば、コイツ以上の美少女に会ったことがない。


 そんな美少女がカリスマまであると来た。

 こんな奴に悪魔使いがバレるのは絶対に避けたい。

 最終的には受け入れてくれそうだが、物凄く面倒な予感しかしないのでな。

 しかも【魔力感知】と【気配感知】のどちらもが10とかヤバい以外の何物でもない。


「ところで……どうしてこんな状況に置かれて1ミリも動揺しないのかしら、透君」

「おい、距離を詰めるのが早過ぎないか?」


 俺が半目でそう言えば、朝日奈はクスッとと笑いながら首を少し傾げた。

 サラサラな黒髪が肩から垂れる。


「何か問題でもある?」

「……好きにしろ」

「うん、好きにするわ。それと私が透君と距離を詰めたい理由は……」


 何故か、物凄く嫌な予感がする。

 俺は苦虫を噛み潰したような表情になるのを必死に抑えて朝日奈を見ていると……朝日奈が清廉可憐な笑みを浮かべた。




「———貴方が1番、頼もしそうなんだもの」




 どうやら俺は、1番の危険人物のターゲットにされたらしい。


 頭の中で2人が祝福に騒ぎ、1人が怒号を放つ中で……頭を押さえながら、どうしたものかと小さくため息を吐いた。


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