第2話 魔王は余裕らしい

 光に呑み込まれた俺が目が覚めると……如何にも『中世のお城の中です!!』と、自己主張の激しい場所に転移していた。


 何故分かるかって?

 だって床に昔の偉い人が通るレッドカーペットが敷いてあるんだよ。

 それに無駄にキラキラな壁には何か王様の肖像画みたいなのが飾ってあるし……少し奥には階段が5段くらいあって、その上に玉座みたいな豪華な椅子が置いてあるのも、そう思った要因の1つだ。


 俺の近くには俺のクラスメイト達———計40人。挨拶以外で、俺が話したことがあるのは3割程度———が困惑の表情でキョロキョロとしていた。

 やめろ恥ずかしい。


 俺はクラスメイト達の醜態を見ないために辺りに視線を巡らせる。

 周りには召喚主であろう王女っぽい見た目の美少女と王冠を被った爺さんがいた。

 ついでに、その2人を護るように配置された数十人の騎士達も。


 俺はそんな光景を一通り眺めて……。


「———よしっ……想像通りだ……!」


 小さくガッツポーズを決める。

 軽く小躍りしたくなるが、アスタロト達に止められたのでやめた。


「おいおい……これはどういう状況なんだよ……?」

「ここ何処だよ……俺達は教室に居たはずじゃ……」

「ねぇ、あの人達誰だろう……? 日本人じゃないみたいだけど……」

「し、知らねぇよ! おい、ドッキリとかならさっさとやめてくれ!!」


 おい、テンプレみたく騒ぐなよな。

 こっちが恥ずかしいわ。


 どうやら一樹を始めとしたクラスメイト達は、現状の把握にいっぱいいっぱいの模様。

 不安がる者、泣き出す者、怒鳴る者、冷静に現状を把握しようとする者など……纏まりがない。

 そんな中———。

 


「———落ち着いて下さい、勇者様方」



 召喚主である銀髪碧眼の王女様らしき人が透き通った声で語り掛ける。

 すると、先程まであれ程落ち着きのなかったクラスメイト達が静かになっていった。

 俺が不思議に思っていると……。


『ご主人様、あの者の声から魔法を感知したのでレジストしておきました』

『そうか、ありがとう』


 俺の使役する悪魔の1人———ルシファーが言った。

 どうやら王女さんの声に精神系統の魔法が篭っているらしく、それが作用して、クラスメイト達が落ち着かせていたらしい。


 俺が多少関心していると、黒髪黒目の美少女が王女に問い掛ける。


「……ここは一体何処なのですか?」


 学年一の美少女と名高い———朝日奈あさひな香織かおりだ。

 朝日奈は警戒心からか目を細めていた。


「警戒する気持ちも分かります」

「同情とかはいいので、ここが何処なのか教えて下さい」

  

 王女の同情とも取れる言葉をバッサリと切る朝日奈に、周りの騎士とクラスメイト達が騒然とする。


 おお……随分とズバッと言う奴だな。

 王女もよくそれを言われてニコニコしているもんだ。


「……そうですね、すいませんでした。喚び出した張本人である私がすることではありませんでしたね。貴女は……」

「朝日奈香織です。カオリでいいですよ」

「カオリさん、ですね。質問にお答え致しますと……ここはアブソリュート王国です。私達は貴女様方———勇者様に、この世界を脅かす魔王を斃して頂きたいのです。魔王が斃されれば皆様は元の世界に帰ることが出来ます」

「あ、アブソリュート王国……? それに勇者に魔王って……」


 朝日奈は聞いたこともない国とアニメの様な状況に動揺と困惑をしているようだ。

 まぁそれは殆どのクラスメイト達も同じらしいが。


 対照的に……俺は嘗てないくらいに物凄くワクワクしていた。

 だってもしこの美少女の話が本当なら絶対に面白いだろ……!


 俺は興奮を抑えながら心の中でルシファーに尋ねる。


『おい、ルシファー。あの美少女の言葉は本当か?』

『全て真実です、ご主人様。それと……あの様な下等な女などより、私の方が遥かに優れた美貌を持っているかと』

『そりゃそうだが……元天使のお前と比べたら、この世の全ての女性が可哀想だろ?』


 確かにルシファーの方が圧倒的に美しいのは事実だ。

 言葉通り人間離れした美貌を持っている。


 俺の言葉に一瞬言葉を止めたルシファーだったが……『ありがとうございます』とだけ言って再び黙った。

 悪魔のくせに随分と可愛い奴だ。


『ところで……アスタロト、ちょっと一仕事いいか?』

『そう言われると思って既に未来は視たぞ』


 流石アスタロト。

 俺が1番最初に使役しただけあって、よく俺の考えが分かってる。


 俺が知りたいのは、魔王が斃されるまでの時間だ。

 これによって積極的に協力するか、全く手をつけないか決める。


『で、どうなんだ?』

『う、うむ……。観測した未来から、我らが本気で勝ちに行った場合、最低でも———』


 アスタロトが気まずそうに言った。




『———10分以内で魔王は斃せるぞ、主人』




 俺はこの瞬間、異世界を楽しむために魔王討伐に一切協力しないことを決めた。


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