第99話 思想が強い?

 

「体を調べるというのはどういう事ですか?」

「僕、南大和研究所って所で所長やってるからそれ関係でね」


断るのは話を聞いてからにするか。


「でね、カサネはさ人類の進化って言ったら何を思い浮かべる?」


話が長くなりそうな気配を感じる。まァ話を聞くのは慣れている。


「……そう、ですね……分かりやすいのは猿から今の姿になった事でしょうか。後は機械を扱うようになった事ですね」


ポケ○ンみてェな進化は現実には起こらねェからなァ。いつの時代もゆっくりと変化していくものだ。


それとは反対に産業革命で生まれた自動化の概念と、その後の電子製品の誕生は突然だったと思う。


スマホなんてここ10年くらいの開発は目覚ましいから人類の進化と言っても過言では無い……と思う。


人間自体に新しくできるようになったことは増えてな─


「─魔法を使えるようになったのは進化……?」

「そう! 僕は全人類が進化して、魔素に適合できるようにしたいんだよね〜」

「適合、ですか?」

「そう」


つまり今は適合出来てねェ人で溢れてるってことか?


「適合出来なかった人間は……変異体になっているのですか?」

「え? 違うよ?」


え?


「な、なら変異体って何なんですか?」

「変異体は魔素との適合が出来た人間だよ。でも、彼らは適合した瞬間に遺伝子に変化が起きて……簡単に言うなら癌細胞の増殖みたいな事かな。拒絶反応とも言えるね。ちなみに、変異した瞬間にショック死してるのは知ってた?」

「……テレビで一応。では、魔法が使える人間というのは?」

「遺伝子の変化はしても、体内で魔素を異物として処理しなかった人間だね。血中に新しく魔素が仲間入りするんだよ」


癌細胞に拒絶反応……異物として処理しない……仲間入り……。


「変化……いえ、進化を受け入れた人間ということですか」

「そう! カサネは話が早いね!」

「ありがとうございます」


やべェ、ついて行くので精一杯だわ。


「……そういえば、『魔法使いを増やす』のではなく『魔素に適合出来る者を増やす』なのは何故ですか? 変異体が増えてもいい事なんて無いのでは?」

「え? なんで?」

「え? ……え? いや、話を聞く限り変異体は死体なんですよね?」

「うん、そうだよ。だから変異体が増えれば魔素もこの世界により増える。そしたらその後変異体からばら撒かれる魔素でまた適合者が増える」



「えっと……オレの体を調べて魔法使いを増やそう、とかそういうのではないのですか……?」

「魔法使いじゃなくて適合者を増やしたいんだ。僕は適合出来る人が増えればそれでいいからねぇ。受け入れた者だけが生きられるのは当然でしょ?」


なんだコイツ。


「人類の進化は魔素と適合すること。その為に土台はしっかり作ってあげないと。新たな力を得て次のステージに進むことは人間達の悲願。だからこそ、人間という種族全体の底上げをするんだ。そこから変異体になるならそれは自然淘汰だよ」


思想強めじゃんね。特に言い切ってるのがマジモンだと思う。


「カサネの魔素は今まで見てきた人間の中でもトップクラス。加えてこの世界なら頂点だから、遺伝子と細胞がどうなってるのか詳しく調べればもっと適合者を増やせると思ったんだけど……」

「そういうのは自分の体でやって下さい。無駄な死体を増やすような研究なのであれば、オレは協力しません。人間の死体は食料にも向いてませんし」

「んー、残念。僕の体は普通の人間とはちょっと違うからカサネのがよかったんだけどね〜。これは2番目の男の子を誘ってみるしかないかぁ。……ところで、それが食料に向いてたらどうだった?」

「いや、その」


『どうだった?』って言われましても。


「普通に嫌ですよ? アレ食べるなら猿食べます」

「えー? 猿は流石に不衛生じゃない?」

「焼けば同じです」


なんだか緊張が解けたな。


「そういえば、なんでオレがあっちに行ったことを知っているんですか? 家族にしか話していないんですが」

「僕もあっちの世界にいた事があるからね。神様が世界同士を繋ぐ事ができるのも知ってるし。僕は性別が変わる事は無かったからそこは気になるけど、適合とは関係ないかな?」


さらっと衝撃的な事言うじゃん……。


てか石板って願いを叶える願望器的なアレとは違ェの? なんでもいいけど。


「まぁ今時書類上で性別が変わることは珍しくないから特に話題にはなってないけど、直接体を調べた研究機関では色々あったよ。全部僕がキミに都合のいいように変えておいたけどね」

「…………ありがとうございます」


何を変えたのかは怖ェから聞かないでおこっかなァ……。やべェ気配がプンプンする。国家権力とか超越してそうっていうか……。


「今回の話も、カサネに真剣に話を聞いてほしかっただけで脅しとかそういうのじゃないからねぇ。進化を受け入れた者は丁重に扱うって決めてるからさ〜」


……多分それはマジなんだろう。でももうちょっとやり方無かったか? なんでここバ先なんだよ……。家に来……それはそれでアウトか。


「……変異体を元に戻す方法とかは無いのですか?」

「適合前の姿にってこと? それなら脳細胞を治して体内の魔素を排出して、遺伝子を元の形に戻せばなんとかなると思うよ」


それなんて無理ゲー?


「わざわざ退化させるなんて僕はやらないけど、カサネにはそうしたい理由があるのかな?」

「……判別できないぐらいぐちゃぐちゃなんてあんまりじゃないですか。せめて綺麗な死体に戻してあげたいと思っただけです」

「この前会った刑事さんもそんな事言ってたなぁ……僕はあの姿も綺麗だと思うけど」


美醜感覚終わってるとかそういう次元じゃなくねェ?


「話は変わるんだけど、この国の魔法使いって全体の何パーセントだと思う?」


変わりすぎじゃねェ?


「……1%以下だと思います」

「もっと少ないよ! 0.003%、10万人に3人だから3300人くらいしかいないんだよねぇ。少ないと思わない? 変異体は5000とか生まれたのに」


……そんなに変異体って生まれたんだ。怖。


「増えるペースは上がってるけど、どうしても適合しない人はいるから残念だよね〜。なんで神様のプレゼントを受け取れない人がいるんだろうね?おかしいと思わない?折角神様が37年前からこの世界に魔素という素敵な贈り物を渡しているんだよ?」


早口で何言ってるか聞き取りづれェ……。


てかコイツマジで思想強くない? 神様って石板のことでしょ? そこら辺のカルト宗教の何倍もヤバイ雰囲気があるんですけど……?


「だから僕はいい計画を思いついたんだ〜」


おっと????


「気になる?」

「……はい」

「フフッ、まだ準備中だから今は秘密だよ♪」


指を立てて口に当てる。いわゆる『しー……』のポーズだ。


………………うん。


イケメンがやると絵になるなァ……。



「それでは行ってらっしゃいませ、ご主人様」

「また来るよ〜」


もう来ないでください〜。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る