第98話 紫色の髪?

 

朝のニュースを見ながらふと思った。


サーズだかマーズだかの病気かなんかが昔流行ったらしいが、それとは明確に違う変異症の対策は進んでるんだろうか?


スマホで適当に検索してみる。


変異症、原因、と。


『魔素が飛沫感染するように体内に入り込む、もしくは魔素を含んだ食物を経口摂取することで発症する』

『警察署が壊滅。変異症発症の原因はウォーターサーバーの水?』


……やっぱ魔素だよなァ。メカニズムも大体は解明されてるらしいが……それが合ってんのかわっかんなくねェ?


そもそも魔素ってなんなんだよ。科学的な物質って事はまだしも、肉体に変化が起きるのはマァジで何で?


解明はよ。


「もうこんな時間か」

「ん」


お父さんがスーツで大きめのリュックを背負って会社へ向かう準備をしている。


「にしても、このご時世にわざわざ電車で会社まで行かなきゃいけねェのは大変だねェ」

「ホントだよ……」


お父さん、今日も頑張れェー。


「オレは美人ばっかの職場でメイドやってるから」

「……ねぇ今度行ってい「絶対来ないで」…はい」

「っつゥか、息子が娘になってメイドやってる店に行きてェのって……抵抗とか無ェの?」

「無いね。むしろヒビキにもてなしてほしい」


控えめに言ってキモイ。


「それじゃァオレはめっちゃ抵抗あるから来ないでね。来たら出禁にするから」

「えぇー? 娘が働いてるところ、ちゃんと見たいじゃん?」

「うん、それはバイトで言うやつじゃねェから。……今ナチュラルに娘って言った?」


適応が早すぎねェ? 普通に受け入れられてんのは……いやまァ、楽でいいけど……。


「それじゃ、行ってきまーす」

「行ってらァー」



「お帰りなさいませ、ご主人様」


1名様ご案内っとね。


……あれ、この人どっかで……?


「おー、ただいま、でいいのかな?」

「もちろん、ここがご主人様の家ですから。こちらの席へどうぞ」


3月25日の午後2時頃にその男性はやってきた。


紫色の髪をした高身長イケメンだ。服装は白シャツにカーキのズボン。爽やか系? あんまりこういうコンカフェに来そうな人には見えねェなァ……。


平日の今この時間帯は暇だから席は全て空いている。


「メイド喫茶っていうからもっと派手な感じを想像してたけど、案外クラシックなんだねぇ」

「ここは心を休めるための空間ですから」


椅子を引いて座ってもらう。


「お、ありがと」

「いえ、メイドとして当然のことです。メニューはこちらになります」

「どれどれ……へー、オシャレなメニューばっかりだ。それじゃあ……この『☆風と空を感じる抹茶パフェ☆』をお願いしようかな?」

「かしこまりました」


オレが得意なやつじゃん。ラッキー。


時間もそんな掛かんねェし。



「お待たせいたしました、こちらが『☆風と空を感じる抹茶パフェ☆』になります」


自分で言っといてなんだけど、風と空を感じるってなんだろう。まァ、なんでもいいけど。


「おー、いいねぇ」

「こちらのスプーンをお使いください」

「んー……ねぇねぇ、これで『あ〜ん』とかしてくれないの?」

「申し訳ないのですが、オレはそういった事はしませんので」

「そっかぁ。なら仕方ないね」


ふわっとした人だなァ……。


軽く頭を下げて席から離れていく。


紫色の髪をしてるってのも珍しい。つってもこっちでは、だけど。あっちじゃ何回か見たことあるし、マーブルチョコかってくらいカラフルなこともあったしなァ。


魔素の影響とはまた違うんじゃねェかとは思う。それならオレも髪の色が変わってもおかしくねェし。……いや、影響を受けた上でそのままの可能性の方が高ェか。


「んー! 美味しい!」


独り言がデケェな!?


イマドキあんなのいるんだ!?


ま、まァ、美味しいって言われるのは嬉しいが……癖の強い人だなァ……。



「僕と少しお話しない?」


お話? 業務上問題ないから付き合うか。


「構いませんよ。お隣失礼します」


スカートで座るのにも慣れちゃったよなァ。


「メイドさん……だとなんか距離感あるから、キミの名前は?」

「カサネと申します」

「いい名前だね。僕は『ナル』。好きに呼んでねぇ。カサネはさ、神様……じゃなくて海渡プレートの事は好きかな?」


そういやそんな名前だったなァあの石板。


「好きとか嫌いとかでは言い表せないというか、具体的にどっちとは言えませんね」

「それは個人的な理由? それとも世間的な理由?」

「個人的に、です」


この体は嬉しいけど、アレのせいで……おかげで? ゴウお父さんはヒビネお母さんと出逢って、オレが生まれて、2人は亡くなって……だから、どう思えばいいのかすごく困るんだよなァ。


「ふーん。じゃあ、魔法についてはどう思う? キミも魔法使いだよね?」


!?


「……オレは魔法使いではありませんよ?」

「えぇー? それだけ魔素があってその嘘は無理あるよ?」


……魔素の量が分かるのか? てことは悪魔……? いや、そんなわけねェか。


「……魔法は好きです。色々と便利ですし、御伽噺みたいで素敵じゃないですか」

「だよねだよね! 分かってるねぇ! やっぱりあっちに居る間に魔法は沢山使ったからかな?」

「……何の話ですか?」

「キミの話。それとも……」


小声で男、ナルが言う。


「『神渡 日々生』の話、って言った方が伝わるかな?」


コイツ……!


「目的は? わざわざオレの事を調べたんです。しょうもない事なら警察ですよ」

「分かってるって〜。目的は、端的に言うとキミの体を調べさせてほしいんだよねぇ〜」

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