第94話 お帰りください!
オレが『神渡 日々生』であることの証明には思ったより時間が掛かった。
元々養子であることに加え、魔素の影響で肉体…特に筋肉がバグり散らかしてたのが主な原因だと思う。
まァそれはともかく、オレが俺である事は無事に証明された。普通に年越すと思ってたから驚いた。
最近の科学ってマジですげェなァ……。
問題があったのはその後だ。
行方不明だった当時ニュースにもなった高校生が1年越しに見つかったらどうなるか。
知らんのか? マスコミが寄ってくる。
「オレこんなに警察が頼もしく思えんの初めてだなァー……」
「私もよ」
「お父さんも」
「ははは……」
なんかアレだなァ、エサに群がるアリみてェだ。視聴率、そんなに大事?
こんなところに変異体が来、やめとこ。フラグだわ。
にしてもどっから情報漏れたんだ? 病院? それ以外? まァどこでもいいか。
『人の噂も七十五日』だっけか? さすがにそれよりも前にマスコミはいなくなるだろォが。
「……そろそろ帰りましたかね」
そう言って警察の人がカーテンを少しだけ開け外の様子を確認する。
「あ、もう帰ったみたいですね」
「一応テレビを……」
お父さんがテレビのチャンネルを変えていく。
それぞれの局がもう別のコーナーとかに移っている。
「もう大丈夫そうじゃん?」
「ん」
「よかった……」
「では、我々は帰りますね」
「あぁ! 今日はありがとうございました」
◆
そんなこんなで、12月20日にオレはちゃんと『神渡 日々生』へ戻れた。
で、12月23日の今日。
「お帰りなさいませ、お嬢様。こちらの席へどうぞ」
「はい……♡」
空いている席にお嬢様を案内する。
「あ、あの」
「どうかなさいましたか?」
「新人さん、ですか……?」
「はい、数日前からここで働かせていただいております。カサネと申します」
店長直伝のカーテシー。あくまで和風ってだけで、ロングスカートだから出来ることだ。
「わぁ……!」
うわォ、すっげェキラキラした目。
「メニュー表はこちらになります。お決まりになりましたらなんなりとどうぞ」
めッッッちゃ楽しい。
こんなに楽しいのはゲームをしてる時以外じゃ滅多にねェ! 最高!
やっぱ雰囲気と服がいいよなァ。和風メイド服が超カワイイ。抹茶色なのが特に。
まァこの格好だと『萌え萌えきゅーん♡』とか似合わねェけど、そこは適材適所というかそんな感じだ。
学校はどうしたのかって? 学籍、残ってるには残ってたんだが……ほら、今から高校行くと色々大変じゃん?
そォいうことだ。
◆◆
メイド喫茶で働き始めてそろそろ1ヶ月になる1月22日。
「よ、カサネ」
「こんにちは〜カサネちゃん」
「ん……シオンさん、カシワさん、こんにちは」
昼休憩中に先輩メイド2人がやってきた。
ショートカットのイケメン女子がシオンさんで、ゆるふわウェーブヘアーのふわふわ系がカシワさんだ。
メイド服のカラーはシオンさんが薄紫でカシワさんが黄色なんだが、これはそれぞれが服の色から名前を考えたからそうなっている。
オレ? オレは緑色の花とか知らねェから……なんかこう風で揺れる葉を想像して、それっぽいカザネにしようとした。でも『カサネの方がいいんじゃないかな?』と店長に言われたのでそうした。
メイド喫茶は基本的に本名など使わんのだ。
それはともかく、こんなにカワイイ女性と同じ職場で働けるとか最高。客として来るにはハードル高ェからなァ。
「仕事はもう慣れたか?」
「バッチリです、問題ありません」
「カサネちゃんまだ固いよ〜。もっとゆるゆる〜でいこ?」
「オレにゆるゆる〜は似合わねェような気がします……」
「がっつりクール系だもんな」
シオンさんはクール系じゃなくてボーイッシュか。
キャラ被りが心配だったから良かった良かった。
「そろそろ給料日か」
シオンさんがカレンダーを見て言った。
「カサネはバイト代何に使うとかある?」
「そォですねェ……ゲームと服ですかねェ」
「お、ゲーム好きなのか」
「正反対な2つだね〜」
それな。自分でもそうだと思うもん。
「2人は買いたいものとかあるんですか?」
「おう、あるぞ。ものじゃねーけどスイーツ巡りが趣味でな」
「私はパソコンのモニターを買うために貯めてるよ〜」
「なんか意外ですねェ」
「カシワはこの雰囲気でインテリ系なんだ」
「いえ〜い」
人は見かけによらねェんだなァ。
「そういや『魔法士』ってのはかなり儲かるらしいじゃねーか?」
「そうなの〜?」
「なんかテレビで色々言ってましたねェ」
月何十万らしいじゃん? オレも将来的にそこ行くかァ?
とりあえず気が済むまではメイド喫茶で働きながらゲームして勉強して、だなァ。
◆
「ちょ!?」
ん? シオンさんなんかトラブル……トラブルだわ。
周りの男性客が数人がかりで押さえているが、なんだかヤバイ気がする。
「カシワさん、通報お願いします。オレはシオンさんのとこ行きますんで」
「わ、わかったよ〜。気をつけてね〜?」
「はい」
「店長〜!」
たたたっ、と小走りでシオンさんの隣に立つ。
「シオンさん、一旦裏へ行きましょう」
「あ、ああ。通報は?」
「カシワさんが今店長に」
「わかっ─」
「─どいつもこいつもムカつくんだよ! 死ね!」
─ブンッ!
不審者を押さえていた客達が振り払われ床を転がった。
ッ! 明らかに威力がおかしい! アイツ魔力強化してやがんなァ!?
「っ、大丈夫か!?」
「シオンさん!?」
シオンさんが近くに転がってきた男性客に駆け寄っていく。
「っ!! お前ら全員死ね!」
あァ! もう!
「シッ……!」
不審者が認識できない速度で近づき、地面スレスレの体勢で足払いを仕掛ける。
「っ!? ガッ……!」
流れるように床へうつ伏せに押し付ける。
「申し訳ありません! 少し取り押さえるの手伝っていただけませんか!」
「は、はい!」
「任せてください!」
「クソッ! 離せっ!」
◆
その後の話をしよう。
不審者の男は警察に連れていかれた。
また暴れるんじゃないかと心配だったが、手錠を掛けられてからは暴れることは無かった。
頭が冷えたのか、それともオレが全力で睨みつけていたからか。
知る由もないが、まァなんとかなった。
お店は臨時休業。当然か。
「カサネ……お前、すごいな!」
「ありがとうございます。1年くらい前に習ったんですよねェ」
「すごい! いやホントすごい!」
語彙力吹っ飛んでますよ。
「シオン〜! カサネ〜!」
「2人とも、怪我はないか?」
「カシワ! 店長!」
「お客様含め、オレ達全員怪我してませんよ」
「よかった〜! びっくりしたよ〜」
「カサネ、警察から聞いたぞ。自分から向かっていったそうじゃないか」
ギクッ。
「あ、いやァ、それは……ごめんなさい」
「……反省してるならいい。あの手の輩は警察に……いや、これからは魔法士に頼れ」
え?
「「「魔法士に?」」」
あ、ハモった。
「ああ。なんでも最近、魔力で身体能力を強化して犯罪を行う者が増えているそうだ。そういった者に対応するのも魔法士の仕事らしい」
ヘェー。
「まだまだ魔法士の数も少ないのによくやるな」
「法整備追いつかなそ〜」
「怖いこと言いますねェ……」
ゆるふわ系じゃねェなさては。
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