第95話 クール系?

 

2月後半になったからといって特に生活が変化することはない。


今日も今日とてメイド喫茶で働き、今はその帰り道。


「カサネちゃ〜ん!」

「ん? あれ、カシワさんじゃないですかァ」


今日の私服もふわふわ系だ。オレも今度こういうの……似合うか? まァ1回着てみて、だなァ。試着大事。


「今日大学じゃありませんでしたっけ?」

「もうテスト終わったから来年度まで休みだよ〜」

「ヘェー、大学ってもう休みなんですねェ」


高校とは結構違ェんだなァ。


「あ、じゃァ今日が休みだから外出してるってことですかァ」

「そうだよ〜」


なるほど。


「カサネちゃんはバイト終わり〜?」

「そうでェす」

「じゃあこの後暇なわけだ〜」

「……お荷物お持ちいたします、お嬢様」

「うむ、苦しゅうない〜」


小さめのショルダーバッグを受け取って歩く。



両親に買い物に行く連絡を入れ、いざショッピング。行くのはPCパーツショップである。


「カサネちゃんは将来やりたいこととかあるの〜?」

「そうですねェ……モデル業やりてェなァ、とは思ってます」


そろそろやりてェなァ。あの感覚がどうにも忘れられん。


なんか渋谷とか歩いてたらスカウトされねェ? そんな簡単じゃねェ? ならこっちからオーディション行くか?


どの道高卒認定試験受けてからだけど。


「カサネちゃん美人だしスタイルいいし、余裕だろうね〜」

「ありがとうございまァす。そういうカシワさんもモデル業できるくらいかわいいですけどねェ」

「んふふ、ありがと〜」


ゆるふわ系モデル……いや実際にはめっちゃ地に足着いた人だけど。どちらかと言えばシオンさんの方が頭ふわふわだし。


「でも私は写真撮られるの苦手だから〜」

「あァー、カシワさんはそういうタイプでしたか。オレも昔は写真撮られんの嫌でしたねェ」

「何かきっかけでも〜?」

「中学校の入学式でお母さんに言われたんです、『形に残さないといつか忘れちゃうよ』って。そこからなんか、写真に抵抗がなくなりましたねェ」

「わぁ〜! 素敵だね〜」


信号を渡る。


「……あ、アレ魔法士の移動用の車だ〜」

「どれですかァ?」

「ほら〜あの白色でサイレンの付いてるハイエース」

「ヘェ、アレがですかァ。ほとんど警察車両ですねェ」


てかなんか髪が紫色のスーツ着てる変なやついるじゃん。その髪とスーツ似合わなすぎでしょ。ウケる。


……あ、やっべ目ェ合った。


─ゾクッ……!


!? なんだッ……!?


「カサネちゃんどしたの〜?」

「え、あ、いや、なんでもないです。行きましょ」


……気のせいか?


行こ行こ。


◆◆◆


今のオレって特にタイムリミットに追われてるとかがねェから、毎日を凄く優雅に過ごせてる気がする。


やっぱ現代の科学技術こそ至高。家でゲームして、エアコンがあって美人がいる職場で働いて、みんなでカラオケ行って、美味しいご飯を食べて寝る。


これも全部科学の賜物、ありがてェなァ。


さて、お仕事お仕事。


「お帰りなさいませ、ご主人様」

「あっ、その呼び方なんですけど……」


? 旦那様の方がいいか?


「──って、いいですか?」

「フフッ、かしこまりました」


なるほど、そういうのもあるのかァ。


「お帰りなさいませ、お兄様」


軽く微笑みながら言う。


「っ!!! ありがとうございますっ……!」

「「「!?」」」


クール系和風妹メイドたァ、いい趣味してんじゃん?


「こちらの席へどうぞ」


安心しろ、元男だからこその思考でクール系和風妹メイドをやってやるさ。



暫くして。


「お待たせいたしました、お兄様。こちら『明太パスタ 〜季節の野菜を添えて〜 』になります」


メイド喫茶とは思えないくらいちゃんとした料理で驚いたのは昔の話だ。


「こちらの紙ナプキンを……失礼します」

「お、おぉ……!」


お兄様に紙ナプキンを掛ける。あのフレンチとかで出てくるアレ。


「どうぞ、お召し上がりくださいお兄様」



『─しかし円安は留まることを知らず、現在1ドル190円を超え─』


日本経済が終わりかけてんなァ……。


マッチングの待ち時間にテレビを見ると、そんなことを言っていた。


『─変異体が日本国外でも出現したことをきっかけに、日米共同での研究が開始されました』


研究かァ。魔素の謎を解いてくれんのかなァ?


アレだ、変異症も魔素が影響してるから研究自体は早く進みそうだ。


……あ、キャラ被った。仕方ねェ、変えてやるかァ。


ランクマやんの久しぶりだが……まァ、なんとかなんだろ。とりあえず初動は生き残るの重視で。ショットガンかマシンピストルのどっちかがあったら脳死で突っ込む。



しゃァ! 勝ったァ!


モニターには『victory』の文字が大きく表示されている。


やっぱロケランしか勝たん勝たん!


『─は現在も小学校に立てこもっており、未だ犯人からの要求は、あ! 今、犯人が屋上から何かを落としました! 紙、でしょうか』


? なんか中継やってんじゃん。……立てこもり? この令和の時代によくやるもんだぜ。


テレビの左上に表示されている『LIVE』の横には『東京都・町田市』と書かれていた。


あ、町田は東京か。


ん? あれアレじゃん。魔法士の輸送車。てことは犯人も魔法使いってわけかァ。


……なァんかイヤ。オレも同じ力を持ってるわけだからなァ。きっと魔法士含め、魔法使いのイメージがこれからどんどん落ちていくんだろォよ。


政府がなんかイメージ回復を頑張るとは思う。でも、今後も悪さをするヤツは確実に増える。


新しい犯罪の形、ってわけねェ。

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