第93話 魔法士
「いただきまァす!」
─ハグハグ……!
「んー! おいひい!」
1年ぶりの玉子焼きに思わず声を上げた。
このしょっぱいのが最高なんだよなァ! と、現代の調理器具に感動を覚える。
「な、なぁヒビキ?」
「ん? 何ー?」
「その……なんだ、本当にヒビキなんだよな?」
「そうだよォ。あァー、お母さんは一発で分かってくれたんだけどなァー」
「そ、そんなこと言うなよぉ! だって、まさか性別が変わってしかも超美人になってるなんて思わないだろ!?」
それはそう。
「お父さんだってなぁ、最近ようやくここでまた暮らせるようになったんだぞ? 『人体変異症』だって落ち着いてきたとはいえまだ起きてるし、『魔素』の研究は全然進まないし、円安止まんないし─」
「ちょちょちょ、ちょっと待って! 円安はともかく……何? 『人体変異症』? あと『魔素』って言った? 言ったよね!?」
魔素!? 魔素って、あの魔素!? え、魔法使えるようになるやつ!?
「言ったけど……ヒビキ、ここ1年のこと何も知らないのか?」
「うん、何も。とりあえず先食べちゃうわ」
◆
話を聞いた。
オレが行方不明になった日から今日までのこと。
その結果。
「……おェ、ちょ、トイレ」
……吐いた。
「そ、そんなに……?」
「……ちょっと、こっちも色々あったの。もう意味わかんねェ……」
すすすーっ、とコタツの中へ足から肩まで入れていく。あったけェ……。
あの石板が海渡プレートって呼ばれてるとか、そこから魔素が溢れてるとかはまァいい。
けど、変異体だけは……ダメだろ。
だって、アレは……元々、人間で……それをオレは……食った。
美味いって言いながら、食った。
トカゲとかヘビとは明確に違う。
例え変異した時点で人間としての構造じゃなくなったんだとしても……アウトだろ……!
……あァー、ダメだ。気分悪ィ。
「ヒビキはヒビキで何があったんだ?」
「それ聞くゥ? 言っても信じるとは思えねェけど」
上半身を起こして答える。
「既に
「それもそっか。じゃァ、お母さんも一旦聞いてー。何があったか説明するから」
「分かったわ 」
◆
「いや……」
「その……」
「「割と楽しんでたね?」」
「え? うん、楽しかったよ」
美少女+異世界で楽しまない理由とかねェし?
「こっちの気も知らないで……」
「息子が娘になって冒険者したりモデルデビューしたりしてるのはなんだかなぁ……」
「オレが載ってるファッション誌見る?」
「「見る」」
テーブルに置いたそれを興味津々で見る両親。
なんか、アレだなァ。オレがいなくて落ち込んでたらしいけど、もう大丈夫みてェだ。
「ねェ、オレのゲームってまだここに置いてあんの?」
「ゲームなら全部ヒビキの部屋に持ってったわよ」
「オッケー」
「……あ、でもそろそろ警察の人が来るらしいからすぐ終われるやつにしてね」
「え、じゃァやっぱここにいるわ」
◇
『─日本政府はこの『魔法』が使用できる政府直属の対変異体機関、『魔法士』を12月13日の本日から本格的に活動を開始しています』
「うーん、魔法使いは安直すぎたみたいだね〜。魔法士……確かに国家機関ならその呼び方になっちゃうかぁ」
魔法で温まった部屋でミカンの皮を剥きながらテレビを見る紫髪の男。
「このまま魔法が使える人間が増えたら、魔法は当たり前のものとしてこの世界に定着でしょ? そうなるころには絶対に悪魔が生まれると思うんだよねぇ〜」
一房取って口に入れる。
「ん、おいしい! なかなかいいねぇ」
『─この特別待遇のような魔法士の状況に、市民からは賛否両論の声が……』
『自衛隊以外にも変異体に対抗出来る組織があるのはありがたいね。自衛隊の人も大変でしょう?』
『今新しい機関なんて大丈夫なのかなー、とは思いますね。ほら、予算とか色々あるじゃないですか』
『魔法を使えるってだけでお金を貰えるのはちょっとズルイですよね』
「アハハッ! 魔法の使えないヤツらは可哀想だなぁ〜! いつの時代もどこの世界も、守られてるヤツらはそれを当然だと思うのは何なんだろうね〜♪」
─ピンポーン!
インターホンが鳴る。
近づいて通話ボタンを押す。
「ん? はーい!」
『警察です。少しお話いいですか?』
「いいですよぉ〜♪」
終了のボタンをターンと押し、玄関まで歩いていく。
─ガチャ
「あなたに─」
「はい、キミ達も全員今日から僕の奴隷ね」
脳に干渉する特別な魔法、『奴隷化』を半径20メートルに使用する。
「『キミ達は僕の事を見つけることが出来なかった』、ね?」
「──くそっ、もうここにはあの男はいなかった! 悔しいが帰るぞ」
「「はい!」」
うんうん、お利口さん。
「仕事頑張ってね〜!」
ブンブンと手を振って帰っていく警察を見送る。
「さて……ん?」
─ゴオッ!
「『──』」
男を目掛けて飛んできた大きな火球を、まるでシャボン玉を割るかのように消し去った。
「なっ!?」
「お!? 今のもしかして魔法士?! よっ─と」
近くのマンションの屋上に転移した。
そこには数人の魔法士がいた。
「!? 瞬間移動!?」
「ありえない!」
「目の前で怒ってること否定しちゃダメダメ。すごいでしょ? 僕の得意な魔法。それで、キミかな? さっきの火球は」
少し息を切らしている青年に指を指して問う。
「お前! 刑事さん達に何をした!」
「いやぁ、この前まで魔法を知らなかった人間からアレだけの火球が飛んでくるとは思わなかったなぁ! すごいよ!」
「答えろ!」
「あ、でも郊外とはいえ人がいるところで使うのは感心しないなぁ。ねぇねぇ! 他のキミ達はどんな魔法が使えるの? 電気系? それとも物質系? ほら早く僕に教えてよ!」
「リーダー! コイツやばいよ!」
「逃げられる前に無力化しましょう」
「わかった! 戦闘開始!」
「ん? 戦うの? いいよ、キミ達魔法士の実力は知っておかないとね〜」
ふふっ、『奴隷化』の魔法を見てるのに向かってくるなんて思わなかったよ。面白いね。
◇
『─魔法士が活動を開始してから、変異体による被害は大幅に減ることとなり─』
「ヘェー」
「ヒビキは魔法士をやろうとかは思わないのか? 実力的には余裕なんじゃない?」
「うん。だけどさァ、それより先に高校卒業した事にしたいんだよねェ」
「……卒業認定試験があるのっていつだっけ?」
「8月。だからこうやってゲームしてんの」
「そ、そっか」
にしても、メガ○ンシリーズをやんのは初めてだけど予想以上に面白ェわ。
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