第90話 砂漠の国?

 

夜の砂漠……寒すぎねェ?


─ビュオォォォ……!!


「……クシュンッ!」


ほわァァ!? 風がッ!?


現在12月7日の午後10時頃。昨日は列車でここ『砂漠の国』の入り口……というか砂漠化が進行している駅まで来れた。


だが、そこからは歩きである。


いやね? これが春か秋ならラクダとかで移動させてくれるやつがあるらしいんだけど……ほら、今冬じゃん?


金にならないならしねェって事だ。



月明かりの少ない夜の砂漠を懐中電灯片手に『氷塊』のスケートで疾走する。


このまま目印の看板に沿っていこう。そこそこの間隔であるから迷うことはねェ。


『氷塊』を使ってる間は温まるから楽だ。


にしても、周りに植物がほっとんどねェ。サボテンも─


────!


……? 揺れたか?


気のせ、っと。


地面がぐらついて一瞬バランスを崩した。


揺れてんなァ。近いなァ。なんかヤだなァ。


砂漠でデカイ揺れってなんと、地下から巨大な生物だか機械だかが活動してて的なのを想像するわ。この世界だと生物だと思うけ─


─ドォォォォン……!!


突如、目の前に砂の間欠泉が上がった。


ちょストップゥ!


氷から降り滑るのを止める。


爆発かァ?! もう少し進んでたらモロにくらってたぜ……。


─ザァァァァ……!


やっべ砂がッ!


「『氷塊』!」


押し寄せてくる砂を地面から押し上げた氷の足場で回避した。


『ろ、ろ、ろ……』


マジ? 砂漠にもいんの?


暗くてよく見えないが、さっきの砂が吹き上がったところにいるのは多分アイツだ。


─ジッ……!


左の足首に細い触手が巻き付く。


「!?」


引っ張られて氷の足場から落下しながらも、いつもの短刀で触手を斬り落として体勢を整えて着地。


危なッ!? 全然見えなかったんだけど!? ていうかちょっと足痛ェ……。


というかこの距離で触手が届くってサイズどうなってんの!?


かなりデカイのは分かるが、もしかしたら今までのヤツより何倍もあんのでは……?


右手の懐中電灯のスイッチで光の強さを上げる。


車のハイビームのような光が夜の砂漠を照らし、巨大な触手の異形が露わになる。


『るる、ええい、らら、らるら!』


でッッッか。ファミマ4軒分くらいねェかァ? 縦積みで。


─バシッ……!


「ッ!?」


吹き飛ばされて何度も跳ねながら地面を転がる。


左の脇腹に衝撃を感じたと思ったらッ……! いつの間に、かッ! 強化間に合って良かったぜ……!


『浄化』で砂を落とし『回復』で傷を治す。


全く、なんで狙われてんですかねェ……。野生動物ってのはこれだから面倒なんだよなァ。


刀を仕舞い左手で懐中電灯を持ち、『リンカルス』を右手に取り出す。


懐中電灯持ちながらだとこっちのがリロードしやすいからなァ。


まずは一発。


─ダァン!


『えああ、らら、ら、れれ……』


効いて……いやそもそも当たったかァ? ゲームじゃねェからヒット音が無くてわからん。HPゲージ用意してくれ。


辺りの砂が舞い上がる前に氷塊のカーペットを敷く。


─パキパキッ……!


1回くらってるからなァ、油断も手加減もしねェ。


確実に殺す。


絶対に殺す。


そんで食う。


「『熱線』」



「──ごちそうさまでした」


……普通に『熱線』ハメで大丈夫だったなァ。


血でベッタリと汚れた全身を浄化し、また走り出す。


全部は食べきれなかったわ。


◆◆◆


3日後の朝に『砂漠の国』へ着いたオレは、初めて自分だけで宿を選びそこで過ごしていた。


町並み? マジで砂漠の町って感じ。エジプトというか、アラ○ン? だっけ? まァあんなんよ。彩度低めの建物が多い。


そんで今は、アサラト街という場所にある飲食店で夜ご飯中だ。


まだかなァ〜?


「おい、聞いたか?」

「何をだよ」

「ヴィーナー巨岩地帯にまた変な石板が現れたらしい」


……!?


「またかよ。この前もなかったか?」


……今『石板』って言ったよなァ!?


美少女スイッチオン!


「ちょ、ちょっとそれって本当ですか?!」


グイッと後ろの席へ身を乗り出す。


「お、おぉマジだよ。ほらコレ」


おじさん達がいる席まで移動。机に置いてある夕刊に石板の写真があるのを確認した。


マジじゃん!


「あ、あのっ! 『ヴィーナー巨岩地帯』って何処にありますか?」

「え? あー、どこだっけ?」

「東南の方だろ? 80キロ先へ行ったところにあるはずだぞ。嬢ちゃん、石板に興味あんのか?」

「はい! とってもあります!」

「やめとけやめとけ! この『砂漠の国』だと、アレの近くに怪物が出んだよ」


怪物……触手のアイツか?


「そう、なんですか……。私、魔法使いなんですけど、それでも危ないですか……?」

「それは……」

「うーん魔法使いなら……なんとかなる、か?」

「怪物の数にもよるだろ」


まァそうか。


「分かりました、ありがとうございます! 情報代はここの食事代でいいですか?」

「いやいや、女の子に金は出させらんないよ!」

「そうだぞ嬢ちゃん。おじさん達は君みたいなべっぴんさんと話せるだけで楽しいんだ」

「じゃあ、もっと話しましょう!」


とりあえず今は全力でこの国の雰囲気を楽しもう。


石板の場所にはまた明日だなァ。


……長い寄り道。それももう終わる、かァ。

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